2.終わる、日常

家に帰ると母の仏壇の前に座って、朋香は今日のことを報告した。

……お母さん、私、突然だけどお嫁に行きます。


目を開けると相変わらず写真の母は幸せそうに笑っていた。


母の和子は父のことが大好きで、一緒にいられるだけで幸せだといつも笑っていた。

朋香にもそんな人を見つけるように云っていたが、約束は守れないらしい。


朋香が高校生の時に事故で和子を亡くし、それ以来、父である明夫と朋香、それに弟の洋太の三人暮らし。


洋太はこの春、大学を卒業して近くの別の町工場で働いている。

しばらくは修行、ということらしい。


 

冷蔵庫を開けながら考える。


……食材、整理しとくべきかなー。

だいたい、私がいなくなったら、ごはんどうするんだろ。


心配は尽きない。


掃除だって洗濯だって、和子が亡くなってからは朋香が一切をやってきた。


亮平を連れてきたあと、さすがに朋香に全部まかせっきりではまずいと気づいたのか、気が向いたときは自分たちでするようにはなったが。


男ふたりで荒れ果てた家の中を想像して、朋香は気が重くなった。


「ただいまー」


「おかえりー」


晩ごはんの準備をしつつ、残っている食材でできる常備菜を作っていると、洋太が帰ってきた。


「あれ、親父は?」


「もう帰ってくるんじゃない?

先、お風呂入れば?」


空の弁当を受け取って流しに浸け、調理を再開する。


しばらくしてドタバタと騒がしい足音に振り返ると、洋太が腰にタオルを巻いただけで立っていた。


「姉ちゃん、シャンプーの替え、どこ?」


「あー、もー、拭いてこないからー」


洋太を浴室に追いやりながら、濡れた廊下を拭いていく。


「洗面台の右の棚、一番上。

そこにあるはずだから」


「サンキュー」


台所に戻りながら苦笑いしか出てこない。


調理を再開しようとすると、帰ってきた明夫が勝手にナスの煮浸しを摘みながら、ビールを飲んでいた。


「お父さん」


「すまん、つい」


いつも通りの明夫のほっとしつつも、やはり明日からが心配になってきた。

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