3.弟の気持ち
食卓に着くと思いがけないごちそうに洋太は驚いていた。
「今日なんか、いいことでもあったの?
あ、例の契約打ち切りがなくなったとか?」
「あー、うん。
それもあるけど、結婚したんだよねー」
「はぁっ!?」
父親譲りの洋太の糸目が、人並み以上に見開かれる。
意気揚々と掴まれた唐揚げは、箸からぽろりと落ちた。
「どういうこと!?
なあ、親父!」
「それは、その。
……なあ、朋香。
やっぱり」
やはり、朋香が帰ったあとも明夫は社員たちに詰め寄られ、朋香の結婚取り消しを説得されたようだ。
「くどい!
もう決めたことだから」
経営や技術は頼りになる明夫だが、この件に関しては動揺しっぱなしで頼りにならない。
溺愛してきた娘がいきなり契約結婚、となるとそうなるのも無理もないかもしれないが。
「どういうことなんだよ、姉ちゃん。
俺にわかるように説明して」
「どうもこうも。
契約継続とこの先の融資の代わりに、押部社長と結婚しろって。
もう、婚姻届にサインしちゃったし」
明夫は黙ってビールを飲んでいる。
洋太も一気にビールを煽った。
「だいたいなんで、姉ちゃんとの結婚が条件なわけ?」
「知らない。
決まったことって云われた」
「姉ちゃんはそれでいいのか?」
「まあ。
よく考えたらすごい玉の輿だよ。
乗っといて損はないでしょ」
「ねーちゃーん」
洋太にジト目で睨まれるとさすがにたじろいだが、朋香も負けずに睨み返すと、はぁーっと大きなため息をつかれた。
「親父はいいわけ?
姉ちゃんが押部の野郎なんかと結婚して」
「……朋香が決めたことなら仕方ない」
背中を小さく丸めてしまった明夫は急に年を取ってしまった気がする。
「ごちそうさま。
つまみ食いしすぎたかな、腹がいっぱいで」
箸を置くと、明夫は席を立って茶の間に行き、テレビをつけた。
「あー、もう、よくわかんねー!
寝る!」
ガタン、乱暴に椅子を立つと洋太も自分の部屋に行ってしまい、ひとり残された朋香は深いため息を落とした。
……最後のごはんくらい、三人で仲良く食べたかったんだけどな。
残ったおかずにラップをし、冷蔵庫にしまう。
作った常備菜は冷蔵と冷凍にわけ、賞味期限やアレンジレシピを書いたメモを冷蔵庫に貼っておいた。
片づけを済ませると米をとぎ、明日の弁当の準備をする。
最後の弁当だから、ちゃんと入れたい。
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