4.契約打ち切り
……明日の会議の茶菓子は、レモンケーキでもいいかな。
私も食べたいし。
そんなことを朋香が考えていると、ドタドタと騒がしい足音ともに、バン! と破壊も辞さない勢いでドアが開いた。
「社長!」
大慌てで入ってくる西井に既視感。
ほんの一週間ほど前にもこんなことがあった気がする。
「オシベから契約打ち切りって通告が!」
「だからー、川澄部長がそんなことはないってこのあいだ……。
は?
通告?」
糸目で普段、開いてるんだか開いてないんだかわからないと云われる目を珍しく人並み以上に見開いた明夫の目の前に、西井は一枚の紙を差し出した。
それを読み進めるにつれて明夫の顔は青く白くなっていき、紙を握る手は小刻みにぶるぶると震え始める。
「とりあえず一度、話し合いの上とはなってますが。
これは事実上の打ち切り通告です」
「そ、そんな。
だってこのあいだ、川澄部長は」
「騙されたんですよ。
オシベのやりそうなことです」
がっくりとうなだれてしまった明夫の頭髪が、急に淋しくなった気がした。
朋香がこのあいだ感じていた不安は、気のせいではなかったのだ。
「どうします?
値下げ交渉は一応してくるでしょうが、こっちとしては応じられない金額でしょうね」
「……そうだな」
父の工場が潰れる。
そんな危機なのになにもできない自分を悔しく、夜遅くまで続いた幹部会議をただ朋香は見ていることしかできなかった。
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