第20話 はじめようか!
ギルドに寄り、俺たちのザックリ見解のレポートを、受付を通してカロルさんに渡してもらうように頼んで焼き豚を買って宿屋に帰った。
宿屋では俺が長期滞在しているのと、マールと仲良くしているということでかなり優遇してもらっている。米がいい例だ。
マールの奴親父さんに俺が米が好きだって教えたな。焼き豚をマールの親父に渡したら、焼き豚丼になって返ってきたぞ。主食がパンの国で、米が出るなんてそうはない。気を使ってくれたんだろう。
そんなこんなで、マールとパーティを組むと伝えたらお祝いだと追加でデザートがでた。
プリンとかいう卵のお菓子らしい。弾力が魅力的で、甘いがほろ苦いカラメルと一緒に食べると丁度良い甘さになる。「うめぇ」とバクバク食べてたらノアールに「鳥のたまごですよ」と厭味を言われた。
うるさいお前も食え! とノアールにも食べさせてやると「……これはなんとも癖になるものですね」ともっとよこせと催促された。共食い……。
そうして次の日も、また次の日も図書館に行っては歴史の本を漁ったり、魔導書を読んだり、レベル上げのために依頼を受けたりして過ごすこと一ヶ月。
「ねぇライル」
「んーちょっと待って、今この陣が完成すればあれがこうで空も飛べるかも……」
「それは心惹かれるけど、そろそろパーティの正式登録しないと。あとカロルさんが僕たちを呼んでるって」
宿屋の食堂で本と紙に向かって、ペンを持って睨めっこしてた俺にマールが言う。
「あー……パーティの仮登録一ヶ月までだっけか」
「反りが合わない人たちもいるからね。カロルさんも呼んでるし、ついでに登録してこようよ」
「……実を言うと名前考えてないんですよ」
「いっそ『ライルパーティ』にしちゃえば?」
「やだよカッコ悪い」
「とりあえずノアール呼ぶか」と宿屋の手伝いをしていたノアールを呼んできて(宿代を安くしてもらうかわりに手伝いをしてた)マントを羽織る。
「マスターそろそろそのマント変えませんか? ボロボロですよ」
「うーん。二百万Eはまだ手を付けてないし、この際全員の装備揃えるか?」
「いいね! ノアールちゃんのコーディネートは任せてよ!!」
「ぶれない変態……俺のもよろしくなー」
「俺は名前を考える」と脳みそをフル回転させて思いつく限りの語彙を上げては消して行く。
ネーミングセンスがない俺にやらせるもんじゃないぞ。マールかノアールがやってくれよ。でもコレはパーティリーダーの務めだからとか前に言われたな。
リーダーなんて俺向いてないから。魔王ですら向いてなかった俺にどうしろと。 あーむーりー!!
なんて歩いていたら、辿りついちゃったギルドマウンテンペアーの町支部。
一ヶ月前に、マールから貰ったパーティ申請用紙と睨めっこして、「南無三!!」と汚い字で書き、受付にドンッ! とギルドカードと共に勢いのまま提出。
「リリィさん、パーティ申請、お願いします!」
「はい、やっと正式登録ですねライルさん」
「確認いたしますね」と受付のエルフ、リリィさんが申請用紙に不備がないか確認し、頷いた。
「はい、確かに。パーティ名『Re/スタート』受付完了致しました。これからの活躍、大いにきたいしております」
「ギルドカードもお返ししますね」とギルドカードを返却されて、パーティチームの証を作ってくれという説明を受けて受付は完了した。
証というのはそのパーティチームの目印らしく、ギルドカードや個人の持ち物に刻むそうだ。
拠点にしている宿屋にも証を置いて依頼主がパーティの居場所を知りやすいようにしたり、チームがバラバラになった時も持ち物で分かるようにしたり、色々と利点はあるらしい。
有名どころの証だとロッソパーティは炎を象ったものだそうだ。
……また面倒臭い問題が発生した。俺センス皆無なんだけど。
「『Re/スタート』か、いいんじゃない?」
「でもなんでこれにしたの?」と聞いてくるマールに
「俺の都合で申し訳ないけど、俺は一度止めてたものを再び始めた。そんな感じだから『再起』って言葉に意味を込めて『Re/スタート』にしたんだ」
「悪いな、俺の都合で」と謝ればノアールは
「私もマスターに拾われて、再起しましたから同じです」
というし、マールも
「僕も一度は辞めた冒険者をまた始めたから、同じだよ」
と言う。
いい奴ら過ぎるだろお前ら。
「それじゃあ、パーティ『Re/スタート』これからよろしくな!!」
「よろしくお願いします」
「よろしく!!」
「で、問題の証なんだけど……」と言えば「僕が考えてみるからちょっと待ってて」とマールがウインクした。イケメンがウインクすると周りから黄色い悲鳴があがるんだな。よくわかった、イケメンこわい!!
*
で、カロルさんに呼び出しをくらっていたので、受付の横を通り過ぎて豪華な扉の近くにある普通の扉を三回ノックすれば「入っていいぞー!」とカロルさんの元気な声が聞こえた。
言われるがままに部屋に入ると、ひんやりとした空気と、熱気を同時に感じた。
なんだこの冷気と熱気という対極のものが同時にある感覚は。
顔を上げれば、大きくガタイのいい熱そうな男と、隣には涼し気な女の人。そしてカロルさんが「きたきた」と笑っている。
「ロッソさんにシーニーおば、……姉さんじゃないですか」
「お帰りなさい」とマールが言う。
え、知り合いなのこの無駄に魔力の圧力がすごい人達と? 普通魔力って抑えて隠しておくものをこんな盛大に溢れさせてる人たちと?
「ライル、紹介するね。僕の叔母のシーニーと、その旦那さんで炎の剣神と呼ばれているロッソさん。で、ロッソさん、シーニー姉さん。この人はライル、僕の所属しているパーティ『Re/スタート』のリーダーと、その使い魔であるノアールちゃんだよ」
「はじめまして、ライルといいます」
「初めまして、私ノアールと申します」
「今後もご贔屓に」というノアールに「遅れを取ったー!」と脳内でのたうち回っていれば、圧迫している魔力が緩んだ。
「ふむ、俺たちの魔力に気圧されない。面白いなライル! ノアール! 気に入ったぞ!!」
「それよりもマール、いつの間に冒険者に戻ったの。もう二度とパーティには入らないといっていたのに。それだけの子ということかしら?」
「こらこら。お前ら少し落ち着け。悪いな三人とも」
「こいつらさっき帰って来たばかりでな」と苦笑するカロルさんについていけない俺がいるのですが。
「ほら、ライルお前言ってたろ。剣術習いたいって。それをロッソに頼もうかと思ってな、話をしてたんだ」
「え、剣神にお願いしたんですか」
「おう。俺の古い友人だからな。で、ロッソ。ライルに剣術教えてくれるな?」
「いいとも。俺の魔力に気圧されなかった奴は久々だからな!」
「たっくさん痛めつけてやるよ!!」とガハハハッ笑うロッソさんに頬を引き攣らせていると、シーニーというマールの叔母さんが俺とノアールを上から下まで見て、首を傾げた。
「マール、この子のどこに気に入ったの? 魔力も少ないし、使い魔の方が強いわよ?」
「それはライルの本気をみてないから言えるんだよ、シーニー姉さん」
「あら、それじゃあ私と魔法勝負しましょうか」
「え、遠慮します……」
無理無理と首を横に全力で振れば、シーニーさんは「残念」と興味が失せたように俺から顔をそむけた。それにむっとしたらしいノアールが
「マスター、受けてくださいよ」
「嫌だよこわい。凍らされる確実に」
「あら、あの熱気の魔力の中で、私の魔力の冷気に気づいたわね」
「一応マールが認めただけはあるみたいね」というシーニーさんに「はははっ」と笑いしか出ない。やばいめっちゃこわい巨乳だし。巨乳にはもう苦手意識しかない。勇者のせいですね!!
「で、ライルどうする? 俺は今からでも剣術指南してもいいが」
「あー、マールはどうする?」
「僕も少しシーニー姉さんに魔法習いたいから、別行動でいいよ。パーティの証も考えておくから、とりあえず今日は別々に動こうか」
「了解。んじゃ、マール。頑張ってな」
「ライルとノアールちゃんもね」
「はい、頑張ります」
俺とマールは拳と拳を合わせて、ノアールは翼を上げて互いの健闘を祈った。
死なない程度にお願いしたいという気持ちは、二人と一匹の中の共通の願いだ。
「んじゃライル、行くか」
「はい! あ、カロルさん。魔物の動向は?」
「お前らに言われていくつかのパーティで山に登るつもりだよ。お前も参加したかったら強くなれ」
「了解でーす!」
「待ってくださいロッソさん!」と俺とノアールはロッソさんの後を追いかけ、マールはシーニーさんとどこかにむかった。
* * *
シャラン、シャラン、音を立て、魔法陣の上に浮かぶ魔力石の前に座り込む一人の女性。
白い小袖に、緋色の袴。
薄い裳を纏い、くるぶしには鈴をつけ、黒き長い髪を低い位置で一つに結ったその姿は、古代より伝わる巫女の正装。
紅で色づいた口元から紡がれる言葉は、古代のうた。
しかし、ドンッ! と強く弾かれて、巫女が反動により後方へ飛ばされる。
「巫女様!」「神巫女様!!」と神官たちがざわつき、駆け寄ろうとするが、巫女と呼ばれた女性は手を上げそれを制す。
よろりと立ち上がり、神巫女は言った。
「神気が足りませぬ。この町で一番多い神気の持ち主を連れてきてください」
** *
「で、坊主。剣と言ってもナイフやらショートソード、大剣、色々あるが、どれがいい?」
ロッソさんに連れられてきたのは武器屋だ。
俺もマールも魔法が主戦法で、前衛がノアールしかいない。これを打破するために俺が剣を学んで前に出るという寸法だ。
「うーん、どれがいいんですかね?」
「坊主はどんな感じで戦いたいんだ?」
「前衛で、先制攻撃に向いてる感じで、突きで仕留められればいいんですけど、ある程度の間合いも欲しいし、重すぎるのもなぁ……」
「随分よくばりだな、これなんかどうだ?」
「東側の武器らしいが、あまり重くなく、間合いも取れる。突きや斬ることに特化したものだそうだ」とロッソさんが渡してきたのは、俺の故郷にもあった『刀』だ。久々にみたなこの形。
「坊主の故郷の剣じゃないのか?」
「……なんでわかったんです?」
「俺の師匠が東側出身でな。お前と同じ黒髪だった。」
「東側の人間はあまり中央にこないからな、珍しいんだぞ」というロッソさんに「へぇ」と言う。
色々初耳だ。
元々黒髪は珍しいが、獣人やエルフなどの人たちに紛れると意外と目立たないからだ。やっぱり知らないことはまだまだあるな。
それに、この刀。随分柄の紐がボロボロだけど、前に使ってた人がいるのか? と店主をじーっと見つめれば、バツが悪そうに「友人との賭けで勝った時の報酬でな」とネタバラししてきた。
「んじゃこれあとで取りに来るんじゃねぇの?」
「あぁ、そりゃないよ。俺も長生きしているが、賭けに勝ったのは確か五百年前くらいだったかな、若い時だったからねぇ」
「……随分長生きだなおっちゃん、エルフか?」
「そうだよ。エルフは七百年は普通に生きるからな。流石に魔王時代を知っている奴はもういないがなぁ」
「そこのロッソさんもエルフだぞ」と武器屋のおっちゃんに言われてバッ! と振り向けば「そうは見えないとよく言われる」と苦笑していた。
そりゃそうだ。身長が高く、太い首に腕、足、何処からどう見ても耳を失った獣人か、鍛えあげた人間か、身長が偶々でかくなったドワーフだ。エルフは大体線が細い美しい人が多いからな。
「ロッソさん、お歳はいくつなんですか?」
「六百は越えたな、たしか」
「お、おぉ……」
「マスターは人間ですからね、驚くのも無理ないでしょう」
「ノアールはカラスだろ? 何年生き、あー契約者が死ぬと一緒に死ぬのか。それ無しな」
「む。私はマスターと共に行きますが」
「そういうのは駄目ですー。おっちゃんこの刀くれ」
「毎度。お前さんなら使いこなせそうだ」と笑いながら刀を売ってくれたが、少し、顔が寂しそうだった。
*
ギルド所有の練習場についた俺とノアール、ロッソさんは荷物を置いた。ノアールは見学ということで荷物番だ。
「と、言うことで。俺は今から一週間、坊主にみっちり剣とは何かを教える。ただし基礎だけだ。俺と使う剣が違うからな」
「ちなみにロッソさんは大剣ですよね、その背に背負ってる」
「そうだ。俺の剣は『ファイヤーソード』炎を纏いし剣だ」
「……まんま過ぎません?」
「簡単が一番だろ。頭を使うのは苦手なんだ」
「……ということは、俺の剣も感覚でとか……?」
「そうだ。実戦で覚えて行け、いくぞ!!」
ドンッ! と地面を蹴り飛び出てくる。
げぇっ! しょっぱなからからですか!? とっさに魔法を使いそうになって「魔法は禁止だ!!」と怒鳴り声を上げられる。
そりゃそうだ。剣術の練習だもんな!!
発動させようとしていた魔法を消し、ギリギリで剣筋を避けて間合いを取る。
買ったばかりの刀を両手で握り、喉元に切先がくるように構える。昔、本で読んだ構えだ。あってるかどうかは知らないが、まずは接近戦の間合いの取り方を把握をせねば。
この剣神の攻撃が直撃してみろ、骨が折れるだけですめばいいがな!!
「逃げるだけじゃ練習にならねぇぞ!! 突っ込んで来い!!」
「はい!!」
ロッソさんが構えを解き、両手を広げた。手加減してくれるのはありがたいが、それでも隙が無いってなんだよこわいな!!
考えてもしかたがない、とりあえず一発喰らわせようと前に飛び出す。と、すぐに大剣が横に。
「ぐっ!!」
大きく打ち吹っ飛ばされて転がり倒れ込む。受け身をとる余裕も無かった。
「ガハハハッ!! 遅いぞ!!」
とロッソさんは笑っている。斬るだけじゃなく人を打ち返すってそんなのありかよ……剣幅の広い大剣だからなせる技だな。
くっそ、魔法に頼ってた罰ですか。そうですか!? と口の中に入った土を吐き出しながら立ち上がる。こりゃ今日中に一発当てられるかも不明だ。
さて、どうするか。懐に入っても打ち返される。ならば背後か? いや、速さ的に負けてるから追いつかれるだろう。……うん、詰んだ!
「ロッソさーん」
「お、もうギブアップか。早すぎんぞ」
「さーせん。とりあえず素の身体能力じゃロッソさんに一発も当てられないので魔法許可してください。元々魔法と組み合わせで使うつもりだったので」
「駄目だ」
「だめっすか」
「駄目だ。基礎どころか刀を持ったばかりの奴が、魔法と組み合わせられるわけねーだろ。ほれ、木刀だ。これで素振り千回な」
「ド基礎!?」
「あったりめーだろうが。とりあえずお前に刀が向いているかどうか調べただけだ。向いてそうだから素振りからやるぞ」
「まじかよ、千回……?」と木刀を受け取り茫然としている俺に対し、ロッソさんが「魔法効果無しであの速さかよ……」なんて言っていたのをノアールだけが聞いていた。
と言うことではじまった剣術訓練は、素振り、構え、刀の手入れまで基礎を叩きこまれた。一週間でだ。
なんで一週間……? もうちょっとゆっくりでもよくない? とヘロヘロになりながら宿屋に戻ることを続けていた。ちなみにマールもよろよろと「ライルもしごかれてるね……」と帰宅していた。
マールはシーニーさんに魔法を習っているらしいが、夫婦そろってスパルタってなんなの……。
そんなこんな、筋肉痛に悩まされながらも一週間やり遂げた俺は「まぁ、基礎はこんなもんだろ」と合格点をもらいました……一週間詰め込まれた。と地面に倒れ込めば、ノアールが「頑張りましたねぇ(魔王のくせに)」と褒めてくれた。
ノアールめぇ、俺がヒィヒィ言っている時に寝てやがって……かといってノアールは既に高レベル。何をどうするにも、まずはマスターである俺がレベルアップしないと話にならないから、しょうがないといったらしょうがないけど……!
「ロッソさん、何でこんな一週間強化合宿を……」
「あ? あぁ、明日魔王の封印を確かめに行く調査隊が出るんだ。お前らもそれに参加させたいから間に合わせろって、カロルの奴に言われたんだよ」
「めっちゃ考えてたんですね……カロルさんが」
「おう。俺は頭は使えないからな。あと坊主、お前考えながら戦うのはいいが、それで動きを止めるなよ」
「一瞬の隙が命取りだからな!」と完全に勘で、肉体反射的に動いているんであろうロッソさんに言われても困るぅ……とうな垂れる。
俺に刀での接近戦は難しい、ちょっと戦い方考えないと……。
今日も今日とて、フラフラーと宿屋に帰れば、机に突っ伏しているマールを発見。ちなみにロッソさんは「カロルのところに寄ってくる。明日は朝の鐘六つにギルド前に集合だぞ!!」と元気よく去って行った……元気良すぎだよ、エルフってみんなそうなの……?
「ノアール、マールを癒してやれ」
「はいはい」
「マールさん」とマールの元へノアールを飛ばしてやれば「ノアールちゃん!?」と元気に飛び起きたマール。ノアール効果は抜群だ。
「お疲れマール。お前も今日でしごきは終わりだろ?」
「やっとだよ。思っていた以上にシーニー姉さんが本気の顔で死ぬかと思ったね……」
「俺も一週間でこんな詰め込まれるとは思ってなかった……あ。明日の調査隊の話は聞いてるか?」
「聞いてるよ。でも僕は教会に呼び出されてるから、ライルとノアールちゃんだけ行って欲しいんだ」
「なんでまた?」
「ほら、魔法石が壊れたっていったろ? 何でも直すには魔力が多い人が必要だって神巫女様が言ってるらしくて、そのせいもあって僕の魔力を底上げしてたんだけどさ……」
「神巫女様?」と首を傾げる俺にノアールが「教会のトップですよ」とこそっと教えてくれる。え、教会なのに巫女なの? とまた首を傾げる。あとで調べよ……。
「ではマールさんは魔力が多いので行くということですね?」
「そうそう。これでもこの町で一番魔力多いんだよ僕」
「イケメンでレベルとギルドランクも高くて魔力も多いってナニソレこわい」
「僕はライルの方が凄いと思うけど。使い魔もいるし」
「お二人とも無いものねだりですね」
「人とは難しいものです」とノアールが上手くまとめたので、俺とマールは「そうだな」と笑い合う。
人ってのは時に他人が持っているものを欲しがる。強欲というか、なんというか。それがいい方に働けばいいのだが、強欲は大抵悪い方にしか働かない。そんなもんだ。
「んじゃ明日まで別行動だな」
「そうだね。あ、そういえばパーティの証作ってみたんだけどさ」
こんなのどう? と、マークが描かれた紙を見せられる。
翼のような絵に五芒星が囲われるように描かれたマークだ。翼はノアールだろう。だけど何で五芒星? 現代魔法で詠唱して勝手にでてくるのは六芒星なのに。
「マールさん、何で五芒星なのですか?」
「よくぞ聞いてくれましたノアールちゃん! 五芒星なのはライルが『魔除けの意味もあんだぞー』って言ってたから悩んだ末に五芒星にしました!」
「そいや五芒星は魔除けの意味もあり、六芒星は力の増幅的な意味合いがあるって言ったけど、よく覚えてたな」
「うん、五芒星は結界魔法でよく使われるんだ。教会にも描かれているよ。ライルもよく使っているし、このマークを『Re/スタート』の証としていいかなとおもったんだ。……どうかな?」
「いいんじゃね? 俺センス皆無だけどカッコイイと思うぞ」
「私もいいと思います。しかし翼は私ですか?」
「それはノアールちゃんと、再び羽ばたくという意味で翼にしたよ!」
「じゃこれで登録しようね!」とイケメンスマイルがまぶしいですマールさん。
しっかし疲れてる時によく考えてくれたな。と労えば「こういうのは好きなんだ。寧ろ疲れた時にやると捗る」とか真顔で言うから、「とりあえず夕飯まで寝ろ」と部屋に押し込んだのは言うまでもない。
*
夕飯を食べた後に新しいマントと、ノアールのスカーフを買ってきてマールのお姉さんに証の刺繍を頼む。
なんでも初心者冒険者たちの証を縫うのはいつもの事で、大得意であり、「フラフラしてた弟がやっと!!」と大喜びで、特急で仕上げてくれるそうな。明日には出来てそうだな、すごい。
そして、次の朝。俺とノアール、マールはお姉さんが大急ぎで仕上げてくれた証入りマントとスカーフを装備して、それぞれギルドと教会へ向かった。
俺たち『Re/スタート』の初仕事だ。
魔王でした! 藤白春 @fuzishiroharu
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