第19話 ゆうしゃとまおう



 町の中をキョロキョロ見渡しながら二人と一匹で教会へと向かう。


 金も入ったし装備変えるべきかなー、杖もそろそろ折れそうなんだよなぁ、初心者用の杖なのによく耐えた。次は杖じゃなくて武器で場所を指定して、魔法発動できるようになれば剣だけでもいい。でも杖の方がMPの補助をしてくれる……悩みどころだな。あ、あそこの焼き豚美味そう。


「ライル焼き豚は夕飯にして、教会が先だよ。時間かかるんでしょ?」

「む、よく俺が焼き豚が食いたいと」

「視線が焼き豚一直線だからね」


 「ほら、いくよ」と笑うマールに「へーへー」と寝ているノアールを抱え直して、ついて行くこと数分後。



 大きな柱が特徴的な、白い神殿と言った方がいいな。教会へと到着した。やっぱり町の人しか入れないというだけあって、冒険者の姿はない。


 入ろうとすれば、白いローブを着た男、神官だろうか「マールは入ってよし、後ろの者は何者だ」と言われた。


「すみません、領主カロルさんから許可を頂いたものです」


 「これがその許可証です」と神官に渡せば、「あぁ、話は聞いている。すまなかったな」といって簡単に通してくれた。おぉ、話が通じるハゲだな。ハゲ神官だな。


 教会の中へ入ると、祈りの間がすぐあり、勇者の像が飾られている。勇者っていうより女神化してないか。


 祈りの間を横切り、地下への階段を降りていくこと数十段、大きな扉の前に到着した。


「ここが図書室だよ」

「なんか随分奥にあるな」

「大昔、魔王がまだ封印される前。学者や、本などの知識の塊のものたちが全て燃やされたんだって。だから今も本や学者、あと神官様や巫女様は燃やされ、殺されないよう教会の中にいるんだってさ。入る人を制限してるのもその為らしいよ」

「なんでそんなピンポイントなんだ?」

「何でかは僕も知らないんだ、お伽噺だし。でも燃やされたおかげで人間や、魔法の進化は百年遅れたと言っている人もいるよ」

「わお」


 俺そんな命令したっけ? と首を傾げている俺をよそに、マールは図書室の扉を開けて、「ほら、何を調べるの?」と聞いてくる。


「うーんと、歴史というか本とかを燃やした魔王についてだな。俺その辺疎いからってのと、魔導書って置いてあるもん?」

「あると思うよ、ちょっと待っててね司書の人に聞いてみるから。アンナさーん、あれ、どこいったかな」


「アンナさーん」とアンナと言う司書を探しに行ったマールに全部任せて、俺は図書室内をキョロキョロ見渡す。

 全面が本棚、しかもかなり上の方まで本棚がある。梯子はある程度の高さまではかかっているが、それ以上に高い所まで本がある。魔法が使えないと取れない仕様だなこれ。

 それに床についている本棚も相当の数がある。管理するのが大変そうだと、近くの本棚をみれば『ゆうしゃとまおうのおはなし』という絵本を発見した。


 気になって、手に取り表紙をめくる。





あるひ おとこのこが やみにおおわれ まおうになりました。



あるひ おんなのこが ひかりにおおわれ ゆうしゃになりました。



まおうは すべてを こわしました。



ゆうしゃは こわされたすべてを たすけました。



まおうは ゆうしゃも こわそうとしました でもこわせませんでした。



まおうは ゆうしゃに ふういんされて せかいに ひかりが あふれました。



せかいじゅうの ひとが おおよろこびしました。



でも ゆうしゃは ひとりだけ たすけられなかったと なきました。




おわり。





「そこでおわりかよ!」


 助けられなかったの続きは!? とページを何度も戻ったりめくったりするが、無い!


 挿絵は可愛らしいが、そこで終わるなよ!! 誰を助けられなかったんだよ!? とブチギレながら、もう一度絵本をくまなくみるが、特に破られた形跡もなく、勇者様が助けられなかったー! で終わっている。何だこの本、売れてないだろ絶対。


「マスターどうしました?」


 机の上で寝ていたノアールが飛んできて、俺の肩に乗る。


「なぁ、この絵本変なところで終わってるけど、続き知ってるか?」

「あぁ、かなり有名な本です。子どもなら一度は絶対読んでいますね。変な場面で終わっているのは子どもの教育に悪いからだと聞いたことがあります」

「なんで?」

「勇者は『魔王を助けられなかったから泣いている』という続きがあったらしいですよ」

「うそこけ、勇者様真顔で『死ね』って言ってきたぞ」

「真実は小説よりも奇なりですね」


 「絵本の作者は真実を知りませんし」と欠伸をするノアールに、「もう少し寝てていいぞ」と机の上に降ろした後、絵本を元あった場所に戻した。


 そして女の人、司書のアンナさんを連れたマールが現れて、俺たちの大捜索戦がはじまる!

 ……カッコつけたかったんだよ!!


「この人が司書のアンナさん」

「はい、こんにちはー。君、冒険者にしては珍しいね本を見たいだなんて」

「色々無知なものでして……」


 「よろしくー」と笑うアンナさん。顎の下でぱっつんに切られた髪は白銀だ。俺の黒髪もこの辺では珍しいが、銀髪も珍しい。北側出身だろうか。


「さてさて、歴史、特に魔王に関する本と魔導書だっけ? 魔導書はマールに任せたほうがいいかな。で、魔王だけど、どの程度知りたいの?」

「あーどの程度でも? 研究書なんてあるんですか?」

「あるよー勇者と魔王に関しては研究書は山のようにある! 何故魔王が現れたのか、何故魔王は勇者に敗れたのか、何故殺されるのではなく、封印されたのか! 不思議は一杯だからね」


 「あーわくわくする、本って素晴らしい!!」と鼻息荒く言うアンナさんは本の変態とみた。いや、別にいいんだけどな。研究者はその筋の変態みたいなもんだし。変態ならマールで見慣れたし。


「んじゃ何故封印されたのかという点から調べていきたいです。最近魔物が多くなってるってマールから聞いたので、魔王は関係していないかもしれないけど一応」

「ライルってもしかして盗賊に襲われたついでに、魔物にも襲われたんでしょ?」

「ば、ばれたか」

「初めて会った時のライルはボロボロだったからね」


 「今なら余裕そうだけど」と言うマールに「俺Cランクですけどー」と適当に返しつつも、心臓はバクバクいている。嘘つくの苦手なんですよ、まじで。


 アンナさんが「魔王の封印に関する本はこれと、これと、これもおススメね」と二十数冊ほど渡してきたので、頬を引き攣らせつつ。ノアールが寝ている机に本を持って戻り、席に座って「多いな」とぼそっと呟いた。


「あら、これでも少ない方よ。魔法に関係する本と言われれば無限になるし」

「まじっすか……あ、魔法で思い出したけど、詠唱を短くする研究の本とかないですか?」

「その辺の本はないねー。たしか、古代魔法の本には書かれていたと聞いたことがあるけれど、燃やされちゃってないらしいわ。現代魔法の短い詠唱は生活利用以外なら、馬鹿のすることだし」

「わお……ありがとうございます」


 「他に何かあったら気軽に言ってねー」と去って行ったアンナさんに「はーい」と返事を返して、本の山をみる。




 めんどくさい。読みたいと言った俺が言うのもなんだが、めんどくさい。




「面倒臭そうな顔しているライルに、はい、魔導書。一応一般的なものを持ってきたけど、この際だから買う?」

「んー、その方がいいか?」

「まぁ教科書だし、基礎はあるよ」

「んじゃ帰り買う。あ、マール魔王の封印と魔物の増加について書いてるのあったら教えて」

「え、僕も読むの」

「俺一人で無理。あと今日はノアールが爆睡してるから手伝って貰えない」


 見ろ、爆睡だ。とノアールの姿を見たマールは「寝姿も可愛いね!! 僕頑張る!!」と張り切ってくれた。ラッキーである。

 

 そんなこんなで、二十冊以上ある本を捲り、読みふける事半日。

 腹が減って途中飯を食いに行ったり、武器屋やら防具屋を冷やかす休憩をはさんで、本を読みすすめていたが特別な収穫もないが、何故魔王は封印されたのかについては複数の考察があることはわかった。


 多くの本は、



『勇者は疲弊し、倒す力が無かったため、封印という手立てを打った』


『封印は完璧で、二度と解放されることはない』


『魔王はもうこの世界には存在せず、異世界の狭間で漂っている』



 と書いてあった。間違いじゃない。

 俺だってあのひょろひょろの男が封印を解かなければ、この場にはおらず永遠と封印されていただろう。

 てか、どうやってあのひょろ男は俺の封印を解いたんだろうか? 力ずくでは無理だろうし、生半可な魔力じゃ逆に吸い取られるだけだと本には書いてある。

ノアールに聞けば何か知ってるか? 前の主らしいしな。めっちゃ聞きにくいけど。


「にしても封印と魔物の関係は書いてないなー、無いならたまたまでいいか?」

「うーん、僕はミノタウロスをみて思ったんだけど。偶然じゃないと思うんだよね」

「でもあの大きさの結界の崩壊じゃミノタウロスくらい入り込めるぞ?」

「そうだけど、これ、秘密なんだけどさ」


 「ライルも関係者だし、いいよね」と俺に顔を寄せ手を口元に当てたマールが小声で言った。


「結界、まだ修復完了してないんだよ」

「なんで? あの日神官ぽいやつらが一杯来て直してたじゃん」

「穴はね、一応塞いだけど、結界の中心地である魔法石にヒビが入ってるんだ」

「根本的に直さないと、また穴が開く。というかすでにどこか穴が開いているってことか?」

「そう。で、問題なのが魔法石にヒビが入るほどの衝撃があったってこと。あの石、そう簡単には壊れないからさ、確実に魔物かなにかの衝撃を受けてヒビが入ったっていうのが、カロルさんや新官長の見解だよ。ライルが考えている魔王封印解放もあり得るかもしれない」


 「それか、別の脅威が来ている可能性があるのは確かだよ」というマールに「まじか……」と俺は考え込む。

 もしかして、魔王の封印解放の衝撃で魔法石に傷がついたとか? 魔王が関係ないならば、魔王に次ぐ存在がいるとか?


「うーん、魔王復活の衝撃……最近なんかあったけ?」

「いや、そういう衝撃波みたいなもの感じてないから多分違う」

「んじゃ魔王じゃなくて、別の何か、ミノタウロスじゃないのか?」

「ミノタウロスは本当は大人しい性格で、こちらの姿をみせないよう隠れていれば逃げれる筈なんだ。先日は僕が索敵しちゃったから攻撃してきただけだし」

「そうか……魔王か、別の何か、うん。わからん」


 「俺たちの手にはおえないな!」と背伸びして、窓の方を見ると夕暮れだ。そろそろお開きにしてしまった方がいいか。


「封印であれ、何かの脅威であれ、俺達には手に余る。カロルさんに報告して、今日は終わりにしようぜ。腹減ったし」

「あーもう夕方か。それじゃあ本はアンナさんに預けてギルドに寄って帰ろうか」


 「今日の夕飯は焼き豚にする?」というマールに「ご飯に焼き豚のせて食う!」と勢いよく本を閉じた。

 


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