第18話 仲間が増えました
次の日、ノアールと、二日酔いで頭が痛いというマールとエグさんと共に、ギルドへ向かった。
そんでもってギルドマスターの部屋を開けた瞬間
「お前らっ無事かっ!?」
と、ギルドマスターカロルさんの突進を受けたのはマールだけで、俺とエグさんは上手い事避けることに成功。ノアールは言わずもがなだ。突撃されたマールは「な、中身がでる」とカロルさんの抱擁を受けて体がエビのように反り上がっている。やばい、カロルさんが人殺しになる。
「おぉっマール! 怪我してないよな!? お前に何かあったらお前の家族やシーニーに面目が立たねぇ!!」
「カロルさんカロルさん」
「お、ライル! ノアールやエグも無事でよかった!! 依頼をした俺が言うのもなんだが、お前らがミノタウロスと戦ったと知って死んだかと思ったぞ!! 怪我は無いか!?」
「ご心配おかけしてすみません。怪我はないですが、マールが潰れているので離してやってください」
「お? おぉ、悪いマール!!」
「すまねぇな!」とガハガハ笑うカロルさんから解放されたマールは少し薄っぺらくなっている様な気がする。
せめて癒しをと、ノアールにマールを見てやってくれといえば「あー、はい、マスターの命令とあらば」
と嫌そうにマールの側に飛んでった。そして「あぁっノアールちゃん! 僕を心配してくれるんだね!!」と復活した。つよいぞマール。
「本当にお前ら無事なのか? 相手はSランクも悲鳴をあげるミノタウロスだぞ?」
「大丈夫です。ライルがあばら骨折ったくらいですよ」
「普通骨折ったら大丈夫とは言えないんだけどー俺は無事じゃないんだけどー」
「なんだライル。骨折った割には元気だな。あぁ、マールが治療したのか。流石シーニーの甥っ子だな」
「ははっおばさんスパルタですからね」と苦笑いするマールに対し俺は首を傾げる。シーニーって誰だ? あとでノアールに聞かないと、有名人ぽいし。
「あのっシーニー様って、氷結の女王シーニー様のことですか?」
「そうだぞ。あの氷結の女王、氷魔法の使い手シーニーだ。あいつ回復魔法もすごいからな。その甥っ子で、弟子がマールなんだぞ」
「お前も凄いんだから胸を張れ!」とマールの背中を思いっきり叩いた。
「痛いですよカロルさん。それに今回はライルの手柄ですよ」
「お? そうなのか? ミノタウロスが凍っていたからてっきりマールが本気を出したもんだと……」
「いいえ、ライルの魔法ですよ。ライルは凄い魔法使いです。俺もまだまだだということを痛感しました。なので冒険者に復帰しようと思います」
「お前の決めたことに口出しはしないが、復帰してどうするんだ?」
「ライルとノアールちゃんのパーティに入れてもらいます」
「うん? 突然俺が呼ばれたぞ」
カロルさんとマールの会話に入って行けないどころか、「氷結の女王シーニーって誰だよ。ネーミングセンスすごいぞ」と首を傾げてたところに俺の名前が飛んできた。 え、まじ、突然なに。
「ライル、ノアールちゃん。よかったら僕を君たちのパーティに正式に加入させてほしい」
「いいけど、突然どうした? ノアールに釣られたならわかるけど」
「それもあるけど、君の状況判断と魔法はとてもすごかった。冒険者のパーティに入るつもりがなくて、僕は冒険者を辞めてしまっていたけど、ミノタウロス相手に怯まなかった君のパーティなら入りたいと思ったんだ。それに、今僕を入れると百万Eの報酬が入るよ」
「ねぇ、どうかな?」と言うマール。
俺の肩の上に飛んできたノアールを見れば「お好きにどうぞ」と言うので、俺は右手を前に出した。
「そこまで言うなら、マール。今日から俺たちのパーティに入ってくれ!」
「ありがとうライル、ノアールちゃん!」
「今日から正式によろしく!」と握手を交わす。なるほど、パーティの仲間ってこういう風に出来ることもあるんだな。
それにしても後ろで男泣きしながら「成長したなマールぅ!!」と喜んでいるカロルさんと、「男の友情……いいなぁ、私もはいりたい、いやでも今はお姉さまたちと!」と決心を固めているエグさん。ううん、状況がさっぱり理解できないが、仲間が一人増えたってことでいいか!
「あぁ、そうそう、報酬の百万Eは受付から貰ってくれ。これが依頼達成票な」
カロルさんから依頼達成票を受け取り、百万Eという金額をみて目が点になる。ゼロが多いな。こわ、ナニコレこわい。と、怖すぎたのでノアールに預けた。
「ノアールちゃん僕のも持っていてもらっていいかな」
「お二人とも金額に恐怖を抱きすぎでは?」
「わ、わたしもコレ持っていたくありません……」
「三人ともビビり過ぎだぞ!! 百万Eなんぞ依頼をAランク依頼を幾つかこなしてやっと手に入る金額だが、ミノタウロスを倒したお前らなら正当な金額だぞ!」
「胸を張れ!」と俺とエグさんの背中をドンッ! と叩き鼓舞するカロルさんに乾いた笑いしかでません。
「あ、そうだ。カロルさんにお願いあるんですけど。事によっては俺の分の百万Eはお返ししますので、よかったら聞いてくれませんか?」
「おぉ、どうした言ってみろ」
ギルドマスターの椅子にドカッと座り、腕を組むカロルさんはどうも迫力がある。この人が王とか言われたら信じるレベルの存在感だ。初めて会ったときの、門番していた時はそんなこと思わなかったのにな。
って、話がずれた。ジリ貧のいま、百万Eは欲しい所だがそれ以上に欲しいものがある。
知識と経験、これは金をかけてでても得るべきものだ。金は消えるが、知識と経験は消えない、だが更新し続ければ古くなってしまう。今の俺の知識は古い、それに経験。特に魔法以外はからっきしだ。
せめてもう一手欲しい所だからな。今後何があるか分からないし、いつまでもこの町には居れない。だが、移動するためには力をつけないとってわけだ。なので、
「俺に教会にある本の閲覧権利と、どなたか稽古をつけてくださる方を紹介してください」
「ほう、何故?」
「俺実は引き籠ってたくせに、突然外へ出たので常識があまりありません。知らないことが多いと痛感したので、勉強したいということと、あばら骨折って魔物はやっぱりこわいから、強くならないとと思いました」
「ふむ……いいぞ」
「百万Eの報酬のかわりにでもいい、って、……え?」
「いいぞ。どちらも紹介状を書いてやる。あと、百万Eはお前たちが頑張った証だ。取っとけ」
「い、いいんですか……?」
「いいもなにも、向上心のある若者は大歓迎だ!!」とガハガハ笑うカロルさんは、流石ギルドマスターを名乗るだけのある大物だと思った、はい。軽くOKでたのでビックリしたよ、だって教会には町の者しか入れないって聞いたぞ。そんな軽くていいの? 本当にいいの?
「ところでライル、稽古は魔法か? 武道か?」
「あ、剣術の使い手の方いませんかね?」
「あーうってつけのがいたんだが、今この町には居なくてな。ペディもいい剣士なんだが、ライルの使い魔と相性悪いだろ?」
「あの筋肉女、嫌いです」
「だろ? ってことは稽古はまずおいて、教会優先にしろ。あと一ヶ月もしたら帰ってくるだろう、その間はパーティの名前でも考えるなり、勉強するなり、依頼を受けて自分なりに動いとけ」
「どうだ?」と問いかけてくるカロルさんに「それでお願いします!」と俺は頭を下げた。
** *
ライルたちがギルドマスターの部屋を出て、扉が閉まったのを確認したカロルは溜息を大きく吐いた。
「ミノタウロス相手に、本当に無事だったか……」
昨日ギルドに戻ったカロルが、受付のエルフから預かった鞄の中のモノを見て、肝が冷えた。物理的にも冷えていたのだが。
「骨を折っただけで済むとは、しかもマールやエグちゃんは無傷。ってことはライルだけが突っ込んでいったな」
ミノタウロスを前にして、怖気づかない冒険者はそうそういない。あのロッソやカロルくらいになればなんとでもなるが、マールはレベルが高いだけで経験は浅い。エグもAランクの冒険者だが、最近ランクが上がったばかりの子だ。経験値は低い。
そんな中、一人状況を判断し、魔法で対抗したというライル。しかも魔法の威力は上級レベル。レベルは低いが度胸があるのだろうか、それとも無鉄砲なのか。
「実際にみてねぇから分からねぇが、ライルはかなりの大物になるぞ」
確実に、化ける。
ライルは冒険者たちの頂点に立つ、そんな気がする。気のせいかもしれないが。
「それよりも、まずは結界をどうにかしないといけないな」
早く帰ってきてくれよ、ロッソ、シーニー。
教会のじいさんが、くたばるぞ。魔力枯渇で。
** *
「ということで、改めましてよろしくね。ライル、ノアールちゃん」
「おう、よろしくな」
「よろしくお願いします」
ギルドマスターの部屋から退出しエグさんと別れた後、俺たちはギルド内にある休憩場所の一角を陣取っていた。
「で、二百万Eはどうする? ギルドに銀行があるけど」
「全額ギルドに預けようぜ。俺、依頼こなす前に教会に行きたいし」
「了解、じゃあ全部預けてくるね」
「いってくる!」と走っていったマールの背中が見えなくなった後、「うーん」と腕を組み俺は唸る。
「どうしましたマスター」
「うーん、魔王って隠し切れるかなって。ていうか言った方がいいか?」
「マスターが『俺は魔王だ!』と言っても信じないと思いますよ。見た目は魔王ぽくありませんし」
「うっ、そうだけど、でも友達というか、仲間に秘密ってなんか嫌じゃね?」
「その気持ちがあれば十分だと思いますが。それに魔王を再びやるわけではないのですし、黙っていても大丈夫かと」
「んー……、じゃあ黙ってる。でも魔王関連で巻き込みそうになったら言う」
「マスターの思うがままに」
「ところで今後いかがします?」と切り替えの早いカラスさんは、机の上にもふりと座り込んだ。
もっふもふだなお前。冬毛か? 気のせいか?
気になるから触ったろとノアールを撫でる。うわ、すべすべだ。なんか癒される、ヒーリングだこれ。動物の癒し!!
「マールがきてからじゃないと何とも言えないが、俺は教会の本を読み漁りたい」
「その間マールさんは何をしているかですかね」
「調べものだから、手伝ってくれると正直助かるんだよなぁ。マールここ出身みたいだし、本の場所とかわかりそうだし」
「うーん、どうしよう」と机に肘をつき左手で頬を押さえながら、右手でノアールを撫でること数分後。銀行の手形を持って帰ってきたマールに「今後どうする?」と聞くと、軽ーく
「ライルに任せるよ。このパーティのリーダーはライルだし」
「えー、俺マールの方が適任だと思うぞ。てかやりたいことないのか?」
「やりたいこと、うーん。まずライルがやりたいことをやろう。教会に行きたいんでしょ? あとパーティを作ったら登録しにいかなきゃいけないんだけど、名前を考えないと登録できないし。考えてから登録しに行こうよ」
「パーティの名前?」
「そう。例えばペディ戦士団とかね」
「なるほど、ネーミングセンスが問われるのか」
「かなりね。まぁみんなリーダーの名前にパーティをくっつけて登録してるけど」
「俺それいやだわ」
「そういうと思った。はい、これ登録用紙。ライルが持っててよ」
「とりあえず教会にいこうか」と言うマールに、お前の方がリーダーに合ってると思うんだがーと思いつつ、立ち上がって、面倒臭がって動かないノアールを抱えて歩き出した。
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