第4話 田舎少年R君
「マスター、まだ首が痛いんですか」
首を横に曲げたまま宿屋の朝飯を食べる俺は、何処からどう見ても可笑しいだろう。
俺だって普通に食いたいわ! でも痛いんだよ!!
ノアールが飽きれて俺をみていると、普段着であろう格好のマールが現れて「わあ、随分首が」と笑っている。
「おはようございますマール様。マスターに服まで貸していただいて感謝しております」
「いえいえ、これも縁だから。それに僕使い魔に憧れててさ、初めてみれたし触れたから僕はとても満足だよ」
「俺は、首が、満足じゃないです」
「回復呪文使えないの?」とマールが苦笑しながら≪ヒール≫と唱えると首の痛みが消えた。
「おぉ、流石魔法だねぇ!」
「これ初歩中の初歩魔法だけど、ライルは使えないの?」
「うーん、前は使えたんだけど。色々あってな」
「そっか。じゃあ使えるようになったらいいね、冒険者やるなら使えないと辛いよ?」
「だよなー頑張るわー」とマールに適当に返しながら飯を貪る、パンがうめぇ。ノアールの視線が痛いが気にしたら負けだぜ!!
「今日は武器屋と防具屋と道具屋と服屋だっけ?」
「あ、いや服屋だけでいいわ。あとこの町に図書館ある?」
「図書館はないけど、本なら神殿の蔵書が一番多いかな」
「神殿?」
「そう神殿。勇者と光の神の神殿なんだけど町の人じゃないと入れないから、本のタイトルを教えてくれたら僕が探してくるけど?」
「あー、そっか。どの本がというわけじゃねぇから、うん。ちょっとそれは保留で。服屋だけよろしく。休みなのにごめんな」
「いいよ休みの日は宿屋手伝いだから、逃げる口実が出来てラッキーさ」
「それにノアールに触れるし」と気のせいだろうか、ハァハァ息が荒くなったマールがいたような気がしなくもない。気のせいだ。気のせいだよな……?
朝飯を胃袋の中におさめた俺たちは、マールの案内で服屋へ直行。とりあえずシャツとズボン二枚、下着に革のサンダル。こんなところかと会計を済まそうとすれば、ノアールとマールが立ちふさがった。なんですか、いつの間にそこまで仲良しになってんですか。
「マスター! なんですかその服の枚数は! 足りませんよ! 洗濯が面倒になって同じものを連続で着るとかやめてほしいところです!」
「そうだよ! せめて五枚あった方がいいし、ほらベストとかどう? 似合うんじゃない? あと靴はブーツの方がいいと思うけど」
「はいはい、んじゃ四枚ずつ買いますー。ベストはいりませんー。あと俺はサンダルがいいの、蒸れるからな! あ、ノアールは欲しい物ないのか?」
「私は大丈夫です」
「そか? ならいいけど。すいませーん、お会計おねがいしまーす」
「ノアールにはこれじゃないかな。真紅のスカーフ、女性にはぴったりだよ。風の守護魔法もかかっているよ。どう?」
「……ノアール、お前雌だったの」
「今更ですかマスター」
「ねぇノアール、僕はこのスカーフが君に似合うと思うんだ!!」
「マスター、マールさんはもしかして変態というものではないでしょうか?」
「おう。俺も思ったわ。すみませんこれも追加で」
俺の服代よりも高かった真紅のスカーフも会計し、早速ノアールの首周りにつけてやるとマールが「ハァハァ、可愛い」と残念なイケメンにランクが下がった。服屋の店員もドン引きしていたのでこの店にはもう来れないわ。
「きつくないか? 鳥だからそういうの邪魔になると思ったんだけど」
「大丈夫です。それに守護魔法が発動しているので体が軽くなりましたね」
「ならよし。おい、マール! 店の案内ありがとうな!!」
「ちょっと散歩がてらギルドいってくる!」と悶絶しているマールに言えば「買った物は僕がもってくよ。あぁ、ノアールちゃんっ可愛いよおおおお!」と手を大きく振っていた。
最初の大人しめなふわふわ糸目イケメンはどこいったんだ。イケメンが突然変態に変態したとか、ついていけないぞとゲッソリする。
「で、マスター。ギルドではなく、どこへいくつもりなのですか?」
と、このカラスには隠し事は出来ないらしい。昨日出会ったばかりなのに、俺の思考はそんなにわかりやすいもんかねぇ。
「まず魔力確認したいから誰も居ない広い場所を探そう。ノアール飛んで探してきてくれるか?」
「かしこまりました。少々お待ちを」
俺の肩から腕に乗り、飛び立つノアール。おー使い魔ってやぱり普通の動物とは何かが違うな。思考回路とかもだけど、なんかこう見た目も変わるよな。スカーフの所為か。まぁ喜んでるようだし高かったけど買って正解だったかな、そこは変態に感謝だ。
ボーっと広場の噴水の前に座り、しばらく待っていると「カァ」と鳴き声が聞こえて空をみる。いい場所をみつけたようだ。
人にぶつかりながらもノアールの案内についていけば、森の中に開けた場所が現れた。
バサリと音を立てて地面に降り立ったノアールにお疲れさんと嘴の下を撫でると「命令ですから」とそっぽをむいた。なんとまぁ可愛くない事を、いやそんなところも可愛いけどな。
「ここは、あれか、ギルド用の練習地かなんかかな?」
「多分そうかと。本日は使われていないようですし、バレなければいいんですよ、バレなければ」
「バレたら『知らなかったんですぅ』で通そう。いいな?」
「かしこまりました」
ということで、まずはギルドカードを拝見! と自分のステータスをみる。
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・ライル
Lv:1(仮)
HP:10(仮)
MP:10(仮)
種族:ヒューマン(人間)
属性:???
特技:魔王覚醒(封印)
呪法使い(初級)
特徴:魔王
世界を巻き込んだ思春期を越えし者
ランク:D
===============================
「待って、予想以上にひどい」
というか(仮)ってなんだよ。成長しねぇぞオラァ! ってことか? それとも闇を消さないとと駄目? でも属性が「?」表示ってことは闇はないってことか? つか特徴が酷すぎない? 泣くよ? 好きでそんな思春期越えたわけじゃないぞ!?
「あー全く分からん、八方塞がりとはこのことか……」
「どうしますマスター?」
「うーん、とりあえず食い扶持だけ稼ぐ生活だな」
Lv.1ならその辺のスライムぐらいしか倒せないだろう。その日暮らしなギリギリカツカツ冒険者生活の始まりだな。償いに世界に貢献とか、無理。生命の維持が最優先課題!
「あ、そうだ。ノアールのステータスもみれるけどみるか?」
「え、みれるのですか?」
「おう。俺のカードを使い魔に当てると見れるって変態が言ってたぞ。裏技とかであまり知られてないみたいだけどな」
んじゃまぁみるか。とカードをノアールの額に当てれば、カードが光り、数字が変化する。
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・ノアール
Lv:90
HP:8796
MP:9854
種族:カラス(鳥)
属性:風(その他未覚醒あり)
特技:巨大化
上級魔法
怒りによる強化
特徴:魔王の使い魔
===============================
「……ステータスすごいんですけどノアール様」
「本当ですね。レベルは以前ギルドで調べた時と変わりませんが、ステータスは上昇しています。契約時に力が沸き上がったと思ったのですが、感じた通りでした」
「しかし属性の未覚醒とは何でしょう?」と首を傾げるノアールに「さぁ?」と俺も首を傾げた。
ノアールが凄いことはわかった。ので、自分のショボい力がどこまでなのか確認すべく、魔法の試し打ちをすることにした。MPが少ない以上、初級魔法しか使えない。折角広い場所探してもらったのに意味無かったなぁ……。しょうがない、現実は受け止めて、
「んじゃま、自分の腕に傷をつけます」
ザックリ、ナイフで腕に傷をつければ、みていたノアールが「使えなかったらどうするんですか……」と溜息を吐いた。いやそこはノアール様が変態、じゃなくてマールを呼んできてくれればいいのさ!
「ほいじゃま≪ヒール≫」
血が流れる腕に手をあて、呪文を唱えれば塞がっていく傷。よし、初級は使用できる。まぁ中級は追々かな。今使うとMP不足でぶっ倒れるから試すのはやめておこう。
「そういえば、マスターが私との契約時に使用した魔法はなんですか?」
「あーあれはなー呪法っていうまぁ言葉で邪気を祓う系の古代魔法の一種で、攻撃はあんまり出来ないんだけど自分を護ったり、対象を服従させたり、生き返らせたりするもので。四元素の魔法とは発動方法も基本も違うものだよ。俺もすっかり忘れちゃって、あれしかまともに覚えてなかったんだけどな」
「マスターが古代魔法ということは、現在は失われし魔法では?」
「……よし、人前では使わない」
「それがよろしいかと。ちなみに初級の回復魔法が使えるということは、基礎はできているのですね?」
「うーん。俺さ、くっそ頭悪かったんだよね。でも魔王になってから力だけでなく知識も入ってきたから、一応基礎は頭の中に入ってるぽい」
そうそう。田舎少年R君がいじめられていたのは、頭が悪くて、足が遅くて、いつも泣いてばかりだったからだ。
弱いものはいじめやすく、いじめると反応が面白い。
だからいじめられる。今思えばそんな子どもの残酷さからきたものだったのだろう。
が、当時は死ぬほど嫌だったし、ガキ大将はその辺で転んでくたばれとずっと思ってたし、やりかえしたくてたまらなくて、頭が悪いなりに反撃しようと魔法や呪いを調べたりしていた。
そんなガキ大将も人間なので、千年経った今に存在しているはずもなく。そういえば魔王になった瞬間をガキ大将に見られてたなー。あの時腰抜かしてたな、……それでチャラにしてやろう!
「マスターの頭の回転はいい方だと、私は思いますが」
「一応魔王だからな。多少は補正がかかってるんだよ。あ、現行の魔法ってさ四元素が基礎であってる?」
「はい、火・水・風・土の四元素で成り立つ属性が基礎となって魔法が成立しています。千年経っている割には魔法の進歩はあまりしていないようですね」
「みたいだな。俺にしちゃラッキーだけど。あ、んじゃ一応昔の国家機密なんだけど、四元素とは別に成立している光と闇の属性があるってのは?」
「それは現在確認されておりまして、勇者の末裔は光属性が今も受け継がれております。流石に闇属性を持つ方は滅多にいらっしゃいませんが、まれに副属性として現れる方もいらっしゃるようですよ」
「はいせんせい! 副属性ってなんですか?」
「ギルドに行くと自分の主属性がわかります。多くは四元素の中の一つです。自分にとって使いやすい魔法属性ですね。例えば火属性なら、『ファイア』が簡単に使えます。そして主属性とは別に使いやすい魔法属性が稀に派生する方がいらっしゃいます。それが副属性です。それも多くは四元素の中から現れるのですが、勇者の末裔は光が副属性によくあらわれると聞きます。わかりましたか?」
「うーん、簡単に使える魔法属性が二つってこと?」
「とても簡単にいうとそうですね。ちなみにマスターはやはり闇ですか?」
「あ、みる?」とギルドカードをノアールにみせると「?」と表示を同じく首を傾げた。
俺も首傾げたから分かるぜ……うーん、ギルドで一応確認した方がいいのか、でも闇属性がでて迫害とかないよね。また封印とかやめてほしいんだけど。
「……なぁノアール、俺にさ闇属性がでたとして、なんかこう、あれさ、」
「あぁ、闇属性がでたとしても珍しいで片付けられますよ。流石に千年もたっていますから、魔王なんて絵本の中のお話になっています。それに普通の人でも闇属性が現れる方もごくまれにいらっしゃいますよ。だからギルドで属性を調べなかったんですねマスター」
「すみません……」
「マスターは昨日目覚めたばかりですし、分からないことがあるならば私に聞いてください。それでも不明な場合は一緒に調べましょう」
「うううううっノアールめっちゃ優しいありがとうすぎるっ!」
「ふふふっそうです。私はめっちゃ優しいのです」
「もっと褒めてくださっていいんですよ」と鳥胸をモフリと張るノアールの嘴の下を撫で褒めちぎった後、俺とちょっと調子づいたノアールはギルドに向かった。
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