幕間劇その二 ある日の放課後 SIDE:リーダーズ

「梓葉ちゃんまだかなー……」


「…………」


「もう待ち合わせ時間なんやけど……」


「……………………」


「うーん、もう少し待って来へんかったら連絡してみるかな……」


「………………………………おい」


「…………ん?」


わしじゃ、さっきからずっとここにいるじゃろうが」


「…………え?」


「…………あ?」


「え、上品かつ清楚でお洒落、その上流行を取り入れつつ媚びた感じを一切思わせない女子の憧れを具現化したかのようなセンスの服を着こなしている子が」


「梓葉じゃ、遠藤梓葉」


「あ、よく見たら声と顔見たら本当に梓葉ちゃんやん……後顔真っ赤なところ」


「最後は余計じゃ」


「うん、この照れ具合は梓葉ちゃん……それにしても魔法少女の時と服の印象違いすぎてホント気付かなかったわ」


「あんな格好で街中うろつけるか」


「にしても……なんか織衛さん辺りのお嬢様とかが着てそうなやつやし……いや、めっちゃ似合ってるんやけどね?」


「悠理は家だとめっちゃダサいジャージばっか着とるぞ」


「まじか」


「もさい眼鏡かけてよれたジャージ着て完全に女子であることを忘れてる格好じゃったわ」


「ちょっと知りたくなかったわ……」


「……で。本題は?」


「ああうん、わざわざ来てもらってごめんね。こっちやから着いてきてー」


「なんじゃ、タイマンか?」


「だったら向こうで待ち合わせるわー。いやね、折角テスト最終日が被って午後丸々使えるし、タイミング的にちょうどよかったんや」


「だから本題を言えっちゅうに……」


「それは着いてのお楽しみー……ほら、あそこ。うちの家」


「あー……飯屋?」


「そうそう。今日は定休日だけど、準備してもらっとるから」


「言われた通り飯は抜いてきたけど……」


「ん、それなら安心やな。それじゃあいらっしゃーい」


「…………お邪魔します」


「……いらっしゃいませ」


「シエラ? なんでお前ここにいるんじゃ」


「……居候兼手伝い。髪が黒なのは魔力が通ってないから」


「ふーん……」


「……服、可愛い」


「黙っとけ!」


「はいはい……こちらにどうぞ」


「……おう。洋食屋さんか」


「そうやねー、大体なんでも出そうと思えば出せるけど」


「…………」


「メニュー、なにか気になるのあった?」


「いや……」


「なんてね、実はもうこっちで準備してあるんや」


「あ?」


「シエラ、おねがーい」


「はーい……」


「な、なんじゃこりゃあ!?!?!?!?」


「あれ、甘い物嫌いやった?」


「わ、わわわしは別にぃ…………」


「でもファミレスでいつもデザートのページガン見しとったよね?」


「なんでバレて!?」


「いやだからガン見してたって」


「まさか……」


「あとパンケーキ大食いチャレンジのあるお店で、ニッコニコの梓葉ちゃんの写真見たことあんねん」


「はぁ!? 店主に写真飾るなっつったぞ!?」


「お父さんに飾っていいか聞いたらむしろ飾れって言われたらしいわ」


「親父ィ…………ッッッ!!!!!!」


「だからまあ打ち上げ? ということで今日はうちのおごりや!」


「まさか他のやつ呼ばなかったのは……」


「甘い物好き隠してるのかなー思って」


「…………うん、助かった」


「それにおごり言うてもママに頼んだだけやしなー」


「テーブル埋まったけどこれ全部手作りか」


「定休日だけど暇だからって尋常じゃなく力入れてたみたいや」


「こんなに可愛いの、食べるの勿体なくねェか……?」


「でも食べないとどんどんシエラが運んできちゃうで?」


「チクショウッ……!!」


「今まで見た中で一番悔しそうな顔してるけど」


「だって……だってっ!!」


「めっちゃ深刻そうだけど言えばいつでも作ってくれるからね?」


「それでもぉ……」


「じれったいわ!! いいからまずは一口っ!!」


「むぐっ!? …………」


「人って表情だけでここまで感情を発露させることができるんやな」


「質より量、量より質……わたしは常にその狭間で何が正しいのかを考え続けてきた……」


「しかもなんか独白始まったし」


「でもよ、質と量……両立させちまったら勝ち目なんてあるわけないだろうがよ……」


「え、泣いてる?」


「凄く美味しいです……」


「それは良かったけどリアクションが激しすぎて困惑するわ」


「なんで今まで私はこの味に出会わなかったんだ……」


「店で厨房立っとるのパパやから、まあ出会う訳ないわ」


「なっ……この味でなんで!?」


「なんも出来ないパパにママが料理を叩き込んで、料理だけは人並み以上にできるように教育したからやって」


「パパさん、一回接客してる所見たけど大変なことになってたよ」


「えぇ……接客ぐらい誰にだって」


「あのままだとお店が潰れてたと思う」


「逆に才能やな」


「むしろ見てみてェな」


「まあそんなわけで、これママの趣味みたいなもんやから遠慮せずに。な?」


「……おう。それじゃあ改めて、いただきます」


「ん、どーぞ」


「はぁ……甘い……おいしい……」


「語彙力死んでるけどとろけ顔めっちゃ可愛い」


「楓も語彙力死んでる」


「元々豊富じゃないから大丈夫や」


「あんまり大丈夫とは思えないけど……」


「凄いな、味わいつつもどんどん食べてってる」


「……器用。それにしても幸せそう」


「せやな。梓葉ちゃーん、こっち向いてー」


「意外。写真撮ったら怒るかと思った」


「あとで思い出して怒るんやろ。どうせだしあと何枚か撮っとこ」


「ママさんに見せたら喜ぶ」


「ついでに武蒼衆の怖い二人に使える取引材料として確保しとくで」


「駄目人間しかいない……」


「魔法少女なんてそんなもんや」


「……夢も希望もない」


「……よし。思わぬ収穫も手に入ったし、うちもバニラアイス食べよ」


「ところでこれの材料費、楓のお小遣いから引くって言ってたけど」


「だからこんなに気合いいれてたんかー」


「それじゃあ私もごちになります」


「うーんまーもういいや、今日は大盤振る舞いってことで好きなだけ食べな!」


「……太っ腹。楓大好き」


 その日、楓は破産した。


幕間劇その二 ある日の放課後 SIDE:リーダーズ 完

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