第十七話 佐々木楓とエピローグ?

「まさか魔法使いが一人やなかったなんて……」


 数日後、いつものファミレスに三人の影があった。佐々木楓にサラ・クレシェンド。そしてシエラである。


「帰ったらシエラと二人で病院に担ぎ込まれるし、退院したらしたで子犬感覚で人拾ってくるなってママにめっちゃ怒られるし……土下座したらなんとか許してもらえたけど」


 魔法使いを倒したあと、現実世界に帰って来てからはさんざんだった。シエラの居場所をなんとかすると断言した楓は、そのままシエラを自分の家に連れて帰ったのである。そして当然の如く母親に見つかり、大量の生傷を見られ病院に強制連行されてしまった。

 傷自体はすぐに完治した。というのもシエラが回復魔法を使用出来たため、魔力が回復した後に深界に潜って回復魔法を使用したのである。

 だが当然傷の原因とシエラとの関係を黙っておくわけにはいかない。シエラには家がなく不良に襲われているところを助けた結果ボコボコにしたけどボコボコにされたと、ある程度本当のことを話して母親に納得してもらい、最終的に両親を亡くしたというシエラに同情した楓の母親は楓の土下座に折れて居候を認める事となったのだった。


「うちの手伝いすることになっちゃってごめんなー?」


 楓の家は洋食屋で、シエラは居候する条件としてその手伝いをすることになっていた。本当はなんとかすると言った手前そういうのも無しにしたかったが、流石にそう上手くは事を運べなかったのである。

 シエラは楓の言葉に、首を横に振った。それぐらいはさせてもらわなければ申し訳ないし、むしろその程度で居候させてくれるのならばそれほどありがたい話もない。


「ママさんもパパさんもいいひとだから、大丈夫」


 頷くシエラ。現実でのシエラは黒髪である。彼女の金髪は魔力由来の物らしく、現実では魔力の流れを抑制している為髪色も自然と黒に落ち着いていた。


「一時はどうなるかと思ったけど、一件落着ってことでよかったねー」


 佐々木一家の度量にはサラも驚いたが、取り敢えず丸く収まったようでなによりだと紅茶を啜る。

 しかし当の楓は一件落着と思っていないらしい。バニラアイスを口に運ぶが、傷に染み顔を顰めため息をつく。


「一件落着やないよ……一年で蹴りつけるつもりだったのに、あと何人魔法使いいるんや……」


 そう、魔法使いは一人だと思いこんでいたのだが、実はそうではなかったらしい。魔法少女もすっかり卒業だと思っていただけに、それを聞いた時の楓の衝撃といったらそれはもう恐ろしいものだった。


「全部で十二。つっても何人かはもう倒されてるし、今回のペースでいけばなんとか一年以内に倒し終わるんじゃないかなー?」


 よく考えれば牡羊座の魔法使いという名前を聞いた時点で察するべきだった。星座を模した二つ名を持つのであれば、他にも星座の名を持つ魔法使いがいるだろうと。それにシエラ以外の守護眷属を知っていたサラの態度や牡羊座の魔法使いを倒すまで手伝うという契約内容を鑑みれば、今まで気づかなかったことがおかしいぐらいである。

 しかし楓とは対照的に、サラはどことなく楽観的だった。そもそも楓のように焦っていないし、最初から複数人魔法使いがいることを知っていたのだから驚く理由もない。


「ていうかさー、問題はアレだよー。牡羊座の夜の雫」


 眷属を倒した際に手に入る結晶体。魔法の強化などに使えるらしいあのアイテムだが、実は魔法使いからも手に入るらしい。というか手に入るらしいというより、手に入れなければいけなかったらしい。

 なにせ魔法少女になる際の特典の一つ、魔法使いを倒すごとに願いごとを叶えられるという特典はそれがなければ出来ないというのだ。


「魔法使い倒したら願いごと叶えられるっていう特典、使い損ねたなぁ」


「軽っ……まあセンパイならしょうがないか」


 願いごとを自分のためではなく他人のために使い、恐らくは最短と言ってもいい期間で魔法使いを倒した人物である。聞けば元から叶えたいこともなかったというのだから、割りとヤバイ人間の味方になってしまったなとサラは恐怖したものだ。

 サラはどうしてもきな臭さを感じずにはいられなかったが、今のお疲れムードの中でそれを切り出すことはなかった。


「これから腐るほど魔法使い倒せるし、別にええやん? 今回みたいにうまくいくかわからんけど」


「まあ実際なんとかなるんじゃないかなー。あたしもいるし、そこの奴も手伝ってくれるでしょ。あ、敵が味方になると弱くなるって聞くし、役に立つかは分かんないけどねー?」


 つい先日まで敵対していたのだ、そう簡単に仲良くなれるはずもない。サラは意地悪な笑みを浮かべながら、ポテトをもそもそと食べるシエラに煽るような言葉を投げかけた。


「…………試してみる?」


 挑戦的な言葉が返ってくるとは思ってなかったのか、サラの動きが一瞬止まる。そして面白いと言わんばかりに、不敵な笑みを浮かべ。


「おー、ボコられても泣くなよー?」


 立ち上がろうとするサラとシエラ。楓は期間限定黒みつきなこのバニラアイスを慎重に口に運びながら、じろりと二人を睨みつけた。


「まだ仲悪いんかい……ええ加減にせんと怒るよ?」


 敵対していた時ならまだしも、今はそうではない。仲良くしろと強制するつもりはないが、険悪な空気を続けられても居心地が悪い。

 楓の言葉が効いたのか、仕方ないとばかりに二人は席に座り直す。


「今回は見逃してやろう、楓センパイに免じてねー」


「……それはこっちのセリフ」


「はぁ…………」


 佐々木楓の受難は、まだ始まったばかり――――けれど今はひとまず一件落着ということにして、再び始まった二人の言い合いの顛末を見守ることにしよう。

 アイスがなくなったら止めるとして、それまではアイスを味わいたい。ヒートアップしていく二人を横目に、楓は冷たい甘さに顔を綻ばせた。

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