最終章 ✲✲✲ 5 ✲✲✲
「うぅーん…、疲れたぁ!」
亜弥は席を立って、ぐいぃ…と背伸びをした。
「今日はみんなで食堂の日、だったよね。行こーっと」
隣の空いている席に置いてあった鞄を引っ掴み、講義室を出る。
午前の講義が全て終わり、待ちに待ったランチタイムだ。
今日は何を食べようか。
そんなことを考えながら、意気揚々と食堂へ向かう。
その途中、ポケットに入れたスマートフォンが鳴った。
「ん? あ、……」
友人からのメールだった。
「んー? ……お」
亜弥は受信したメールを見て、小さく飛び跳ねた。
「みんなにも教えなきゃ!」
そう言って、小走りで食堂へと急いだ。
亜弥が食堂に到着したとき、いつものメンバーは既に集まっていた。
「おーい!お待たせー!」
手を振りながら、みんなが座っているテーブルへ向かう。
「亜弥ぁ。おはよぉ」
「おはよー…って、もう昼だし」
「だって、今日初めて会うじゃん」
気の抜けた挨拶をする香織に、亜弥も同じ挨拶を返した。
既に昼間だが、今日初めて会う時からという理由で、香織はいつも「おはよう」と言う。
いつも通り挨拶をして、いつも通り軽くツッコんで、それで終わり。いつも通りのやり取りだ。
それぞれ軽い挨拶を終えた後、亜弥は昼食を買いに行く。
亜弥以外の面々は既に昼食を確保して、ゆっくりと食べ始めていた。
亜弥が受けていた講義の終了時間が少しだけ過ぎそうだと分かった時点で「お先にどうぞ」と、本来講義が終わる時間に亜弥がメールで先に食べ始めるように連絡していた。
亜弥が昼食を持って、席に戻る。
何かの話をしていたらしいメンバーだったが、亜弥が戻ってきたのをきっかけに、その話を一時中断した。
「あーお腹空いた、いただきまーす」
亜弥は目の前のオムライスにスプーンを突っ込んだ。
「やっぱオムライス美味しー! 講義延びて、お腹空き過ぎで死ぬかと思った!」
「よく延びるよね、あの教授の講義」
香織の賛同に「ねー」と返して、またオムライスを一口。
「あ、そういえばね、亜弥ちゃん」
「うん?」
「亜弥ちゃんが来る前から話してたんだけど…」
「このノートお前の?」
淳平が香織の言葉を引き継いだ。
亜弥は淳平の持っているノートを、じっと見つめる。
「んー…、違う。どしたの、それ?」
見覚えのないそれに、亜弥は首を振って言う。
「バッグに入ってたんだよ。で、俺のじゃねぇから、何だー? と思って。お前のでもねぇのか」
「どっかの講義で、間違えて誰かの入れてきたんじゃねーの?」
智晴が呆れたように言った。
淳平は納得いかないようで、「えーそうかなぁ?」とぼやく。
「あー、そうじゃない? 私も間違えて持ってかれたことあるしぃ」
「淳平ならやりそうね」
まだいまいち納得しきれていないようだが、三人から言われてしまっては言い返すこともできないらしい。
少しブツブツ言ったものの、それ以上、否定らしい否定をしなかった。
「どうしよっかなぁ、これ……」
「とりあえず生活課にでも持ってっとけば?」
「あー……、そうしよ」
とりあえず落とし物という事にしておこうと、全体一致で決まった。
亜弥が昼食を食べ終わるのを待って、一同は生活課へ向かった。
「ごめんくださーい」
亜弥が生活課のドアを開ける。
声に気づいた女性教員が受付台まで近寄ってきた。
「ごめんください、って……。家じゃありせんけど」
「まーまー、いいじゃないですか!」
「…………で、どうしたの?」
教員はため息をついて、問うた。
「あ、っと……これなんスけど」
淳平が鞄から先ほどのノートを取り出す。
「ん? ノート?」
「拾ったんで預かってもらえますか?」
差し出されたノートを見て、教員は顔をしかめた。
「ここは落とし物センターじゃないんだけど……」
「まぁそう言わずに」
ぽん、と。受付台にノートを置いた。
「いや、置いてくな」
「まーまー」
「まーまー、じゃ、なくて」
「まーまーまーまー!」
「……はぁ」
ノートを引き上げる気配の全くない淳平たちを見て、教員は諦めたようにため息をついた。
受付台に置かれたノートを渋々手に取り、ひらひらと振りながら言った。
「しょうがないわね…、一応預かっておくわ」
「あざーっす!」
亜弥たちは勢いよく礼を言うと、わらわらと喋りながら生活課の出口へ向かった。
「あ、そうそう」
一つの用事を終えたところで、亜弥が思い出したように淳平たちに言った。
「さっき由依からメールがあったんだけどね」
「おっ、いつものですかな?」
「そうそう! いつものよ!」
三人が亜弥に期待の眼差しを向けた。
「『特別な食材』入荷したって!」
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