第四章 ✲✲✲ 3 ✲✲✲

 あの後、新しい客が来店したことで、自然とお喋り会は終わった。

 会計は既に済ませていたから、店長に軽く挨拶してからカフェを出た。

 もうとっくに辺りは暗く、森の中だから尚暗く、帰り道ではスマートフォンのライトで足元を照らしながら帰った。

 帰り道の道中、五人の会話は少なかった。

 店長の友人の話が、誰にとっても思わぬ方へ進んでしまった。和哉たちの歳では、あまり経験しないであろう事への未知の切なさが、どうしても心に浮かんでくる。

「………………」

 特に亜弥と香織はカフェから出た途端、しょげた顔をして、無言で数刻前に来た道を戻り始めた。

 店長にその話、、、をさせたことを、気にしているのかもしれない。店長は寂しいことではないと言っていたが、亜弥たちにはそうは思えなかった。

 何て言ってたって、絶対に寂しいはずだ、と。それを笑顔で言わせてしまったことへの罪悪感と、所詮は多くの中の客の一人である自分たちに、その寂しさを感じさせないように偽りを喋っていたんだという、少しの悲しさと、いろんなものがごちゃ混ぜになっているのかもしれない。

 そんな二人にどう声をかけていいかも分からず、かといってほったらかして自分たちだけ喋るわけにもいかず、男子陣も同じように黙りこくっていた。

「………………」

 しかし、いつまでもこうだと気が滅入って仕方がない。和哉はなんとか、前を歩く女子二人の沈んだ心を、最大とは言わないまでも平常値にまで上げられないかと考えた。が、悩んで悩んで、悩んだ挙句、下手に言葉をかけて彼女たちの地雷を踏むことの方が恐ろしい、という結論に至り、結局声をかけることは出来なかった。

「…………」

 『遠く』に行ってしまったという、店長の友人。

 不慮の事故だろうか。それとも病気? まさかとは思うが、自ら…という可能性もなくはない。だが、店長が言っていた、あの言葉は。


 永遠に、一緒にいる。だから寂しくない。


 店長の友人が自ら望んで…、という可能性を打ち消しているような気がする。

 一体どんな過程を経れば、そんな風に言えるのだろう。

 もしかしたら彼女は、友人と別れる前に、何か大切なものを貰ったのだろうか。そして、それを肌身離さずに、ずっと持ち続けている、とか。そうだとするなら、可能性として一番高いのは病気ではないだろうか。

 だが、和哉はそういう経験、、、、、、をしたことがない。実際にその境遇に立った時、もしかしたら今自分が考えている事とは全く違うことが起こるのかもしれない。そしてそれは、経験した者にしか、きっと分からないのではないだろうか。

「……………」

 今ここにいる全員が抱いているであろう、それぞれの沈んだ感情は、店長からしてみれば、全く見当違いでおかしなものなのかもしれない。

 誰かの気持ちを慮って、何かを考えることは悪いことではないが、それが大きくなり過ぎてしまっても、本人の思いを蔑ろにしてしまうような気がした。

「……………」

 彼女の思いを尊重するなら、自分たちが変に落ち込んでしまうのは良くない。

 一緒に歩く四人には、それを伝えることは出来なかったが、自分だけは気持ちを沈めすぎないようにしようと。そう思うことくらいしか、和哉には出来なかった。

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