第四章 ✲✲✲ 2 ✲✲✲
和哉の思っていた通り、店長はひたすら亜弥と香織から質問攻めにあった。
歳はいくつなのか、とか、出身はどこなのか、とか。血液型は何なの、とか、星座はなに、とか。最初のいくつかは彼女の経歴についてを質問していたのだが、そこはやはり女子だからなのか、早々と、所謂昔に流行った「プロフィール帳」にある内容のような質問ばかりされていた。
最初こそ戸惑っていた店長だったが、だんだんと慣れてきたのか今は普通に談笑している。自分と話している時の彼女しか知らない和哉にとっては、同性と楽しそうに喋る彼女の様子を見る事が出来る貴重な機会だったかもしれないと、そう思うほど彼女は楽しげにしていた。やはり話す相手が男と女では話す内容も話のテンポも違うのだろう。自分には引き出せない彼女の一面があるのかと思うと少し悔しかったが、それは仕方がない。
和哉はそう割り切って、同年代の同性との会話を楽しむ彼女を、右横に座る友人に気づかれない程度にぼんやりと眺めた。
「ところでさ、店長さんって、友達と何処に遊びに行ったりするんですか?」
亜弥が店長に問う。
なんとなく三人の会話に耳を傾けていただけの和哉は、亜弥から急に出された話題に、密かに食い付いた。
彼女には休みと言う休みがほとんどなく、友人と遊びに行くことは少ないことは知っているが、その彼女の友人については何も知らない。
もしかしたら、ここで彼女の友好関係が少しわかるかもしれない。そう思ったら、いきなりで不自然かもしれないが、少し話に参加したい。
「ウィンドウショッピングとか? カフェ巡りとかもしてそう」
「いや、意外とゲーセンとか行ってたりしてぇー」
「うーん、あんまり遊びには行きませんねぇ。カフェがお休みになっちゃいますから」
話に参加しようか。いや、でも急に入るのはやっぱり変に思われそうな気がする。何とか亜弥と香織が場所の話ではなく、友人の話に持っていってくれればいいのだが。
「全然お休みがないなんて疲れません? たまにはパーッとしないと」
そう言う亜弥に、店長は笑って答える。
「そんなことないですよ。私はこのカフェでお客様に料理お作りするの、楽しいですから」
「えー、そーなのぉー? 友達からすっごい言われたりしない? 付き合い悪い、とか、たまには付き合え、とか」
「いやぁ、ないですよ。私、そんなに友達多くないですから」
冗談めかして店長は言う。
「それに、本当に大事な友達は、私とずっと一緒ですから」
「? え、なに?」
「どゆことー?」
本当に大事な友達は、ずっと一緒。
和哉にも何のことだか、よく分からなかった。
今の彼女の発言で、仲のいい友達がいないわけではないというのは分かった。
だが、「ずっと一緒」とは、どういうことなのだろうか。所謂、仲良し同士が言うところの「離れていても心はいつも一緒」というやつなのだろうか。メールや電話で、毎日欠かさずやり取りをしている、とか。
もう少し詳しく話を聞いてみたい。和哉と同じく、亜弥と香織もそう思ったのか、少しふざけた調子で店長に問う。
「心の友、ってやつですか? それとも一緒に住んでるの?」
「あー、シェアハウスってやつか」
「いいえ、違いますよ。でも今思うと…、それもしてみたかったですね」
店長はそう言って、何かを思い出す様に目を閉じた。
そのまま少し微笑む。余程大切な友人なのだという事が、よく伝わってきた。
優しげな表情で目を閉じる彼女は、とても美しいと、そう思った。
亜弥と香織も、そんな彼女に、暫し見惚れた。
「……そんなに仲良しなら、今から一緒に住んじゃえばいいじゃいですかぁ」
やがて香織が言った。
「そ、そうよ。別に今だからダメ、ってことはないでしょ」
香織に同調して亜弥も言った。しかし、店長は目を閉じて薄く笑ったまま、頭を振った。
「もう、一緒に住むことは出来ません。一緒にお喋りしたり、ご飯を食べたり。それも、もう出来ません」
ふと、和哉が気が付いたとき、話していた淳平と智晴が会話を止めていた。
亜弥と香織も、先ほどのようなふざけた調子を、今は引っ込めていた。
「……遠くに引っ越しちゃった?」
亜弥が問う。
「遠くに、そう…遠くですね。でも、ぜーんぜん寂しいと思ってませんよ。寧ろ、その反対です」
亜弥と香織が顔を見合わせる。
和哉も、淳平も智晴も、全員が静かになった。
それでも店長だけは、どこか幸せそうな顔で、うっとりと。
「何があっても。永遠に。私と一緒なんですから」
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