第三章 ✲✲✲ 3 ✲✲✲
その日の講義をすべて受け終えた和哉は、さっさと自宅に戻り、調べものをしていた。
朝に亜弥から聞いた、裕子という友人が撮った写真のことだ。
亜弥にも頼んでおいたが念のため、自分でも写真が出回っていないか調べることにしたのだ。とはいえ、裕子がSNS上で使用しているアカウントを突き止められるわけでもなければ、実際の写真を見ていないから、どの写真がそうなのか確証も持てない。
亜弥は写真に「店内が映っている」と言っていたから、きっとその写真を見たのだろう。それを手掛かりに探すしかない。
和哉は自宅のパソコンを開いて、あれこれとワードを入力して検索する、というのをひたすら繰り返している。が、未だにそれらしい写真は見つからない。
「んー…、なんて入れたらいいんだ…」
カフェの名前の『満腹カフェ』は先ほど検索したが、何もヒットしなかった。
その後に「○○大学付近 飲食店」と入力してみた。
和哉の通っている大学付近に飲食店は少ない。もしかしたら、カフェやメニューの名称を避けて掲載いるかもしれない、そんな淡い期待を抱いたが、大衆が知っているような飲食店しか出てこなかった。
「んんー…、無いか…」
「森 飲食店」、「フェンス 森 カフェ」、「ひとり 営業 カフェ」、「特別な食材」、その他いろいろ調べてみるも、全て空振りに終わった。
「もしかしたら、上げてないのかもな…」
裕子が写真を上げていない可能性も勿論ある。この先どうかはまだ分からないが、少なくとも今の時点では見つからない。
それならば、少し間を開けて再び調べてみるのがいいのかもしれない。
「……ま、見つからないなら、それでいっか」
写真が見つからなかったことに、少しほっとして、和哉はパソコンを閉じた。
「………………」
それにしても。
店長はどうやって、SNSに上がった写真や記事を削除しているのだろう。
カフェの常連客なら、次に来店したときに削除するよう注意することは出来るだろうが、もしも、その時一度きりの客だった場合、どうしているのだろうか。
初めて来店した客の場合は、目を光らせて、写真そのもの自体撮らないように監視しているのだろうか。和哉が初めてカフェに行ったときは、写真など撮らなかったから、何も言われなかったが。
「じゃないと……無理だよな」
一度SNS上に情報が載れば、あっという間に不特定多数に広がってしまう。
仮に、載せた本人にその写真だか記事だかを削除させても、どんどん広がって、もう止めようがなくなるのだ。
今の時代、SNSに情報が全くない、という状況を作ることの方が難しい。
常連客がやったことを取り消すのさえ難しいのに、一度きりの客なら、ほぼ削除させるのは不可能だろう。
「嫌だ、って言ってんだから、ちゃんと守ってやりゃあいいのに」
ぼそり、と。
呟いても、誰にも伝わらない。
店長の血の滲むような努力を思うと、なんだか腹立たしく思った。
自分に手伝えることがあるとすれば、写真や記事を見つけた時に店長に報告するとか、自分がカフェにいる時なら、写真を撮ろうとしている客に注意することくらいだろう。せめて彼女自身がそれらに費やす時間を、減らすことくらいしかできない。
和哉は、あらゆるルール破りの客に対してだけでなく、自分の無力さにも苛立ちを覚えた。
「…………明日、カフェ行こー…」
とりあえず、写真を撮った奴がいる、とだけ伝えておこう。SNSにも載せないように伝える、という事も。もし彼女が希望するなら、写真データを削除するように、裕子に伝えてもいい。
「伝えるのは、亜弥かもしんねーけど…」
そう呟いて、和哉は、彼女の料理とは程遠い、適当な残り物の食材を使って適当に夕飯を作ろうと、一人暮らしの部屋に付いている狭いキッチンへ向かった。
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