横尾くんは語る、どうしてと
「メグ、カマガク合格おめでとーっ! まじメグすごすぎっ!」
勢いよく抱き付いてくる美咲の衝撃に、思わず私はのけぞってしまう。
こちとら生まれてこの方、インドア人生しか送っていないんだから、少しくらいは手加減して欲しい。
「いやぁ、まじ誇りだわ。というか可愛くて頭も良いってメグずるくない? ちょー人生イージーモードじゃん!」
それ、美咲が言う?
私の受かった第一志望の高校より少し偏差値は低いけれど、文武両道で有名な名門校に美咲も見事合格したらしい。
「いやうちはまじギリギリだから。なんで受かったのか謎。でも渡辺さんも第一志望受かったし、みんな通ってよかったー!」
「いえいえ。私のところはお二人に比べたら大したことないので……ほんとうに、メグさんも美咲さんも尊敬しますよ」
「そんなことないって! だって渡辺さんが受けたとこ、光太郎も受けたんだけどさ、あいつ落ちたから!」
「え? あ、そうなんですね。え、えと、なんかごめんなさい……」
「謝んなくていいよ! 光太郎がまじばかなだけだから!」
合格発表の次の日ということで、もっぱら話題は進路のことになる。
だけどこうやって皆で話していると、改めて卒業したらみんなばらばらになっちゃうんだなって、やっぱり寂しさは隠せない。
「だけどやっぱメグが一番すごいよね。カマガクより上って、うちのクラスでも青山くらいでしょ?」
「たしか青山くんは……スイラン、ですもんね。なんか、本当に受かるんだーって感じです」
「青山は反則だから、メグが実質一番だね。というかあいつも受けるのカマガクって噂だったけど、結局スイラン受けて、それで受かるとか、もう逆に変態でしょ」
「変態って、美咲さんさすがにそれは青山くんに悪いですよ……」
教室の反対側では、青山くんがクラスメイト達に囲まれて、祝福の声をかけられている。
扱いはまるでヒーローだった。
照れくさそうに笑う青山くんは、いつもと全く変わらないように思える。
でもそんな青山くんの方を、私はまっすぐと見ることができないでいた。
「……で? なんで横尾はそんな塞ぎこんでんの? あんたも第一志望受かったんじゃないの?」
意図的に触れないでいた私の左隣りに、美咲がとうとう話をふる。
文庫本を片手に、物思いにふける横尾くんは、声をかけられてからずいぶん時間をかけてからこちらに振りかえる。
「あ、ああ……悪い。聞いてなかった。なにか僕に用かい?」
「いや、べつに用はないけど……あんた、大丈夫? なんかいつにもましてキモイよ?」
「ああ、僕は、大丈夫だ。心配かけてすまない……」
「うそ? これまじ重症じゃん。ほんとに横尾大丈夫?」
朝から横尾くんはずっとこの調子だ。
話を聞く限り、彼も無事第一志望の高校に合格したみたい。
それなのに、どうしてか、心ここにあらずといった様子だった。
「どうしたんでしょう、横尾くん?」
「さあ? よくわかんないけど、メグが慰めてあげれば元気になるんじゃない?」
な、なんで私なのよ!
変なことを言う美咲につっこむけれど、それにも横尾くんは何の反応も示さない。
もしかして、これは――
「――失恋、でもしたんですかね横尾くん? ちょうどうちの弟も夏頃こんな感じに、もっとも弟はべつに失恋したんじゃないって言ってましたけど」
「まっさかぁ? ……だってメグ振ってないっしょ?」
振ってないよ!
小さく耳打ちしてくる美咲に、私は慌てて否定する。
でも、たしかに、私は聞いてしまったのだ。
横尾くんの消え入るような、困惑に満ちた囁き声を。
「……どうして、どうして振られたんだ?」
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