高橋くんは誇る、だから言ったろと
いや、たしかに二人でとは言ってなかったけどさ。
十二月二十五日の午後三時過ぎ。
横尾くんに指定された通り、私は自宅の最寄り駅から幾分か離れた街へやってきていた。
しかしそこにあったのは私の予想していた光景とはちょっとばかし違ったもの。
居心地悪そうに腕組みをしている横尾くんの隣りには、見覚えしかないスタイルの良い女子が一人と、耳がすっぽりと隠れるほど髪を伸ばした小顔の少年が一人いた。
なんであの二人がここにいるわけ。
それは間違いなく私の親友の美咲と、その彼氏である高橋くんだった。
「うそ、まじでメグきた? 信じられない。横尾がほんとにメグを誘えるなんて」
「な? だから言ったろ? 横尾はやる時はやる男だって? これで賭けはおれの勝ちな。あとで飲みもん奢れよ」
私が近づいてくるのに気づくと、高橋くんが元気よくぶんぶんと手を振ってくれる。
美咲がなにやらニヤニヤと鬱陶しい視線を浮かべているので、形の良い鼻頭をつついてやった。
「いったっ!? なにすんのよメグ。そんなに怒らなくてもいいでしょ」
「おっすー、メグちゃん。久しぶり。元気にしてた?」
ぴーぴー騒いでいる美咲は無視して、私は高橋くんと軽く挨拶をかわす。
高橋くんの言う通り、彼とこうやってちゃんと会って話すのは結構久々に感じた。
二年前に同じクラスだった時に比べて、少し背が伸びたかもしれない。
「助かったよ。もし君が来てくれなかったら、人生最悪のクリスマスを過ごすところだった――って痛いっ!? な、なぜ僕に肘鉄をっ!?」
そして普通に話しかけてくる乙女心を全くわかっていない横尾くんにも、裁きの鉄槌を下しておく。
『明日ちょっと、会えないかな』
あのメッセージを受け取った時の私が、どんな気持ちだったと思ってるのよ。
困惑に顔を歪める横尾くんをとりあえず放置して、説明を求めるため美咲を睨みつける。
「ま、まあまあ、落ち着いてよメグ。べつに悪気があったわけじゃないんだって。中学最後のクリスマスだからさ、光太郎だけじゃなくてメグとも過ごしたいなーって思って」
私と過ごしたいなー、って思って、なぜ横尾くん経由で誘うようなことになるのでしょうか。
表情筋を一切動かさず、私は美咲に説明の続きを促す。
「ほ、ほら、うちと光太郎とメグだけじゃバランス悪いかなと思って、横尾を誘ってみましたみたいな? で、せっかくだからメグは横尾から誘って貰おうと……」
せっかくだからの意味がさっぱりわからない。
横尾くんも横尾くんだ。
美咲たちがいるならいると、言ってくれればいいのに。
「僕も悪かったよ。ああいった誘いの言葉には慣れていなくて。そもそも、僕は辻村たちからある程度流れは聞いてると思ってたんだ」
横尾くんも私の機嫌を伺うように、伏し目がちに謝ってくる。
べつに言動ほど私は怒っているわけではないので、そこまで恐縮されると逆にこっちが申し訳なくなる。
わかった。わかった。もういいから。それで、今日はなにするの?
せっかくのクリスマスだ。
いつまでも変な空気にしても仕方ないので、私はぱんぱんと手を叩いてムードを変える。
「なんだおれらがいることメグちゃんは知らなかったのか。あれ? ってことは、今日は横尾と二人っきりで過ごすつもりでここに来たってこと?」
ふいに、高橋くんが不思議そうな顔で私を見つめる。
なんて言い返せばいいのかわからない私は、無意識的に横尾くんの方を見てしまう。
横尾くんはぽかんとした表情で、みるみるうちに顔を耳まで真っ赤にしていった。
ちょっと待ってよ。
二人揃って顔を紅くしたら、恥ずかしさが倍増しちゃうじゃない。
「へぇ。そっかぁ。青春だねぇ」
恋人持ちのあなたが言わないで。
高橋くんは感慨深そうに、うんうんと頷いている。
その横でまたニヤニヤとしている美咲を、サンタのソリにくくりつけて世界中に引き摺り回したい気分だった。
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