横尾くんは語る、トナカイの方に気をかけるのかと
街がきらびやかなライトアップに照らされている。
それもそのはず。今日はクリスマスイブだ。
普段はそこまで混み合うことのないケーキ屋さんには、お店からはみ出るような行列ができていた。
テレビをつければ、仲睦まじそうなカップルがインタビューを受けている。
それをリビングで眺める私はもちろん一人ぼっち。
静かに私はテレビのチャンネルを回して、もっと殺風景な番組に変える。
そして太い溜め息を吐きながら、暇潰しがてらにケータイを弄ろうとすると、未読のメッセージが一件きていることに気づく。
〔君はサンタクロースのソリを引くトナカイが何匹いるか知っているかい?〕
そのあまりにぶしつけな問い掛け。
差出人は見なくてもわかった。
横尾くんだ。
メッセージがあまりにも丁寧な長文になる癖は、散々学校で美咲にいじられたせいか治っている。
〔知らない~、八匹くらい~?〕
すぐに返信をする私は、効き目の薄そうな健康器具を紹介しているテレビのスイッチを切る。
今の私には、全てが雑音に思えてしかたなかった。
〔惜しいな。正解は九匹だ。もっとも八匹でもある意味正解だけどね。赤鼻のトナカイであるルドルフは後から加わったトナカイだからね〕
赤い鼻をしたトナカイにルドルフなんて小洒落た名前があったなんて知らなかった。
というかその言い方だと、他のトナカイは赤鼻じゃなかったりするんだろうか。
〔他の八匹のトナカイにも名前があるの~?〕
もう私も中学三年生になってしまったので、本当にサンタクロースがいるなんて夢物語は信じていない。
でもだからといって、横尾くんのトナカイに関する愉快なお喋りを妨げようと思うほど、大人に疲れる歳でもなかった。
〔もちろん。
“Dancer”、“Prancer”、“Vixen”、“Dasher”、“Comet”、“Cupid”、“Donner”、“Blitzen”。これがそれぞれのトナカイの名前だ。読み方はドイツ語らしいから知らないけど、意味は前から“踊る子”、“跳ねる子”、“うるさい子”、“速い子”、“ほうき星”、“キューピッド”、“稲妻”、“輝く子”、らしい〕
ほうき星もいればうるさい子もいるのか。
なんとなく同じトナカイの中でも、名前の付けられ方に格差があるような気がしないでもないけれど、そこは見てみぬ振りをしておこう。
〔でも九匹だけで、世界中の子供たちにプレゼントを贈るなんて大変だね~〕
私は重労働のトナカイ達に同情する。
たったの九匹で地球を駆け回るのはとてもしんどそうだ。
トナカイの世界に労働基準法はあるのかな。
〔相変わらず君の着眼点は独特だね。サンタクロースじゃなくてトナカイの方に気をかけるのか。君らしいね。すぐそこに赤くて大きなサンタがいるのに、そっちには目を向けない〕
画面の向こう側で、なんとなく横尾くんが笑っているのがわかる。
なんだよまったく。トナカイの話をしてきたのは横尾くんの方じゃない。
ちょっとばかにされている気がして、私は言い返そうと文章を打ち込む。
しかし、からかいの仕返しより先に、横尾くんは私に致命的な追撃を送り込むのだった。
〔ところで話は変わるけれど、明日ちょっと、会えないかな?〕
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