鈴井さんは嘲る、もう時間がないと
十二月にも身体が慣れ始め、そろそろ今年最後の三者面談の時期が迫って来ていた。
面談の内容はもちろん、高校入試についてだ。
公立高校の場合、出願が一月の中旬辺りなので、さすがにそろそろ受ける高校を決定しなければいけない。
私の成績に関しては、秋ごろはやたらと下降気味になっていたけれど、冬に差し掛かかってくると、ありがたいことに再び上昇の傾向を見せるようになってきた。
冬の冷気に頭が冷まされたのか、それとも反対に、意識をはっきりさせるような熱に当てられているのかはわからないけれど、とにかくなんとか調子を取り戻し始めている。
この調子でいけば、ぎりぎり私の第一志望であるカマガクの隅っこに潜り込めるかもしれない。
「あー、そろそろクリスマスだねぇ。あぁ、でもその前に三者面談かぁ。ホンアイはどこ受けるかとかもう決めてるの?」
教室の後方にある掲示板。
そこに貼られている行事や入試の日程についての紙々を眺めていると、ふいに横から甘ったるい声をかけられる。
隣りを見てみれば、毛先を軽くウェーブさせた鈴井さんがいて、退屈そうな表情で張り紙に視線を注いでいた。
一応、第一志望は決めてあるよ。受かるかわかんないけどね。
せっかく受けるなら、両親の期待もあるし、合格したい。全力は尽くすつもりだった。
でも実際問題、本当に受かるかどうかはわからない。
滑り止めとして私立高校も受けるつもりだったけれど、経済的な面から考えても、なるべく第一志望の公立高校に通いたいところ。
そう考えると、受験がやはりプレッシャーに感じてくる。
いったいどこの誰だろう。こんな心も身体も疲れる制度を考えついたのは。
「へぇ。まあ、さすがにこの時期ならもう決まってるよねぇ。ちなみにどこぉ?」
私は素直に自分の志望校の名を伝える。
すると鈴井さんは驚いたように元々大きな目を見開き、どこか感情を悟らせない声で、そうなんだ、と言った。
「そこ、慎吾も受けるかもって言ってたところだ。……ふーん、そっかぁ」
そういえば青山くんも、第二志望辺りに私の第一志望であるカマガクの名を書いていた気がする。
でもたぶん、彼が実際に受けることはないと思う。学力的につり合ってないからね。
しかし、私がそう伝えても、鈴井さんはあまり納得していないように眉を歪めるだけだった。
「ううん、寧々は、慎吾もホンアイと同じところ受けると思うなぁ」
え? なんで? だって青山くんの成績だったらもっと偏差値高いところ受かると思うんだけど。
私は素直に疑問を口にする。
だけど私よりよっぽど青山くんと仲良い鈴井さんがそう言うなら、何かしらの理由で第一志望を変えたのかもしれない。
そう考えると、青山くんが男子でよかった。もし女子だったら、合格枠が確実に一つ減っているところだ。
「もう、時間、ないなぁ」
受験までの時間が? と聞いたけれど、鈴井さんは妖しく笑うだけで、そのまま教室の外に歩き去って行った。
三者面談を終え、クリスマスが過ぎれば、もう年が明ける。
そしたら入試まであっという間だ。
そして入試が終われば、別れの季節が来る。
時間がないのは、鈴井さんだけじゃない。そんなことは、私にもわかっていた。
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