横尾くんは語る、こちらこそよろしくと
日曜の夜。
段々と涼しいなんて言葉じゃ言い表せないほど冷え込んできている。
自室のベッドに仰向けになって寝転がる私は、特に何をするわけでもなくケータイでネットサーフィンをしていた。
今年のクリスマスはどっかに遊びにでも行こうかなんて、ぷかぷかと心を浮かばせている。
あともう少しで、零時を回ってしまう。
そろそろ寝た方がいいのは分かっているけれど、どうしてか私はまだ眠れないでいた。
理由は明白。もはや自分に嘘はつけない。
私は待っているのだ。横尾くんから連絡が来るのを。
美咲のお節介によって横尾くんに私の個人的な連絡先を知られてから、もう数日経っている。
それにも関わらず、まだ私の方は彼の連絡先を知れないでいた。
いま、なにをしているのかな、なんて考える。答えはでないのに。
ぶるるっ、とその時私のマナーモードにしてあるケータイが手元で震える。
やたら慌ててしまった私は思わずケータイを顔に落としてしまう。
痛みを帯びたおでこをさすりながら、ケータイを拾いなおせば、そこには新着のメッセージが一件きていた。
〔どうよ。横尾は。なに喋ってんの?〕
ふっ、短くひと呼吸。
メッセージの送り主は残念ながら、と言ったら悪いけれど美咲だった。
〔どうもなにもないよ~、なにも連絡きてない~〕
私はぺたぺたと美咲に返信する。
自分でもよくわからないけれど、文面だと私は語尾を伸ばす癖があった。
〔は? それまじ? 一回も連絡きてないの? じゃあメグはまだ横尾の連絡先も知らないままってこと?〕
〔ざっつらいと。そゆこと~〕
なんだか自分で言ってて虚しくなってきた。
横尾くんプライベートで私に興味なさすぎでしょ。泣きそう。
〔おっけ。りょうかい。横尾のことちょっと殺してくるわ〕
いや殺すなよ、と私は返信したけれど、そこで美咲の反応も止まってしまった。
私の親友は基本的に過激派だ。ちょっとトイレ行ってくるね、くらいのノリで誰かと喧嘩しに行くことが多々あった。
それにしても、もう今年も終わりだなぁ。
私は殺風景な部屋を彩る数少ないアイテムである世界一周旅行風カレンダーを眺めて、今年一年をなんとなく振り返ってみる。
今年はとうとう受験生になり、体育祭ではむりやりアンカーの一つ前を走らされ、サッカー部の応援に初めて行ったり、修学旅行で京都を巡ったり、文化祭では演劇部の引退したり、本当に様々なことがあった。
あと今年も残すことあと一ヵ月。
特に十二月はイベントがない。
しいていうならクリスマスと年越しがあるけれど、べつにそれは楽しみというほどでもなかった。
来年の今頃、私はなにをしているのかな。
もう、会えなくなっちゃうのかな。
ぶるる、とその時、またケータイが小刻みに震える。
今度は取り落とすことなく、しっかりと握ったまま、やっと美咲から返信が来たかと画面を見る。
〔どうも本田愛さん、横尾俊平です。こんな夜分遅くに申し訳ない。辻村の方から連絡先を教えて頂いので、こうしてご挨拶させて頂きました。どうもむりやり聞き出してしまったような形になってしまい恐縮ですが、一方的にこちらの方だけ連絡先を知っているのもどうかと思い、迷いましたがご連絡させて頂いた次第です。それではどうぞよろしくお願い致します〕
……いやかたすぎだろ。というか長い。
私はふふっと思わず笑みをこぼしてしまう。
名前のところに“横尾俊平”と示された人物からのメッセージは、今年一番の傑作かもしれない。
タイミング的に考えて、横尾くんは美咲の宣言通り、軽く殺されてしまったのだろう。
もしかしたらやたら畏まった文面なのも、それが理由かもしれない。
〔どうも本田です~、末永くよろしくね~〕
私はいつものテンポで普通に返す。
横尾くんに合わせて長文で返そうかと思ったけれど、彼はそれを本気にして毎回長文を送ってきそうなのでやめておいた。
だけど自分の送ったメッセージを見直して、少し思う。
末永くってなんだ。ちょっと言い回し変かな?
若干の恥ずかしさを感じながらも、私はぼうっと画面を眺め続ける。
そして横尾くんからの返事は、ほどなくしてやってきた。
〔こちらこそ、よろしくお願いします〕
こちらこそってなんだよ。もう、やんなっちゃうなぁ。
本人がどう思っているのかはわからないけれど、こういうところは本当に横尾くんには敵わないなって思った。
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