横尾くんは語る、気が合わない奴と趣味が合うと
「本田さんは今日の午後、なにか予定入ったりしてる? 今日は塾、休みだよね?」
ケッペンだかワッペンだかわからない人が各地の植生をもとにつくった気候区分。
たった今終わったばかりの社会の授業のノートを眺めながら、ツンドラ気候ってなんか可愛いなとチンプンカンプンなことを考えていると、ふいに声がかけられる。
顔を上げればそこには同じクラスの青山くんがいて、善のカルマ値が振り切れていそうな爽やかスマイルを浮かべていた。
特に何も予定はないと思う。今日、というか毎週金曜日は塾もないし。
私も一応部活には入っているけれど三年生だし、文化系の部活なので活動日はほとんど自由裁量だった。
つまりは基本的に暇人ということだ。
「どうしたんだい? いったい何の用だ? 今月の金曜日は十三日じゃない。余計なおもりは必要ないと思うのだけれどね」
するとなぜか左横から横尾くんが私と青山くんの話に割り込んでくる。
理由はわからないけれど、横尾くんは少し不機嫌そうだ。
お腹の調子でも悪いのかもしれない。
「横尾に訊いたわけじゃないんだけど……まあ、ちょうどいいや。今日の放課後にさ、打ち上げやろうって話になってるんだけど、よかったら二人ともどうかなと思って」
打ち上げ。
いったいなんの打ち上げだろうかと思うと、どうやらこの前やった運動会のものらしい。
たしかにタイミングを逃して今日までそういったものはやれていなかったと気づく。
「まず食べ放題で夕飯を早めに食べた後、皆でカラオケ行く予定なんだけど、来れる? もし明日朝早いとかだったら、ご飯だけでもいいからさ」
私はわりとインドア気味なので、毎月貰っているお小遣いはわりと溜まっている。
金銭的な心配はないはず。
特に予定もないし、受験勉強にも疲れてきたから、ちょうどいい息抜きかもしれない。
うん。行く。誘ってくれてありがと。
とくに迷うこともなく、私は青山くんに参加するという返事をする。
「そっか。よかった。来てくれて嬉しいよ、本田さん。それで、横尾は? 部活とか大丈夫?」
「……そうだな。明日の朝に部活があるからカラオケの方には行けないけれど、ご飯の方には参加しよう」
そして意外にも横尾くんも打ち上げに参加するみたいだ。
こういったプライベートなクラス行事は苦手そうなイメージだったけど、案外そうでもないらしい。
「おっけ。わかった。じゃあ二人ともまた放課後でね」
そのまま青山くんは他のクラスメイトたちに声をかけに行く。
突然の誘いということもあって、クラス全員参加というわけにはいかないだろうけど、幹事があの青山くんなので、わりと半分以上は集まりそうな気がしていた。
「君は青山と仲がいいのかい? やけに親し気だったけれど」
すると横尾くんが訝しそうな目で私を見つめてくる。
そんなに親し気だったかな。普通だと思うけど。
「いや親し気だったね。間違いない」
なんでこんなに自信満々なんだ。しかもちょっと不満そうだ。
私は苦笑する。
青山くんは誰に対しても親し気なので、たしかに私に対して親し気といってもそれは間違いじゃなかった。
「……まったく困ったものだな。気が合わない奴と趣味が合うなんて」
私がぎりぎり聞き取れるような音量で、横尾くんは独り言を口にする。
もしかして気が合わない奴というのは青山くんのことかな。
だとすると、趣味が合うってのはどれのことを指しているのだろう。
ああ、わかった。カラオケか。
横尾くんもカラオケが好きだなんて、これまた意外だなと思った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます