美咲は主張する、横尾くんは私に惚れていると



「ねぇ、メグって横尾と付き合ってんの?」


 授業と授業の合間の短い休み時間。

 私の左隣りの席にどかりと座ったと思えば、親友の美咲がいきなりぶしつけにもほどがある質問をしてくる。

 ちなみに彼女の座る場所の本来の席主は、今日は部活の大会の関係で学校を公欠している。


「ぶっちゃけどうなのよ。付き合ってるわけ?」


 私が返事をせずに硬直していると、畳みかけるように美咲は同じ質問を重ねてくる。

 彼女とは小学校の頃からの付き合いで、今更互いに遠慮をするような関係性でもないけれど、もっとなんというかオブラートというものを覚えて欲しい。


 べつに付き合ってないけど。


 私は端的にそっけなく返事をする。

 こっちとは違って美咲には彼氏がいるので、基本的に彼女と恋愛関係の話題をするとき私は機嫌が悪くなる。


「だよね。そうだと思った」


 だったらきくなし。

 私を批難の意志を込めた目で美咲を睨みつける。

 すると彼女はごめんごめんとまるで反省していないような平謝りしてみせた。


「いやちょっと知り合いの男子にメグが横尾と付き合ってるかどうか確かめてっていわれてさ。それで訊いただけ」


 なにそれ。誰よそんなこと言ってたの。

 私がその余計な深読み野郎がどこのどいつなのか問い掛けると、美咲はニヤニヤといやらしい笑みを浮かべた。


「ふふふ。残念ですが、そちらに関しましては依頼主のプライベートに関することなのでお答えできません。ただ、メグも隅に置けないなとだけコメントしておきましょう」


 なんかムカつく。

 どうしてこう私の左隣りに座る人は皆こう腹立たしい顔をするのだろう。


「だけどさ、正直なところメグは横尾のことどう思ってるわけ? あいつ絶対メグに惚れてるじゃん。告られたら付き合うの?」


 は?

 美咲があまりに荒唐無稽なことを口走るので、私は思わず間抜け面を晒してしまう。

 いったい何がどうなったら横尾くんが私に好意を持っているという話にいきつくのかさっぱりわからない。


「だってあいつメグにだけめっちゃ話しかけるじゃん。メグはこうやって横尾以外にもうちとか他のクラスメイトと普通に喋るけど、あいつマジでメグにしか話しかけないじゃん。絶対惚れてるって。メグと喋ってる時超嬉しそうだし」


 それは単純に横尾くんに私以外に喋る相手がいないだけでは?

 私は美咲の推理をより現実的なものに修正する。


「いやいや、横尾に気に入れられてるメグは知らないかもしんないけど、あいつ超気難しいからね? うちも初めの頃は挨拶とかしてみたけどふつうにガン無視されたし」


 思い出したら腹が立ってきた、と美咲は続ける。

 言われてみれば横尾くんがこのクラスで私以外の人と喋っているところは見たことがない。

 席が近いからかな。私は一番最もらしい理由を口にしてみる。


「いやいや、絶対それだけじゃないって。うち三年間横尾とクラス一緒だけどさ、マジでメグ以外の女子に話しかけてるとこみたことないもん。同じサッカー部の男子とは、まあそれなりに喋ってたけど。あれで一応うちの学校のエースフォワードらしいから」


 そういえば美咲は横尾くんと三年間同じクラスなのか。

 意外な組み合わせでちょっと面白い。

 ちなみに私は一年生の時は二人と一緒のクラスだったけれど、二年生の時は離れ離れになって、また現在の三年生になったところで同じクラスメイトとして再会した感じだ。


「でもまあ、当の本人がこの様子じゃ、横尾の努力もあまり実ってない感じか。意外にメグって人気者だからちょっとあいつにはハードル高いかもね」


 それ美咲が言う?

 私にとって最も身近なリア充である美咲に人気者扱いされ、ちょっと皮肉が過ぎるんじゃないかと抗議する。

 すると美咲は本当に困ったような顔をして笑っていた。



「ま、横尾よりうちの方がメグのこと好きなのは間違いないけど」



 そして美咲はなぜかドヤ顔でそんな意味のわからないことを言うので今度は私が思わず笑ってしまう。


 浮気宣言ですかとからかえば、真顔でこっちが本命ですという美咲が面白くて私はさらに笑ってしまうのだった。




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