横尾くんは語る、両親のどちらかが嘘をついていると
そろそろ三者面談の時期が迫って来ている。
まだ私は志望校を完全には決めていないので、もしかしたらちょっと荒れるかもしれない。
私のお母さんはなんというかお喋りなのであれだが、担任の川谷先生はほんわかした性格なのでうまいことバランスはとれるだろう。そう信じている。
「君もそろそろ三者面談の時期だろう? 父親と母親のどっちが来るんだい?」
私はお母さんだよ。横尾くんは進路とかもう決めたの?
進路希望調査の紙を眺めながら思案気な表情をしている横尾くんに私は言葉を返す。
「いや、僕はまだ決めていない。三者面談は僕も母親が来る」
意外なことに横尾くんもまだ進路は決めていないらしい。
横尾くんは英語の成績だけやたらいいことは知っているが、他の科目はどうなのだろう。学年での総合順位が上からでも下からでも五本の指に入るような人は噂になるが、そこで横尾くんの名前を耳にしたことはないので特別いいわけでも特別悪いわけでもないとは思うが。
ちなみに私の成績は中の上である。最上位層のワンランク下くらい。クラスでだいたい三番目とか四番目の位置にいることが多い。
「三者面談で思い出したんだけれど、君は両親のどちらからプロポーズしたのか知ってるかい?」
またいつもの通り横尾くんの話がいきなり飛ぶ。
両親のどちらからプロポーズしたかなんて知らないし興味もない。
でもたぶん、お父さんの方なんじゃないかな。わからないけど。だいたいそういうのって男の人の方からするって聞くし。
「実は結構前にたまたま父と恋バナをする機会があってね、その時母の方からプロポーズしたという話を聞いたんだ。てっきり父の方からプロポーズしたとばかり思っていたから驚いてね」
たまたま父と恋バナをする機会があってね、という横尾くんの言葉に私は驚く。
父親と恋バナをする機会、ふつうあるだろうか。恋人の有無をお母さんに無駄につつかれることはあっても、あれは恋バナといった感じではない。
というか仲良いな横尾家。私も家族間の交流はどちらかといえば活発な方だと思っていたけれど上には上がいるものだ。
「でもちょうど昨日、また偶然今度は母と恋バナをする機会があったのだが、母は父の方からプロポーズしてきたと言っていたんだ。二人とも相手からプロポーズをしてきたと主張している。つまり、両親のどちらかが嘘をついているということになる」
なんと今度は一応の異性である母親とも恋バナをしたと横尾くんは語る。
仲良すぎだろ横尾ファミリー。だいたいなんで横尾くんはそんなに恋バナばっかりしているんだ。恋人をつくれないのではなくつくらないだけとか言ってたくせに、興味津々じゃない。
「でも僕には二人のどちらかが嘘をついているようには見えなかった。父も母も見栄を張るような素振りはなく、二人ともそのプロポーズの話をする時はとても嬉しそうな顔をするんだ。君はどう思う?」
いや、どう思うといわれましても。
唐突な横尾くんからの問い掛けに私は言葉を詰まらせる。
他人の両親、しかも異性のクラスメイトの両親のプロポーズ問題に私が何を言えばいいというのだろう。横尾くんの両親の性格はおろか顔すら私は知らないのに。
「まあこんなこと君に尋ねても仕方ないか。……ちなみにだが、君はプロポーズはされたい方かい? それとも自分から?」
少し窺うような声色に変えて横尾くんがちらちらと私の方を見てくる。
プロポーズか。考えたこともなかった。
うーん。そうだな。やっぱり一応好きになった相手には自分から伝えたいかな。でも私より先にプロポーズしてこられたらキュンとしちゃうかも。
「なるほど。変なところで捻くれている君らしい答えだな」
思ったことを素直に言ったのに捻くれ者扱いされた。きっと捻くれ者からみた正直者は捻くれて見えるのだろう。
でも私の答えを聞いた横尾くんはなぜか妙に嬉しそうな顔をしていたので、心優しい私は変なところで正直な彼の邪魔をしないであげることにしたのだった。
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