第2話 特殊性癖教室へようこそ 第一章①
第一章
目の前のプリントには、おどろおどろしい文字列が踊っている。
特殊性癖の名前が二十個。その上に標題として「二年九組の生徒が持っている全性癖」と書かれている。
「なんですか、これ?」俺は聞いた。
四月二日。
目の前には清純学苑の学苑長である死にかけの九十代――小学校時代の自分がつけたあだ名にして――「アンデッド
「書いてある通りじゃよ」祖父は真面目ぶった声を作った。「
祖父は、口元をくちゃくちゃさせながら俺を見ている。そのくちゃくちゃを眺めながら……俺はさっきからずっと思っていたことを言った。
「ひょっとして学苑長先生は、おボケになっておられるのでしょうか?」
「失礼じゃぞ」祖父は、ちょっぴり真面目に俺を諌めた。
「フフ、ボケるにしても、特殊性癖教室とは、随分とファンキーなボケ方を……」
「だから、違うと言っておるじゃろ」祖父のハゲた頭に血管が浮かんだ。「お前は、過去の偉人や天才には、特殊性癖の持ち主が多いという話を聞いたことはないか?」
「本当かどうかはわかりませんが、聞いたことはありますね」
「例えば、『俺の尻を舐めろ』を作曲したモーツァルトに、匂いフェチだったナポレオン。十三才の愛人を愛でていた伊藤博文に、バナナをアレしてアレした与謝野晶子。露出狂で逮捕されかけたルソー等、偉人と特殊性癖は切り離せん」
「それは、後世の人が面白がってそう伝えただけで……」
「そこで、この学級を作ったご先祖様はこう考えた。『逆に、特殊性癖を持った生徒を集めれば、日本の未来を担うような人材が集まるのでは?』と」
「逆転の発想過ぎませんか?」
「特殊性癖教室は、全国各地から特殊性癖の生徒を集めたクラスじゃ。人数はわずかに二十人。クラス番号は決まって『九組』で、中高の六年間クラス替えは無い。そこに書かれている性癖を持った生徒が、在籍しておるクラスじゃ」
俺は渡されたプリントを見る。
どれを取っても危険そうな性癖だ。食人症とか火炎性愛とか、洒落にならなさそうなものも書いてある。
祖父の冗談だとは思いながらも、俺はつい質問をしてしまう。
「こういった生徒たちの情報って、どうやって集めてくるんでしょうか」
意地悪な気持ちで聞いてみると、祖父はさらりと答えた。
「それは、政府と連携して集めておるんじゃよ」
「ハハ、そんな方法ですか」
俺も中学校の時はよく妄想をしたものだ。政府が秘密裏に能力者を集めているとか……。
「もしかして秘密結社とか、世界政府とかとも関わりがあるんですか」
「ほう! 飲み込みがいいのう」祖父は頬をほころばせた。「じゃが、この情報はあくまでシークレットじゃ。生徒たちには、特殊性癖教室のことは教えてはならん。秘密を漏洩すると、秘密警察が殺しに来るぞ」
「そんなレベルなんですか?」
「ああ、そうじゃよ」祖父があまりにも真面目な顔をしているので、段々と不安になってきた。認知症に強い医者を予約するべきだろうか……。「一般の生徒は九組のことを、特別進学クラスとしか思っておらんし、特殊性癖教室の生徒たち自身も、自分たちが特殊性癖という共通点を持って集められていることを知らん」
「はぁ」とはいえ、六年間も同じメンバーのクラスなのだし、当の九組の生徒からすれば、なんとなく気づきそうな気がしなくもない。
「そこで、お前には特殊性癖教室である、高等部の二年九組を請け負って欲しい」
祖父は真剣な目で俺を見つめる。なんとなく、のっぴきならない事態になっている気もしてきた。
「もちろん、やれと言われればやります。ですが、学園の実績を担っている、エリートクラスですよね。そんなクラスを、新卒の俺が受け持っても――」
「問題ないぞい。おじいちゃんがついておる」
「やっぱりこの件、断らせてもらっても――」
「よーし、決定じゃ。なんとなく、お前には適正がありそうな気がするんじゃよ!」
――なんだか、決まってはいけないことが決まった気がした。
面談が終わり、俺は学苑長室を出た。特殊性癖教室という怪しげな単語が、何度も頭の中でリフレインした。
*
職員室に戻ると、入り口のところに同僚の先生方が集まっていた。何があったのかと思えば、なんと俺を待っていたようである。
「伊藤先生」
俺に声をかけてきたのは、白いタンクトップを着た筋骨隆々の
「先生は、特殊性癖教室の担任になったんですよね?」
「……らしいですね」
すると、武蔵野先生の隣に立っていた女の先生が言った。
「ほうら、やっぱり!」
職員室のマドンナ、国語科の
「実はですねえ、学苑長先生がたったひとりで教師を呼び出すっていうのは、すごく珍しいことなんですよう。その時は決まって、特殊性癖教室の担任を任命する時なんです。だから私は最初に予想したんです。『次の特殊性癖教室の担任は、伊藤先生だ』って」
「まあ、大方の予想通りでしたけどね」武蔵野先生は苦笑する。「新卒の先生が担任になるのは珍しいので、まさか……とは思いましたがね」
青木先生は俺の右手を取ると、上目遣いで俺を見つめた。
「伊藤先生は二年九組の担任ですよね? じゃあ、二年五組の担任である私とは、実務で関わることも多くなりそうですね」
「あ、はい……!」
「わからないことがあったら、なんでも聞いて下さいね」
青木先生は俺の手をぎゅっと握る。成熟したアラサー女性の魅力に、女性経験のない俺はくらくらしてしまう。
「そして私が、二年三組の担任です」武蔵野先生が、なぜか逆の手の方を握ってくる。強い力に、骨がギシギシときしむような音を立てた。「もちろん、私も全力でサポートしますよ」
二人の先生が助けてくれるのは頼もしい。俺は二人に、ずっと疑問に思っていたことを聞いた。
「……それで、特殊性癖教室ってなんですか?」
実は、「本当にあるんですか?」と聞きたかったのだが、どうやら存在はするみたいなので質問を変えた。
「特殊性癖を持った生徒が集まるクラスですよ?」武蔵野先生は、なんでもないことのように答えた。
「いや、僕が聞きたいのはそういうことではなくて……」
「そうですね。最初は少し戸惑うかもしれませんね。他の学級にはない、特殊性癖教室ならではのルールもありますからね」武蔵野先生は、自分のデスクへと俺を案内した。「いい機会です。すぐに覚えてもらいましょう」
武蔵野先生のデスクには「特殊性癖教室の扱いについて」と書かれたプリントが貼ってあった。武蔵野先生はプリントを手に取ると俺に言った。
「第一のルールです。特殊性癖教室の先生は、生徒になるべく寄り添ってあげて下さい」
「寄り添う?」
「そうです。特殊な性癖を持った子供たちですから、癖の強い生徒が多いんですよ。でも、個性を伸ばすのが目的のクラスですので、出来る限り彼らの話を聞いて下さいね」
「はい、わかりました」
「第二のルールです。特殊性癖教室の生徒は、遅刻・欠席をしても大丈夫です」
「はい?」
「でも、違反したら叱るフリだけはして下さいね」武蔵野先生は笑った。「公にはダメです。しかし、裏ではお咎めなしといった形ですね」
「えーっと……」
「第三のルールです。特殊性癖教室の生徒は、なるべく特殊性癖教室以外の生徒と関わらせないで下さい。部活動に参加する時なんかは、細心の注意を払って下さい」
「武蔵野先生?」
「どうしたんですか?」
俺は恐る恐る質問した。
「その……、ひょっとすると、僕はものすごくヤバいクラスの担任になったのではないでしょうか……」
武蔵野先生は、苦笑で満面の笑みを浮かべるという、常識外れの芸当をしてみせた。
「大丈夫です。みな、話してみると素直でいい子たちですよ」
「本当ですか?」笑顔がこんなにも信じられないのは始めてだった。「変な目に遭ったりはしないんですか?」
「大丈夫です。……時々、えっちな目に遭うくらいですから」
「遭うんですか!?」
「たまにですよ? ……あ、今の話は青木先生には内緒にして下さいね」
「言いませんよ!! ……その、段々不安になってきたんですけど。もしかして、具体的に何かあったんですかね? 特殊性癖教室絡みの事件とか」
「はい! 次の事項を読みます。特殊性癖教室の生徒は――」
「ちょっと。武蔵野先生。変な時だけ不親切になるのはやめてくださいよ」その時、武蔵野の筋肉は気持ち悪い動き方をした。「……って、武蔵野先生。ごまかしてる時だけは胸筋が縦方向に動くんですね。……うわあ、すっごい動いてる。生き物みたい」
結局、武蔵野先生は詳しい事情を教えてくれなかった。
俺の持つクラスは、どういうクラスなんだろう?
日に日に不安は募っていく。そしてついに、始業式の日を迎える。
*
四月六日。金曜日。
今日は始業式だ。朝のホームルームで、俺は初めて二年九組の生徒たちと対面する。
不安だった。昨日の夜は一睡も出来なかった。頭の中に、今までに見たことのある、教師モノのドラマがいくつもフラッシュバックした。
勘弁して欲しい。俺は今までの人生を、割とノリと勢いだけで生きてきたような男なのだ。どうか神様。俺に平和なクラスを担任させて下さい……。
そう願いながら俺は、二年九組のドアを開けた。
すると……。
そこには――意外なほどに普通の高校生たちが座っていた。
あれ? 俺は拍子抜けした。これが特殊性癖教室?
「せんせー、早くして下さい」
ぼうっとしていると、女子生徒の一人が口を開いた。
俺はいそいそと教壇に登り、自己紹介を始めた。
「みなさんおはよう。俺が二年九組の担任になった伊藤真実です。新任ですが、経験不足は情熱で補います。趣味はアウトドアです」
当たり障りのない自己紹介をしながら(本当は、アウトドアよりもインドアでエロ漫画を読む方が好きなのだが……)俺は九組の様子を観察した。
人数の少ないクラスだった。祖父は二十人生徒がいると言っていたけれど、実際に出席している生徒は十四、五人だった。机は他のクラスよりも広い間隔で並べられているが、それでも教室の後ろのスペースは余っていた。
そして女子が多かった。よく見ると男は三人しかいない。特殊性癖の持ち主に女子が多いなんて話は聞いたことがないけれど、このクラスではそうらしい。
特殊性癖教室というか、離島の女子校っていう感じだな……。
自己紹介が終わる。普通のことを言ったはずなのに、なぜか生徒たちは笑っていた。
……?
出欠が終わり、始業式までの余った時間は俺への質問コーナーになった。俺の回答に、生徒たちはキャッキャと笑ってくれた。
どうやら親しみを持ってくれているらしい。
にしても、笑い過ぎな気もした。ヒソヒソ話をしている生徒もいる。
不思議に思っていると、派手な音を立ててドアが開き、一人の女子高生が入ってきた。
「ごめんごめーん。テレビ見てたら遅刻しちゃった!」
実に威勢のいい遅刻の理由である。弁解をする気はないらしい。
「初日から遅れて来るなんていい度胸だな……」
俺は、無意味ながらも遅刻を記録しようとして――ふと、遅刻者を見た。
そして衝撃を受けた。
遅刻してきた生徒は、白ギャルだった。
ごく普通の教室で、彼女の周りだけが異空間のようだった。
髪の毛は金色で、肌は雪のように白かった。目鼻立ちがハッキリしていて、ひょっとするとハーフなのかもしれなかった。かなりの美少女だ。しかし、それよりも衝撃的なのは露出度の高さである。胸元は大きく開いていて、十六才離れした巨乳が露わになっている。スカートは短すぎて、膝上何センチっていうか、もはや股下何センチっていうレベルだった。
深夜に駅前に立っていて、おじさんに声をかけられて、二人でホテルに消えていくのが安々と想像出来るようなビッチを前にして、なんとなく言葉を失っていると、白ギャルは俺を指差してこう言った。
「せんせー、チャック開いてるよ」
「うおっ」
その言葉と共に、生徒たちの間に爆笑が広がった。
笑っていた理由はそれか……。
俺は恥ずかしい気持ちでチャックを閉める。
白ギャルは二列目の一番前に座った。あいうえお順の座席と学級日誌を照らし合わせると、少女の名前は
「何してんの? 質問コーナー? おもしろそー」
胡桃沢はケラケラ笑っている。実に声のデカい女の子である。
「じゃあ、私からも質問するねー」
「……どうぞ」
「せんせーって、どーてー?」
……って、何を聞いてくるんだ。
「ど、どどど、童貞ちゃうわ」
図星を突かれて、ついキョドってしまった。
おまけに嘘をついてしまった。初体験どころか、女の子と付き合ったことすら一度もないのに。女の子とキスをしたこともないのに……(男とは、飲み会で散々ディープな奴をしたことがあるが……。黒歴史でしかない)。大学時代なんて特に灰色で、女の子と話した時間を総和しても三十秒にも満たないのに……って、回想している場合ではない。
「どーてーじゃないってことは、彼女がいるの?」
「彼女はいない」
「じゃあ彼氏がいるんだ! 確かに言われてみればソレっぽい顔かも……」
「ちげーよ!」
「わかった。せんせーは男の娘じゃないと駄目なんだね」
「そんな複雑な性癖じゃねぇ!」
「ナメクジって性別がないらしいけど……」
「それとこれとは関係ねーよ!」
「えー……? じゃあ、それ以外の可能性って何?」
「何って……」俺もよくわからなくなってきたな。「先生には昔、彼女がいたんだ……と思う」
「嘘くさー」
「う、嘘じゃない」
「せんせーってさ、キョドり方もどーてーっぽいよねー?」
本当に童貞なんだから仕方ない。
ていうか女子高生が童貞童貞言うな。
「じゃあさー、せんせーの元カノのこともっと教えてよ。名前とか、年齢とか、出会った場所とか、初デートの場所とか、初体験のシチュエーションとか……あと種族とか」
「種族は人間だからな」
しかし困ったな。そんなに直ぐには設定は練れない。
胡桃沢は見透かしたような目で俺を見ている。ぐぬぬ……、生意気な白ギャルめ。
「はい、この話はここまでです。終わり終わり!」
そう言って、ごまかそうとした。でも無駄だった。
「みんな気になるよねー?」胡桃沢はくるりと教室の方を向いた。「せんせーの彼女が、どんな人かっていうことー!」
すると、好奇心豊かな女生徒たちは答えた。
「私も気になるーっ!」
「せんせーって彼女いたんだ。意外ーっ」
「大学生って出会い多いですかー?」
「キャンパスライフって楽しいですか?」
「えっちって気持ちいいですかー?」
ヤバい。女子高生の興味に火が点いた。
ていうか「えっちって気持ちいいですか」ってなんだ。俺が聞きたいわ。
盛り上がって、ますます離島の女子校のようになった特殊性癖教室を見て、胡桃沢は気を良くした。
「せめて、どんな人だったか、っていうことくらいは聞きたいよねぇ?」
えーっと……。
俺は咄嗟にクリエイティビティを発揮し、なんとか設定を捻出した。
咄嗟に考えたので、変なことを言ってしまった。
「俺の彼女は……、えっちな女の子でした」
願望を言ったみたいになった。
「へー、えっちな女の子なんだ。どれくらい?」
胡桃沢は侮るように笑っている。そうこうしている間もパンツが見えそうだ。
「お前よりもエロいと思うぞ」
しまった。頭に浮かんだことが口から。
「へー、せんせーも私のことエロいって思うんだ」胡桃沢は気を良くしてキャッキャと笑っている。「女子高生にエロいって言うなんて、淫行教師だね」
「……お前、PTAとかに言うなよ」
「ちゃんとイロを付けて言っておくよ」
「借りた金みたいに言うな」
「で、先生の彼女はどれくらいエロいの」
「どれくらいって……」
「私よりエロいんだよね?」
生徒たちは興味津々に俺の方を見ていた。完全に逃げ場がないという感じだ。俺は自らの傷を「えいっ」と木の棒で抉るような気持ちで口を開いた。
「……そうだな。白目むいてピースしたりするぞ」
「せんせー……」胡桃沢は呆れた。「エロ本の知識で語ってない? 現実の女の子はアヘ顔したりしないよ」
「えっ、そうなの!? マジ!? ……って、もちろん、知りながらにして言っていたがな。俺の小粋なジョークが炸裂してしまったな! ……へー、むかないんだ白目」
「それで実際、どういう彼女なの?」
「『おほぉ、しゅごいぃ、気持ちいいのぉ』って……、あれ?」
「……」
胡桃沢は席を立った。そして俺の方を指差した。
「……本当は、彼女いないんじゃないの?」
……。
図星過ぎて何も言えなかった。
清々しいほどに図星だった。
胡桃沢は勝ち誇ったように「ぶいっ」とサインをした。
すると、ホームルームの終了を告げるチャイムが、キンコンカンコンと、まるで胡桃沢が正解したことを告げるピンポンの音色のように鳴った。
ホームルームが終われば、俺は彼らを始業式へと連れて行かなければならない。でも、俺が今「じゃあ体育館に移動するぞー」と言っても、なんだか彼女いない疑惑をごまかそうとしているように見えるし……。
ハメ技を食らったような気持ちになった。
その時、教室の後ろの方から、おしとやかな声が聞こえてきた。
「……先生。始業式だから、体育館に移動しましょう?」
声の主を見て――俺は驚いた。
「理想の女子高生」を体現したような美少女だった。
胡桃沢とは真逆の、清楚系に全ツッパの少女だった。スカートの丈は、校則を守っていながらも野暮ったくなかったし、色は白くて、黒蜜のショートカットからは綺麗な形の耳が覗いている。なんだか無菌室で育てられたみたいに綺麗な女の子だった。
先ほどのエロトークが気づまりだったのか、少女の頬はピンク色に染まっていた。
「そ、そうだな。みんな、体育館に移動しよう」
俺は、彼女の声に助けられるようにして雑談を打ち切り、生徒たちを先導して廊下に移動した。
生徒たちの雑談の声を聞くと、意外にも「伊藤先生、彼女いるって嘘ついてたよね。見栄張っちゃったのかな。キモッ」みたいな声はなく、ごく普通に俺を慕ってくれていた。というより、俺が若くてフレンドリーな教師で良かったという、好意的な声が多かった。
……助かったのだろうか?
というより、助けられたのだろうか?
ひょっとするとさっきの子は、俺が胡桃沢の質問に困っているのを見て、手を差し伸べてくれたのかもしれない。誰にも気づかれないようなさりげない形で。
俺は学級日誌で名前を確認した。彼女の名前は
……ていうか。
いくら胡桃沢に扇動されたとは言え、女子高生相手にムキになって、初日からシモの話をしてしまった俺は最悪だったな。自重しよう……。
俺は生徒たちを連れて体育館へと歩き出した。うっかり道を間違えて女生徒に正されたりしていると、耳元で男子生徒の声が聞こえた。
「……伊藤先生。あの女の、パンツが見たいでござろう?」
パンツ?
……ていうか、ござる? 随分と古風な口調だった。
「……あの生意気な女の、パンツが見たいでござろう?」
あの生意気な女。
ああ、もしかしなくても胡桃沢のことか。
胡桃沢のパンツか――気にならなくもないな。きっと、手刀で紐が切れてしまいそうなくらいに、ミニでエロエロなビッチパンツで……って。
思わずノリノリのモノローグを流してしまったが――誰だ? こんな不埒なメッセージを送ってくる奴は。
俺は周囲を見渡した。しかし、集会を前にして廊下は混雑しており、実行犯の特定は困難だった。男子生徒も女子生徒も、九組の生徒もそれ以外の生徒も混ざってごった返している。俺にこっそり語りかけられる容疑者はたくさんいる。
「……拙者たちが、見せてやるでござるよ」
そう言い残して、声は消えた。
なんだか不吉な宣言が聞こえた気がする。頼むから面倒事だけは起こさないで欲しいが。
第一章②は明日3/9(金)18時ころ更新予定です!
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