Int9.憂


 ユメを見て、シを感じて、アイを騙った。

 りんりを煽り、さついを帯びて、あいを願った。

 夜に生きて、嫌を晒し、悪に成った。

 ホコロビを裂き、イタミを刻んで、ホロビを悟った。

 くるしみに喘ぎ、さけびを重ね、ねがい縋った。

 命を壊し、雨に打たれ、そして最後に私は憂う。

 世を憂うのは生者の特権。故に、私は死を憂えた。

 人を憂うのは死への誘惑。故に、私は生を憂えた。

 いつかに始まった人生と、いずれ訪れる終焉を指折り数え、先の見えない計数に焦燥を募らせるのはもう沢山だった。

 始まるのなら終わらないものを望み、終わるのなら始まらないものを欲した。永遠か、無か。虚しい問いかけは霧散して、世界に溶けて消えて行く。遣る瀬なさと無気力を積み上げて、できた塔は醜悪で、私はそれをぶち壊す。気に入らない、と吐き捨てながら。

 何もかもが無駄でしかなく、自分のいない世界のことなどどうでもよくて、自分のいる世界のことさえ興味はなかった。世界の中心に私があり、そこから見えないことにまで関わろうなどいう酔狂は、私にはない。

 多くを捨て、その対価として得たものはあまりにも矮小だった。

 妄想と蒙昧に身を包まれて、盲目のまま歩き続ける。終わらせることを諦め、終わりが来ることを許容して。

 私は知っている。自分のことだ。完全ではないにせよ、誰よりもよく知っている。だからこそ、私は言う。

 何もかもを憂いましょう。

 どうしようもなさに身を委ね、今日も明日も明後日も、私はまた「憂鬱だ」と呟くに違いないのだから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

あの日目にした、夢のアト 鵠真紀 @amaharu0612

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る