Int1.ホコロビ
遠くにキラキラと輝くのは、船の明かり。夜の街は、昼とはまた違う、艶やかな賑わいに満ちている。
埠頭のコンテナ。ビルから漏れる光。淡く揺らめいて、でも確かにそこにある。
橋の欄干にもたれかかる。ひんやりと冷たい鉄の感触が心地いい。湿った潮風が、肌を撫でていく。
私は、橋から少し、身を乗り出してみる。下には真っ黒い川がある。大きくて、何もかもを飲み込んでしまいそう。それはやがて海に流れ、一体となって漂流していく……。
そんなことをぼんやり考えながら、欄干によじ登る。タイタニックごっこだ。私は一人で両手を広げ、目を瞑って息を吐く。この身体を支えてくれる人は、どこにもいない。
明確な理由があるわけじゃなかった。
どちらかといえば、それは不明瞭で、ぼんやりとした靄みたいなもので。
けれど、幼い頃からずっと、私の中にあったものだ。
死のう、と思う。
それもまた、はっきりとした意志ではなかった。
なんとなく、そうしようと思い立って。
想像してみると、異様なほど明瞭な光景があって。
やっぱり、死のう、と思うのだ。
人生に不満はなかった。
極めて健全で、穏やかで、平和な日々を過ごしてきた。
だから、きっと、おかしいのは世の中じゃなくて。
私の方なんだろう。
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