第5話


 私は目の前のそれをロープで縛り上げ、焼却炉に放り込む。

 私は耳を塞いで何も聞こえないふりをした。

 なにも聞こえない。

 なにも聞かない。


 けれど、あの匂いがいつまでも忘れられない。

 焦げる匂い。

 溶ける匂い。

 死の匂い。

 私は瞼を閉じることができなかった。

 見えていた。

 焦げる様が。

 溶ける様が。

 死にゆく様が。

 私はなにも聞こえなかった。

 わたしは、なにも聞こえないふりをした。

 それは無機物であったかもしれないし、あるいは有機物であったかもしれない。

 それは何かの記憶媒体であったかもしれないし、人間であったかもしれない。

 それは私だったのかもしれないし、“私”だったのかもしれない。

 今となっては、わからない。

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