第17話【特訓のお誘い】

「サーヤちゃん、特訓をしましょう!」


勉強会から数日、朝の挨拶もそこそこにマリベルさんがそう口にした。


「特訓……ですか?」

「ええ、ここ数日見てたけど、サーヤちゃんにはまず感覚を掴んでもらう方か良いかなって」


その意見には俺も賛成だ。仕事の後に魔法の勉強をしていたが、イマイチ紗綾の頭には入って来てないようだった。まぁ、魔素なんて今まで存在しなかったもものだし、急に理解しろと言われても無理があるか。


「あぅぅ……お馬鹿でごめんなさい……」

「えっと、その……ま、まぁあれよ、人には向き不向きがあるからね」


もうすっかり諦められている紗綾である。しかし特訓って何をするんだ?街中でバンバン魔法を使うのか?……また連れて行かれそうだな。


「取り敢えず街を出て草原まで行きましょうか。そこなら広くて迷惑はかからないでしょうし。ピクニックがてら特訓しましょう」

「ピクニック!やったやった!あ、フィーナお姉ちゃんも呼びませんか?」


あんな事があったのにすっかりフィーナと仲良くなった紗綾。今ではすっかりお姉ちゃん呼びだ。最近、二人してコソコソ話をしてたりする。


「そうね、せっかくだしフィーナちゃんにも声をかけましょうか。カズマ君、悪いんだけどお願いできるかな?」

「ええ、ひとっ走り行ってきますよ」

「サーヤちゃんはその間、私とお弁当作りね。パパっとやっちゃいましょう」

「はい!お弁当なら任せてください!」


こうして今日の予定が固まっていく。しかし、店は開けなくて大丈夫なのか……




「いらっしゃいませー、あらカズマ1人?珍しいわね」


昼が勝負のフィーナの店は朝は比較的空いている。そのためフィーナも割りとのんびりテーブルを拭いたりしている。


「よう、おはようさん」

「はい、おはよう。今日はどうしたの?まさかデートのお誘いとか?」


フィーナがニコニコしながら、からかってくる。ここはちょっとお返ししとくか。


「ああ、今日は予定あるかフィーナ?急ぎの用事が無かったら出掛けないか?」

「えっ!?ホントにデートのお誘いなの?……うーん、どうしよっかなぁー。ま、まぁカズマがそこまで言うんなら、行ってあげてもいいわよ……」


ちょろい……。ここはもうひと押し入れておくか。


「街を出た所に草原があるだろ?そこで弁当でも食いながらのんびりしないか?」

「ピクニックみたいね。良いわよ、たまにはのんびりしましょうか」

「じゃあ昼前に街の入り口のとこに集合な」

「うん!わかったわ。えへへ……何着て行こうかな……」


完全に信じ切ってるフィーナを見て良心の呵責が俺を責めたてる。いかん、これ以上は俺が辛い。正直に話して謝っておこう……


「あー、すまんフィーナ。ちょっとからかい過ぎた。実はデートじゃない。紗綾とマリベルさんも一緒に魔法の特訓だ」

「なななな何言ってるのよ!さ、最初からわかってたわよ!どうせそんな事だろうと思ってたわ!」


いや、お前信じ切ってただろう。まあ、悪ノリした俺が悪いな。あんなに乗ってくるとは思わなかったんだよ……


「いや、ホントにスマン。お前相手だとついな……。それで、どうする?一緒にくるか?」

「なによそれ……。まぁ良いわ、お昼前に入り口ね。あんた覚えてなさいよ」


結果的には一緒に来るらしい。良かった良かった。これでへそを曲げて来ないなんてなったら紗綾とマリベルさんに何を言われるやら……いや、俺が完全に悪いんだが。


「あら?フィーナのお友達?」

「あ、お母さん」


そう言いながら厨房から出て来たのはフィーナの母親。そういえばあの時は直ぐに帰ったから顔を合わせるのはこれが初めてか。


「あ、どうも。和真と言います。あー、フィーナの……なんだろう?友達?」

「なんでそこで疑問系なのよ……」


いや、改めて考えるとフィーナどの関係って何だろうかと。最近知り合ったばかりだしな……


「あらあら、この人がフィーナがいつも話してるカズマ君ね。はじめまして、ミシェーラです。その節はお世話になりました」

「ちょっとお母さん!?余計な事言わないでよ!」


妙に慌てたフィーナがミシェーラさんに食って掛かる。


「あら?だってあなた、事あるごとにカズマ君カズマ君って……」

「わぁぁ!ストップストップ!もう良いから!お母さんはあっち行ってて!」

「はいはい、邪魔者は退散しますね。あ、カズマ君。今度またウチに来てくださいな。サーヤちゃんにもお礼がしたいし、腕によりをかけてご馳走するわね」


最後はフィーナに押されミシェーラさんは厨房へと戻っていった――と思ったらヒョイっと顔だけだして


「カズマ君、ふつつかな娘ですがよろしくお願いしますね。私的には婿でも嫁でもどちらでもオーケーよ」

「ちょ!?お母さん!?」


そう爆弾発言をして去っていった。当の本人をチラと見ると耳まで真っ赤にして何か言いたげだ。これは余計な事を言わない方が得策か?


「あー、じ、じゃあフィーナ、また後でな……」

「あ、うん。あの、その……ま、また後でね」


若干ギクシャクしながら店を後にする。つぎ、フィーナとどんな顔して会えばいいんだろ……

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