第16話【勉強会】

「さて、それじゃあ現状を纏めましょうか」


一通り話を終え、一息ついていた所でマリベルさんがそう切り出した。


「まずはサーヤちゃんの……あ、紗綾ちゃんの方か良いのかしら?」

「いえっ、サーヤのままで良いですよ!そっちも可愛いですし」

「そう?じゃあ今まで通りにするわね。えと、サーヤちゃんの魔力量――満腹ポイントを増やす事が一つ、それから鍵になる説明書、これが何なのかを知ることが一つね」

「満腹ポイントを増やす……サーヤちゃん、取り敢えず山ほど食べてみる?ウチの料理全種類とか」

「あぅ……そんなに食べられないよぅ」


フィーナの店の料理は意外と量が多い。紗綾だと一品食べるのが限界だ。ケーキは食べられるのに、女の子の胃袋は不思議なものである。


「じゃあやっぱり外部からの要因で増やすしか無いわねぇ。魔素の取り込みは危険が伴うから、程々にするとして、そうねぇ、魔法の練習からかな」

「魔法の練習……ですか」


熟練的成長の部分だな。あるいは知る事による知識的成長……。身近に魔法士がいる以上、これが一番現実的な増やし方か。


「話した通り私は魔法士よ、それも養成所出身のね。きっと教えられる事もたくさんあると思うわ」

「は、はい!よろしくお願いします!」


二つ返事で答える紗綾。手探りで調べるより余程現実味が出てきた。


「所で養成所って言うのは……?」


言葉からして、人を養成するって言うのはわかる。ただ、この世界において特別な意味合いがあるようにも聞こえる。単に学校……とは違った、専門的なような……


「簡単に言えば養成所というのは学校みたいなものよ。ただそれを運営しているのは国で、有事の際に動ける人材を育成する……兵士としての側面もあるわ」

「じゃあマリベルさんは……」

「ええ、私もライアンもそこの出身だから、仮に他国と戦争なんてことになったら招集がかかるわね」

「戦争……ありうるんですか?」

「今のところは無いわ。無いはずなんだけど……」


マリベルさんが珍しく言いよどむ。先日の事件やシトナ村の事件、何も無いとは言い難いんだろう。


「まぁ、そこは今考えても仕方ないところね。まずは出来ることから始めましょう」


そう言ってマリベルさんは奥から箱を持ってきた。


「この中に私が養成所時代に使ってた本が入ってるわ。まずは座学ね。サーヤちゃんには魔法とは何なのか、そこからお勉強してもらうわね」

「あぅ……勉強……本が一杯あるよぅ……」


これはマズイ……紗綾は勉強がそれ程得意な方じゃない。割りと感覚派なので、理論とかそういう勉強は苦手なはずだ。宿題が解けず、良く俺の部屋まで助けを求めて来てた。

ん?俺?俺はテスト当日に頭のイイヤツに聞いたり丸暗記して最初にバーっと書いたり、そういうので何とか凌いでたよ。


「あははは、わ、私はそろそろ店の手伝いがあるから――」

「お、俺もちょっと急用を思い出したんで――」


そう言って、逃げ出そうとする俺とフィーナ。変なところは気が合うな。


「逃さないわよ?フィーナちゃんは今日は休みだし、カズマ君は用事なんて無いでしょう」


形から入る派なのか、メガネをかけたマリベルさんが立ちはだかる。しかしメガネ似合うなこの人……。普段のふわふわした雰囲気とは違って、カッチリした雰囲気と言うか、仕事モードと言うか……。


「何見とれてるのよ、バカ」

「いや、普段かけない人のギャップというか……」

「お兄ぃ……」

「ああ、これ?この方が先生っぽいでしょう?ちょっと憧れてたのよ、こうやって教えるのに」


まさかの形から入る人だった!いや、しかしあれだ。大変良い!ごちそうさまです。


「そっか……カズマはメガネ好きか……」




気を取り直して、始まった勉強会。マリベルさんはなんていうかもう、ノリノリだった。


「つまり、魔法と言うのは取り込んだ魔素に性質を付けて外へ出す現象なのよ。あの時使ったのは魔素に刃って性質をつけたり、突風にしたりね」

「その性質を付けないと、発動しない訳ですか」

「ええ、取り込んだ魔素をそのまま外へ出すだけだと何も起こらないわ」

「その、呪文とか魔法陣みたいなのは必要無いんですか?」

「発動のサポートに使う人は居るわね。後は大規模な魔法を複数人で使う時は、イメージの調整なんかに使ったりね」


なるほど……。イメージから発動する点は紗綾と同じだな。違いは必要なエネルギーくらい……。


「じゃあ紗綾の魔法も……」

「ええ、広い意味ではこの世界の魔法と変わらないわ。ただ、魔素が無くても使える点で使い勝手は圧倒しているけれど。それに……」


マリベルさんが少し考え込むように言葉を続ける。


「起こす現象の規模と効果、この点においてはサーヤちゃんの魔法は圧倒的ね。時間を操作したり、奇跡とも言える治癒だったり、後は大地の操作……そんな事はこの世界では聞いた試しがないわ」


確かに紗綾の魔法はイメージさえすれば何でも出来そうな気がする。今のところ出来ないのは日本への帰還だけだ。


「うー……カズマあんた良くついて行けるわね……私もうちんぷんかんぷんよ……」


最初こそ、うんうん頷いていたフィーナだが、途中からわからなくなったんだろう。今ではテーブルに突っ伏している。……そういや紗綾は大丈夫なのか?さっきから静かだけど。


そう思い横を見ると、頭から湯気を出して目を回している紗綾がいた。あ、お前全然着いてこれなかったのな……


「あぅぅ……魔素が魔法で魔法が魔素で……」

「あらあら、ちょっと難しすぎたかしら……」

「いえ、こいつが馬鹿なだけです……なんかスイマセン……」


我が妹ながら恥ずかしい……。もう少し勉強させておくべきだったか……


「じゃあ後で要点だけ纏めて書き出しておくわ。カズマ君、あなたが読んで説明してあげて」

「はい、わかりました……って逃げましたねマリベルさん……」

「だって、これ以上優しく説明は無理よ……任せたわお兄ちゃん」


マリベルさんにも見放される紗綾の頭脳……。どう説明したものかと俺は頭を悩ますのであった……。

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