第15話【秘密の告白】

魔素中毒騒動から一夜明け、ピークも過ぎ、落ち着いてきた頃合いにフィーナがやって来た。


「いらっしゃいませー」

「ぷっ……アンタ本当にその格好で働いてるのね」


しまった……最近慣れはじめて来たメイド服に、フィーナがツッコミを入れてくる。自分で言ってて何だか、コレに慣れてきたって何だよ……俺。


「着たくて着てるわけじゃないって……。それより注文は?」

「似合ってる似合ってる。今度普段着も買ってあげようか?あ、ケーキここからここまで全部ね」

「要らないって……てか食いすぎじゃね……」


いくらこの店のケーキが小さ目とはいえ、フィーナが注文したケーキは十を超える。一体あの身体の何処に入るんだ……


「ちょ、何よ人の身体じーっと見て……。何?今更私の魅力に気付いた?」


フィーナが身体を包み隠すように腕を回し、からかう様にそう言ってくる。誰の魅力だって?


「その、どうしてもって言うんならそうね……デ、デートくらいしてあげてもいいわよ?」

「何言ってんだお前……。あ、デート云々は置いといて、今度日用品とか買いに行こうと思うんだが一緒に行くか?」


そう、もうすぐマリベルさんから給料が貰えるのだ。ようやく文無し生活から抜け出せるのである。ちなみにシトナ村で貰った銅貨はもう既に無い……。


「ふ、ふーん……買い物ね。良いわ、ついてったげる」


心なしか赤い顔のフィーナ。いや、デートじゃ無いからな。ただの買い物だからな。


「あー!またお兄ぃがフィーナさんといちゃいちゃしてる!」

「うわっ!いや、いちゃいちゃしてないよ!?」


頬を膨らませて不機嫌そうな顔の紗綾。最近妹がこういう事に敏感である。お年頃なのかなぁ……


「いや、紗綾も一緒に行くだろ?買い物」

「えー……お兄ぃ、それは酷いと思うな……」

「はぁー……わかってたけどアンタは……」


二人共揃ってジト目で見てくる。何だよ、一体。


「あ、紗綾ちゃん。どう?この間買った服見せてみた?」

「あぅ……まだです……その、ちょっと恥ずかしくて……」

「駄目じゃない。じゃあ今度の買い物の時に着て見せようね」

「は、はい……頑張りますっ」


何やら女の子2人、コソコソ小声で会話している。何を話しているやら……。今のうちに注文を伝えに行こう。



「あらあら、沢山注文が入ったと思ったらフィーナちゃんだったのね」


店の奥からマリベルさんが注文の品を持って出て来る。相変わらず注文から完成までの速度がおかしい……。もしかして魔法士だからかな。


そう、先日の一件でマリベルさんは自ら魔法士だと語った。なんでも養成所とやらの出らしいが、詳しい事がわからない俺はピンと来ない。

あの日、フィーナの母親が回復した後、俺達はフィーナと別れ店に帰った。お互い聞きたい事は色々あったが、今は日を改めようとなったんだ。


「あ、マリベルさん!こんにちは。うわぁ、美味しそう!」


テーブルに並べられる色とりどりのケーキ。うーん、流石にこの数を並べると壮観な眺めだな……。


「いただきまーす!どれから食べようかなー」

「…………太るぞ」

「はうっ!…………カズマー?アンタねぇ」


言うつもりは無かったんだが、つい口から出ていた。いや、フィーナもスタイルは悪くないんだが、こんなに食って大丈夫なのかと思ったらつい……。


「お兄ぃサイテー……」

「あらあら……これは弁解の余地無しね。お客様にこんな事言う従業員は減給かしら……」

「ええ!?ちょ、マリベルさん!?」

「減給じゃ済まないですよ!クビにしてくださいクビに!」


身から出たサビというか口は災いのもとというか……どうにもココに俺の味方は居ないようだ。




「ごちそうさまでした!はぁー、幸せ」

「はい、お粗末さまでした。フィーナちゃんは美味しそうに食べてくれるから見ていてこっちも嬉しいわ」


あれから結局フィーナは、サーヤに1つケーキを分け、残りはペロリと平らげてしまった。サーヤも初めて食べた時は4つ目に行こうとしてたが、今回は自重していた。しきりにこっちを恨めしそうな顔で見てきたが……。


今は店も昼休憩と言って閉め、4人でテーブルを囲んで談笑中だ。ちなみにマリベルさんが持ってきた焼きたてパンを、まさかのフィーナまで食べたのはここだけの話だ。


「あ、そうそう。お母さんなんだけど、凄い勢いで回復してるのよ。あんなに痩せてたのも嘘みたいに治って、今じゃ普通に店を手伝ってるわ」

「え、いや良くなるに越した事は無いんだが急激過ぎないかソレ?」

「そうなのよ。本人もびっくりしてるんだけど、まぁ治る分には問題ないでしょって。後、肌が若返ってるって喜んでたわよ」


隣で若返ってる、にピクリと反応したマリベルさんは見なかったことにして……うーん、あの時使った紗綾の魔法、魔素中毒を治すだけじゃ無かったのか。何をイメージしたんだろう。


「そうね、話して貰えるなら私も詳しく知りたいわ……あっ、若返りの事じゃないわよ!?」


珍しくマリベルさんが自爆した。密かに気にしてるんだな……。


「えーと、サーヤちゃんの魔法についてね。色々聞いても良いのかしら?」

「そうですね、出来れば他言無用でお願いしたいんですけど、そもそも信じてもらえるかどうか……」


そもそもが突拍子もない話である。俺自身、わかってない事だらけだしな。


「そうね……話の内容にもよるけど、あの魔法を見た後だし、大体の事は信じれると思うわ」

「……わかりました。じゃあ最初から説明しますね」


そうして、俺は、一から順に説明していった。俺達がこの世界の人間じゃ無い事、紗綾の魔法の事、シトナ村で起きた出来事などなど……。

自分で言ってて何だが、上手く説明できた自信はない。それでも――


「なるほど……話だけならにわかに信じられない事だけど、実際にこの目で見てるとね……」

「異世界……カズマ達、違う世界の人間なのね……」


取り敢えず最低限は理解してもらえたようだ。


「まぁ、あなた達がどこの生まれだろうとそこは些細な事だわ。大事なのはどう生きていくかでしょう?」

「そうね。あなた達は今ここに居るんだし。あ、でもカズマ達の世界にもちょっと行ってみたいな」


そう言って二人共信じてくれていた。


この日、この世界に来て初めて、何か肩の荷が降りた気がした。まだまだ謎は多いし帰れるかどうかもわからない。それでも、信じてくれる仲間がいる。それだけで何とかなる気がしていた。

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