第14話【癒やしの魔法】

あの後、諸々の処理をライアンさんに任せて、俺達はフィーナの店まで来ていた。ちなみにライアンさんも一緒にいきたがったが、マリベルさんにあなたは仕事しなさい。と一蹴されていた。その時のライアンさんの顔は、まるでオモチャを取られた子供みたいだった。

うーん、マリベルさんとライアンさんって一体どんな関係なんだろ……


フィーナの家は店の裏手にある二階建ての住居だった。何でも最初はマリベルさんの店のように、一階を店舗、二階を居住区にしようとしたらしいが、フィーナが店と家は別が良いとゴネたらしい。お陰で母親は安静に出来ているので、結果オーライのようだけど。


「コッチよ。お母さんは二階にいるわ」


二階にあるフィーナの母親が居る部屋に向かう途中、ある違和感に気付いてしまった。フィーナの家の周りには、一切、草花が生えていなかった。


「なぁフィーナ、お前って草むしりが趣味なのか?」

「はぁ?何それ私には草むしりがお似合だってって言うの!?アンタ人の事何だと思ってんのよ」

「お兄ぃ……今のは酷いよ……」

「違うって!家の周りに全然草が生えてなかったからちょっと気になったんだよ!」


そう、魔素を過剰に吸収するという事、草花が生えていないと言う事。それが何を意味するか、俺達は最近体験したばかりだ。


「そう言えば変ねぇ。フィーナちゃんのお母様、お花を育てるのが趣味だったはずよね……。お世話が出来なくなったとしても、全く生えていないって言うのは……」

「あっ!お兄ぃ、ソレって!」

「ああ、紗綾。多分そうだと思う」


嫌な予感が込み上げてくる。頼む、間に合ってくれよ……


「何か心当たりがあるの!?カズマ!」

「話は後だ、急ごう」


今は、話している時間が惜しい。フィーナを急かし母親のもとへ急行する。


「ここよ。お母さん!」


扉を開け中に入ると、窓際に置かれたベッドの上で苦しんでいるフィーナの母親がいた。


「お母さん!?ねぇ、どうしたのお母さん!」

「……フィーナ……ゴホッ……だ、大丈夫よ……」


息も絶え絶えに娘を心配させまいと強がる母親。だがその顔は血が無いのでは、と思うほどに蒼白で、呼吸も荒い。フィーナが掴むその手は骨と皮だけのように見え、もはや一刻の猶予もない、そんな状態だった。


「やだやだ!お母さん、しっかりしてよ!サーヤちゃん!お母さんを助けて!」


突然の容態の変化にフィーナが泣きながら紗綾に助けを求める。まずは身体を治さないと原因どころじゃないな……。


「紗綾、思いっきりやれ!身体が治るよう目一杯だ!」

「うん!やってみる!」


そう頼もしく返事をして、紗綾がベッドへ駆けていった。

ベッド脇でそのまま目を閉じ、精一杯のイメージで魔法を発動させようと集中していく。しだいに紗綾の身体を光が包み、それはそのまま紗綾の小さな両手に集まってく――


「フィーナさんのお母さん……お願い!治って!!!」


紗綾が叫ぶと同時に、両手の光がフィーナの母親を包み込んでいく。治れと、唯それだけを願った祈り。それは癒しを体現したかのような淡い緑光で、見る者を安心させる。そんな優しい光だった……。





「お母さん、寝たわ」


母親の様子を見ていたフィーナが、二階から降りてくる。

紗綾の魔法により、母親は一命を取り留めた。それどころか、マリベルさんが言うには体内の魔素濃度と吸収量が平常時まで戻っているそうだ。元々魔素の過剰吸収による中毒症状のため、それが治れば後は問題無いだろうとの事。ただし体力自体は戻っていないため、しばらくは安静にする必要があるそうだが。


「改めてお礼を言うわ。ありがとうサーヤちゃん。あなたのおかげよ」

「お母さん、治って良かったです!」

「ホントにサーヤちゃんは凄いわねぇ……。こんなに小さいのにお姉ちゃんびっくりよ」


マリベルさんが紗綾の頭を撫でながら感動している。しかし褒められながらも小さいと言われた紗綾は、どこか複雑そうな顔をしていた。


「あぅ……小さい……」

「あ……ごめんなさいサーヤちゃん。つい……」

「つ、ついって……うぅ……早く大きくなりたいです……」


残念だが紗綾よ、諦めろ。満腹ポイントの件もあるし、多分お前は小さいままだ……とは口が裂けても言わない。


紗綾を見るとジーっとこっちを見ている。


「お兄ぃ、絶対大きくなれないって思ってるでしょ……」

「そ、そんな事はないぞ!?すぐに大きくなれるって…………た、多分?」

「お兄ぃのバカ!もう知らない!」


わが妹はどうしてこう、俺の事になると鋭いのか……。些細な兄妹喧嘩に、マリベルさんとフィーナも笑うまいと必死に堪えている。

何はともあれ、間に合ってよかった。

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