第13話【母親を救え】
「――これが昨日の顛末よ。連絡出来なくてごめんなさい。心配かけちゃったわね」
フィーナの母親の病気、マリベルさんの事、紗綾の魔法……一気に明かされた事実に、少し頭がパンクしそうだった。
「と、取り敢えずみんなが無事で良かったですよ。紗綾も、良く頑張ったな」
しがみついたまま離れない紗綾の頭をゆっくり撫でてやる。しかし魔法、使っちゃったかぁ。しょうがないとは言え、やっぱ隠せないよな、もう。
紗綾が使った魔法――おそらく来るな、動くなといった想いが溢れ出たんだろう。犯人達はキャンセラーとやらを持ってたみたいだけど、それも無効化してると言う事は、やっぱりこの世界の魔法とは少し違うんだろうな……。
「あわわわ……お兄ぃ、頭……目が回るよぅー」
考え事をしながら撫でていたら、いつの間にか動きが大きくなっていたらしい。頭をぐりんぐりんされた紗綾が目を回しそうになっていた。
「あ、悪い紗綾」
「うー……酷いよお兄ぃ」
ぐしゃぐしゃになった髪を整えながら怒る紗綾。なんにせよ無事で良かった……。
「本当にごめんなさい、カズマ君。任されたのにこんな事になっちゃって――」
「私が悪いの!私のせいなの!ごめんなさいカズマ!」
マリベルさんを遮るように、フィーナが謝ってくる。確かに騙したのは事実だけど、母親というやむにやまれずな事情もある。俺だったらどうしただろうか……。
仮に紗綾が病気になり、マリベルさんを差し出せば薬が手に入るとなったら……いや、やめよう。そんな事考えたくもないし、きっと当事者にならないとその葛藤はわからないだろう。今はみんなが無事だった。それで良しとしよう。
「フィーナ、もう良いよ。反省してるんだろ?みんな無事だったし、それで良いさ」
「でもっ!それは結果の話しで、わたしは許されない事をしたわ!」
うーん、どうしたものか……。このままじゃフィーナはずっと自分を責めそうだな。そうだな、外堀から埋めるか。
「マリベルさん、マリベルさんはフィーナを許せませんか?」
「いいえ、ひょっとしたら私のせいかも知れないし、許すも許さないもないわ」
「紗綾はどうだ?」
「わ、私もだよ!その、私も魔法の事隠してたし……」
「だそうだ。みんな気にしてないってよ。だからもう、気にすんな。どうしても気になるって言うならそうだな……今度手料理でも食わせてくれ」
みんな許してるようだし、それぞれ事情もある。ましてや蚊帳の外だった俺が1人ネチネチ言うのもおかしな話だろう。
「っ……!ありがとう……みんなホントにありがとう……ぐすっ……うん、任せといて。今度とびっきり美味しいやつ食べさせてあげるんだから!」
そう言って笑ったフィーナは、少し元気を取り戻したようだった。
「しかし、やるなぁ坊主」
「はい?」
今まで黙っていたライアンさんがニヤニヤしながら不意にそう、口にした。
「いやな、妹を危険に晒されたのに、その原因を作ったお嬢ちゃんをあっさり許しといて、しかもお前の手料理が食いたい。と来たもんだ。そんな事言われた日には、なぁ、お嬢ちゃん。……惚れたか?」
「んな!?」
「ななななな、何言ってるのよ!そ、そんな事ないからね!?」
いや、そんなつもりで言った訳じゃないんだが……見るとフィーナは真っ赤になって俯いていた。う……そんな顔されたら意識しちゃうだろ。
「あらあら、青春ねぇ」
「むー。お兄ぃのバカ!スケベ!」
「はははは、頑張れよカズマ!いや、この場合お嬢ちゃんの方か?」
「うー……カズマのバカ……」
散々な言われようである。ライアンさんの作った変な空気を払拭すべく、俺はわざとらしく話を切り替える。
「あー、そんな事より――」
「そんな事!?そんな事って言った!?アンタってホントにデリカシー無いわね!」
「いや、言葉のアヤだよ……話の腰を折るなって。ゴホン……あのな、フィーナの母親の事だ。」
そう、今はそっちの事が先だろう。魔素中毒って話だけど、治すにはバカ高い薬がいるって言ってたな。
「魔素中毒はその高価な薬でしか治せないんですか?」
「そうなのよ。勿論魔素自体は何処にでもあるし、少量なら自然に吸収されたりするわ。後は魔法士みたいに魔法で発散する手もあるけれど、お母様の場合……」
「うん。うちのお母さんは魔法士じゃないから、魔法は使えないわ。それにお医者さんが言うには普通ではあり得ない濃度で吸収されてるって……」
「さりとて治療薬は高すぎて手が出ねぇ、と。仮に金があってもアレは貴重だからな。手に入るのはどれだけ先になるやら……」
うーん、現状だと手詰まりか……。ならここはやっぱり――チラッと紗綾の顔を見てみる。紗綾も自分のやる事がわかっているようで、真剣な表情でコクリ、と頷いてくれた。
「紗綾、頼めるか?」
「うん!出来るかどうかわからないから、任せてとまでは言えないけど、やれるだけやってみる!」
「え?サーヤちゃん?」
「フィーナさん、私、頑張りますから、お母さんの所まで行きましょう!」
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