第12話【事件の真相】
「……動かない?」
「ええ……まるでこの男達の時間だけ止まってるみたい」
サーヤちゃんの魔法?が発動した後、男達はピクリとも動かなくなってしまった。時間を操作するなんてそんな魔法、人の手で起こせるものじゃないわ……。サーヤちゃん、あなたは一体何者なの?
「あ……わたし……その……」
自分の起こした結果に驚いているサーヤちゃん。狙って発動した魔法じゃなく半ば暴走した結果なら、何か対策をしてあげないとサーヤちゃんの身が危ういわね。
「ひとまずこの男達は置いておいて、サーヤちゃん、ありがとう。助かったわ」
「いえ……マリベルさんが無事で良かったです。でも、あの……」
「わかってるわ。この事は私達の内緒ね」
事が明らかになったら、まず間違いなくサーヤちゃんは狙われる。魔法に絶対的なアドバンテージのあるキャンセラーすら無効化し、あまつさえ発現不可能だと言われている時間操作すら行えるサーヤちゃんの魔法。王都の連中に気付かれたら間違いなく大変な事になるわね。
「フィーナちゃん、ちょっと良い?」
「っ……!ご、ごめんなさいマリベルさん!」
「まって!」
逃げ出すように駆け出したフィーナちゃんの腕を取る。フィーナちゃんは何とか抜け出そうと暴れているけど、逃さないわよ。まだ大事な事を聞いていない。
少ししてフィーナちゃんは諦めたのか、その場に座り込み泣き出してしまった。
「ごめんなさい、ごめんなさい……」
「良いのよ、結果的に無事だったんだし。そんなことよりお母様よ。何があったの?」
フィーナちゃんが私を差し出してでも必要とした薬。冷静さを失う程切羽詰まっているのなら、もう時間は余り残っていないのかもしれない。
「ぐす……半年くらい前から徐々に体調を崩すようになって……最近はほとんど寝たきりなんです……お医者さんが言うには魔素中毒だって。そんなはずはないのに……」
おかしいわね……。フィーナちゃんのお母様はたしか魔法は使えなかった筈。いくらなんでも日常生活を送りながら魔素中毒になるなんて、あるはずが無いわ。
「そしたらたまたま店に来たあの男が、良く効く薬があるって話をしてて……それで……」
「魔素中毒に効く薬は確かにあるわ。でも貴族でもなかなか手が出せない程高価なものよ。あの男が持ってたとは思えないわね……」
しかしあの男はキャンセラーを持っていた。対魔法としては群を抜いていて、一部の国軍にのみ支給されるような代物だし、値段も薬に引けは取らないほど高価なはず……。これは何か裏がありそうね。
「そもそも魔素中毒自体にも理由がありそうね。もしかしたら最初から私を狙っていて、あなた達家族が巻き込まれたのかもしれない。あの男は私が養成所出身という事も、魔法士であることも知ってたわ。ごめんなさい、きっと私のせいね……」
この街で私は魔法士であることは誰にも話していない。勿論魔法を使ったこともない。養成所出身だと言う事も話した覚えは無い。なのにあの男は知っていた。一目見たときからとか言っていたけれど、たまたま目をつけたにしては知りすぎている。まだ誰かに依頼されたと言う方がしっくりくるわね。
「そんな、マリベルさんは悪くないです!悪いのは騙されてみんなを危険に晒した私の方です!ホントにごめんなさい!サーヤちゃんも怖い思いさせてごめん……」
「あ……いえ、大丈夫ですよ!怖かったですけど、お母さんの為にした事ですし!」
「ぐす……ごめんなさい……ありがとう」
何はともあれ、一度お母様の具合は見てみないといけないわね。とは言え、このままココを放って置くわけにも行かないし……
「フィーナちゃん、サーヤちゃん。ひとまず自警団を呼ぶわ。信頼出来る知り合いがいるの。ここは私に任せて2人は先に店に帰って――」
「その必要はねーぞ、マリベル」
言葉を遮るように狙いすましたタイミングでやってきたのは、まさしく呼ぼうとしていた知り合い、ライアン。どうしてここに?
「何だ何だゴーストでも見たような顔しやがって」
「あなた、タイミング良すぎでしょう。もしかして見てたの?出待ちでもしてたのかしら」
「んなわきゃねーだろ。この店が急に眩しくなったって通報があったから駆けつけたんだよ」
確かにあれだけの光だし、通報があっても納得できるわね。でも、来たのがライアンで良かったわ。
「マリベルさん、この人は……?」
「この人がさっき言いかけた信頼出来る知り合いよ。大丈夫、こう見えても口は堅いわ」
私の説明をよそに、ライアンは固まった男達を不思議そうに見ている。
「しかしまぁ、こりゃ見事に固まってんな……どうなってんだこれ?
あー、悪いがお前等、話し聞かせてもらうぞ。取り敢えず全員詰め所まで来てもらおうか」
「ちょ、ちょっと待ってライアン。話は私がするからせめてこの子達は帰してあげて」
「駄目だ。当事者を帰せるわけねーだろ。まぁ、せっかくだから詰め所で1泊してけや」
にべもなく断られてしまったわね。まぁ、仕方ないか……カズマ君、心配してるだろぅなぁ。
「コイツらについてはウチのもんに運ばせる。なーに、心配するな。口は堅えからよ」
ライアンがそう言うならひとまずは大丈夫だろう。
こうして私達は、楽しかったお買い物から一転、詰め所で朝を迎えることになってしまったのだ。
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