第11話【マリベルの危機】

「これはどういう事かしら?」


一日楽しくお買い物を済ませた私達3人。最後にフィーナちゃんに誘われ入ったお店で、私達は今閉じ込められていた。

両腕は後ろで縛られ、満足に動くこともできない。

入り口の鍵を閉めたのはフィーナちゃんだし、謝ってきたからには何か事情は知ってるはずね……。少なくとも普段からこんな事をする子じゃないわ。


「良くやったなフィーナ。やれば出来るじゃねぇか」


さっきまで気怠そうにしていた店員がニヤニヤと嫌な顔をしながらこちらを見ている。


「っく、ひっく……ごめんなさい。ごめんなさい」


フィーナちゃんはさっきからずっと謝り続けている。少なくとも私達への怨恨だとか、自主的に動いた、と言う事は無さそうだけど……。


「マリベルお姉ちゃん……」

「大丈夫よサーヤちゃん、必ず私がなんとかするから」


隣でサーヤちゃんが泣き出しそうなのを必死にこらえ、心配そうに私を見ている。サーヤちゃんは何も出来ないだろうと、縛られたりしていないのが救いね。せめてこの子だけでも無事に帰さないとカズマ君に申し訳が立たないわ……。


「なんとかするねぇ……。その格好でなんとか出来るならやってみてもらいてぇな」


ゲラゲラと、不快な顔で不快な事を口走るこの男。会ったことは無い筈だし目的は何かしら……。


「何が目的なのかしら?あなたとは初対面よね?」

「目的……目的ねぇ。まぁアンタは俺の事なんざ知らねぇだろうけどコッチはよーく知ってんだよ」


気持ち悪い……。この男の全てが嫌悪感をもたらす。


「俺ぁ一目見たときからアンタのことが気に入ってなぁ。俺のモンにしたいと常々思ってたんだよ」

「悪いけどお断りするわ。ふざけたことを言ってないで私達を開放しなさい!」

「おーおー、強がっちゃってまぁ。じゃあこれならどうよ?おい!」


男が何やら合図すると、どこに隠れていたのか別の男が姿を表した。目の前の男より体格の良い男がやはりニヤニヤしながら近づいてくる。


「うまくいったんスね、ハーさん」

「ああ、それもこれも騙して連れてきてくれたフィーナのおかげだよ。なぁ!」


不意に話を振られたフィーナちゃんがビクッと身体を揺らす。フィーナちゃんは何も言わず、泣き続けている。

……駄目ね、フィーナちゃんにはどうしようも出来なさそう。ちら、とサーヤちゃんを見るが、コチラも恐怖で震えている。私がなんとかしないと……。


「あなた達とフィーナちゃんはどういう関係なの?」


せめてフィーナちゃんが何故こんな事に加担したのか、そこだけでも知っておきたい。私は目をそらさず男を睨みつける。


「いぃーい目だなぁ。こういう目の女を好きにすンのが堪らねぇンだよ」

「兄貴は鬼畜っスからねぇ。前の女はどうしたんスか?」

「あン?使えなくなったからその辺に捨てたわ」


最低ねこの男……。この街にもこんな奴が居たのね。ああもう、自警団は何をやってるのよ。


「おっとフィーナとの関係だったかぁ?こいつは協力してくれただけだよ。お前に近い奴なら誰でも良かったンだがよぉ、こいつが1番騙しやすそうだったからよ」

「え……?」

「ギャハハハ、お前本気にしてたのかあの話!ンなワケねーだろ!」

「は、話が違うじゃない!じ、じゃあお母さんは……」

「テメェの母親なんて知ったこっちゃねーよ。勝手にくたばっちまえ。あぁ、最後に味見してやってもいぃぜぇ?」


フィーナちゃんのお母様?確かに最近見ないけれど……


「薬があるって言うのも嘘だったのね……。ごめんなさいマリベルさん、私バカだ……」

「あぁ、大馬鹿だなぁおい。まぁ、これからも俺等の役に立つなら飼ってやんよ!」


不意にもう一人の男がサーヤちゃんに近づく。


「いや……こ、こないでっ!」

「兄貴、俺はこっち貰っていーッスかね?」

「相変わらずお前はちぃさいのが好きだなぁ。……好きにしろや、俺ぁマリベルとよろしくヤルからよ」


抵抗出来ないだろうと油断して近づいてくる男。そろそろ潮時ね。フィーナちゃんも騙されてたようだし、もうこれ以上聞く事も無い……と言うよりこれ以上この男達の顔は見たくないわ。何より早くサーヤちゃんを安心させてあげないと。


「もういいわ。聞きたい事も聞けたし、これ以上あなた達に付き合う気はありません」

「あン?」

「……魔法士相手にこの程度でどうにか出来ると思ったのかしら?風の刃よ!」


そう言って私は縛られているロープを切断し、両手を開放する。


「突風よ!」


そのままお店の商品ごと男達を吹き飛ばそうと――え?


私が起こした突風は、しかし男達の前で掻き消えてしまった。そんな、まさかキャンセラー!?


「危ねえ危ねえ。つーか最初に言ったろぅ?お前の事はよーく知ってるってよぉ!お前が王都の養成所出って事はバレてんだよ!お陰で高くついたぜぇコイツはよ」


男は首にかけている下品なネックレスを見せびらかしてくる。キャンセラーなんて素人がそうそう手にできるものじゃ無いのに、どこから……。


「そういう訳だからよ?じゃんじゃん使ってくれて良いぜ魔法はよ。疲れきったお前を好きにすンのも悪かねぇ!」


甘く見た……。まさかキャンセラーなんて物が出て来るなんて。こうなったら最大出力で建物ごと吹き飛ばして……駄目、私だけならともかくサーヤちゃんとフィーナちゃんが居る……。


「もうお終いかぁ?んじゃ好きにさせてもらうぜ?おい、お前もさっさとガキやっちまえよ。絶望したこいつの顔も見てみてぇ!」

「ウッス、んじゃお嬢ちゃん。俺と楽しい事しようや。なーに天国に連れてってやるよ!」

「や、やめなさい!」

「うっせえよ。お前は黙って見てろ。お前のせいでガキに一生もんの傷ができる瞬間をよぉ!」


男がサーヤちゃんに触れる、その刹那―――


「ぃや……いや……来ないでー!!!!!」


瞬間サーヤちゃんが激しく輝き、あたりが光に包まれた。あまりの眩しさに目を開けていられない。魔法!?でも呪文も性質指定も無い、ただの叫び声でこれは!?


光が静かに消え去った後、男達は直前の姿勢で、まるで凍ったように動きを止めていた。

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