第10話【デートそして罠】

時は少し遡り、和真と紗綾が別れた後―――


「さ、じゃあ出発ねっ!いっぱい回るわよぉー。サーヤ隊員覚悟は良いか!?」

「はっ、はい!よろしくお願いします!」

「いい返事だ!では出発!」


フィーナちゃんがまるで戦場にでも向かうかのような剣幕でサーヤちゃんを先導している。今までフィーナちゃんはどちらかと言うと可愛がられる立場だったから、下の子が出来て嬉しいのね。こうして見てると仲の良い姉妹みたい。


「マリベルさーん、置いてっちゃうよー!」

「あらあら、今行くわ」


こうしていると私はなんだかお母さんみたい……いえ、ダメよマリベル。そんな事ないわ、私だってまだまだ若い―――何言ってるのかしら私……



今日はサーヤちゃんにお洋服を、と言う事でカズマ君とは別行動。まぁ、女の子の買い物は長いし、その方がカズマ君も楽よね。その、下着とかも必要だし……。

流石に会って間もない男の子を連れてそんなお店に入れる程、私も達観してないわ。


それにしても……初めて会ったときカズマ君とサーヤちゃんが来てた服、あれは何だろう。私も貴族の一人二人会ったことはあるし、王都にも行ったことはある。でも、そこですら見たことの無い服だった。あえて何も聞かず洗濯の仕方だけ教わったけど、明らかに上等品なのよ。まぁ、他国に行ったことは無いので、どこかの国の上流階級出身だろう、そう思う事にしている。


「マリベルお姉ちゃん、どうかした?」

「あら、ごめんなさいね。ちょっとぼーっとしてたわ」


考え事をしていたのに気付いたのか、サーヤちゃんがとてとて駆け寄ってきた。いけないいけない、ちゃんと見ておかないと。


「ぼーっとしてる暇は無いよマリベルさん!まずはこの店だぁ!」


若い子の服は若い子の方が詳しいだろうと、まずはフィーナちゃんのオススメのお店に案内してもらう。ってこの言い方だと私が若くないみたいね……自分で言って少し悲しくなる。


その店は普段私が買いに行く服屋とは違い、店構えからしていかにも女の子向けなお店。

お店自体は白を基調にした落ち着いたデザインだけれど、置いてある服にはこれでもかとレースやフリルが付いている。こんなデザイン、貴族にしか用がないと思うのだけれど、フィーナちゃん、よくこんなお店知ってたわね……。


「ふぁぁ、か、可愛いです!」

「でしょー!ここの店長ね、何でも元は貴族御用達だったらしいんだけど、普通の人にも着てもらいたいって、あえてここに店を出したんだって」


なるほど、それでこのデザインなのね。でも売れるのかしら、これ。お値段的にも見た目的にも、手が出ないんじゃ……


「まぁ、私達には中々売れないらしいんだけどね!正直言って高いし」

「フィ、フィーナさん、こ、声が大きいですよぅ!」


黙っていても疑問が次々解決していくわね。あの性格はフィーナちゃんの良い所でもあり悪い所ね。


「おっとと、いけないいけない。と言う訳でまぁ、ここは見て楽しみましょう!ほらこれとかサーヤちゃんに似合うんじゃない?こっちも!」

「えとえと……あわわわ……」


そう言ってフィーナちゃんは次々とサーヤちゃんに服を重ねていく。サーヤちゃんが目まぐるしく変わる服に目を回しそうになってるわ。


「フィーナちゃん、ちょっと落ち着きなさい」

「マ、マリベルお姉ちゃんっ……」


サーヤちゃんが助かったといった顔でこっちに駆け寄ってくる。すかさず私は密かに選んでいた服をサーヤちゃんに重ねてみる。うん、私の目に狂いはないわ。


「こっちの方が可愛いわよ」

「あっ、可愛い!さっすがマリベルさん!」

「えっ…えっ…えええー!」


サーヤちゃんの嬉し恥ずかしな悲鳴が店内に響き渡る。ごめんね、これもサーヤちゃんが可愛いのがいけないのよ!




「はー、疲れたー。でも楽しかったー!」

「あはは……」

「ごめんなさいね、サーヤちゃん。疲れちゃったでしょう?」

「あ、いえっ!その……ちょっと疲れましたけど、でも楽しかったですよ!」


あれから色々な店を見て回った私達。主に着せ替え人形みたいになってたサーヤちゃんは正直クタクタだとは思うけど、それでも気を遣ってくれている。なんて良い子なの。ああもうホントの妹にしちゃいたい。


「でも良い買い物も出来たし良かったね!」

「あの……ホントに良いんですか?買ってもらっちゃって……」

「いーのいーの!女の子だもん、可愛くしとかなきゃ!カズマじゃそういう所、気が利かないでしょ!」


仲間はずれにされた挙句この言われよう……ホント相性が悪いのね。それともただの裏返しかしら。

移動中も買い物中も事あるごとにカズマ君の名前が出てたものね。これはフィーナちゃんにも春が来たかしら?


「マリベルさん、何ニコニコしてるの?」

「ううん、何でも無いわ」


日も沈みかけ、そろそろ人の通りも少なくなる時間帯だ。カズマ君ももう帰ってる頃かしら。


「それじゃあそろそろ帰りましょうか」

「あ、マリベルさん!その前にもう一軒だけいいかな!」

「私は良いけど、サーヤちゃんは大丈夫?」

「はい、大丈夫ですよー」

「やた!じゃあこっちです!すぐ近くですよ!」


そう言ってフィーナちゃんはどこにその元気があるのかといった感じで駆けていく。これが若さかなぁ……



最後に紹介されたお店は今までとは趣が違い、どちらかと言うと大人の女性向けのお店。フィーナちゃんが来るには少し早いような気もするんだけれど……


「この間すっごくマリベルさんに似合いそうな服を見つけたんですよー!」

「あ、あら?私なの?」

「ええ、いつもお世話になってますしプレゼントしますよ!」

「そんな、悪いわよ。良いのよ気にしなくて」

「私があげたいんです!さぁさぁ入って入って」


フィーナちゃんに押され店内に入る。お店はそろそろ閉店だったのか他のお客様はおらず、店員さんが1人気怠そうに片付けをしている。接客をする者としてその態度はどうなのかしら……


「らっしゃっせー……」


挨拶もイマイチね……。フィーナちゃんには悪いけどこういうお店ではあんまり買い物する気にならないわねぇ。サーヤちゃんにもあまり良い影響じゃないわ。


「ねぇ、フィーナちゃん。他のお店にしない?その……お店の人の態度がね?」


小声でフィーナちゃんにそう伝えようと振り向いた時、不意に入り口からガチャリ、と音が聞こえてきた。

え?今の音……鍵を閉めた?


「フィ、フィーナちゃん?」

「…………ごめんなさい。ごめんなさいマリベルさん」


そこには、サーヤちゃんの肩をしっかり抑え、涙を流しながら震え謝ってくるフィーナちゃんがいた。

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