第9話【謎の男ライアン】

その男が来たのは、紗綾達と別れた翌日、いつまで経っても帰ってこない紗綾達を流石に探しに行こうと、店を出たときだった。


「あー、カズマってのはお前か?サーヤって少女を知ってるか?」


この街では珍しく革の鎧?胸当て?のような物を着け、腰には剣を指している。正直言って目つきは悪く、顔をはじめ、いたる所にある傷跡のせいもあり真っ当な人間には見えなかった。


出会い頭に名乗りもせず妹の名前を口に出した男に、俺は思わずカッとなって突っかかってしまった。


「アンタ誰だ!紗綾達を何処へやった!!」

「おいおい、落ち着けよ……話聞く気はあるか?」


飄々とした態度で接してくる男に我慢が出来ずに、つい荒っぽい態度で接してしまう。紗綾達の事を考えると、余裕なんてある訳も無かった。


「良いから質問に答えろ!紗綾達は何処だ!!」

「ったく、若えなぁ。どんな時もクールに、これが長生きする秘訣だぜ?大体お前何か勘違いしてンだろ」


どうでもいい事をペラペラと喋る男に我慢の限界も来ており、思わず俺は殴りかかっていた―――筈なんだが、気が付いたら空を見上げていた。え?何だ?投げられた?


わざわざ丁寧に投げたのか、背中に大した衝撃も無く、投げられたという事実にも気付かなかった。


「おっと、ついやっちまったぜ。おい、少しは落ち着いたか?ったく、少しは人の話を聞けよ。まぁ、それだけ心配だったんだろうがよ」


思考が一瞬空白になったせいか、多少頭が冷えてきた。男に腕を引かれながら立ち上がる。


「よっと。たく、聞いてたのと少し違うな」

「聞いてた?アンタ一体……」


紗綾はともかく、俺はこの街でそんなに有名じゃない。いや、例の制服のせいで変に有名かもしれないけど……。


「あー、まず結論から言っとくか。お前の妹な、無事だからな。あ、他の2人も無事だぞ」

「っ……!無事って、何があったんだ!」

「おいおい、だから落ち着けって。あー、面倒くせえ。取り敢えず合わせるほうが先か。ついてこい」


そう言って、男は何処かへ向かい出す。言いたい事聞きたい事は山ほどあるが、黙ってついていくしかなかった。




男に連れられて着た先は悪党共の巣窟……と言った事はなく、普通に人の出入りのある場所だった。何だろう、詰め所のような……。さっきから革鎧や鉄鎧を着た人達が忙しそうに出入りしている。


「ほれ、ココだ。3人共この部屋に居る」


案内されたのは来客用に作られているのか、他よりほんの少しだけ居心地の良さそうな部屋。その中で疲れた様子で居心地が悪そうにしていた。


「紗綾!マリベルさん!」

「あっ!お兄ぃ!」


こちらに気付いた紗綾が駆け寄ってくる。思わず紗綾を抱きしめ、無事だった事に安堵する。


「心配したぞ紗綾……。大丈夫だったか?」

「く、苦しいよぅお兄ぃ……うん、心配かけてごめんね……」

「心配かけちゃったみたいね、ごめんなさいカズマ君」

「アンタさり気なく私の名前を呼ばなかったわね……」


そんな風に2人共話しかけてくる。スマン、咄嗟のことでフィーナの名前が出て来なかった。


「スマン、心配して無かった訳じゃ無いんだが……。と、ともかく無事で良かった。一体何があったんです?」


この3人が連絡もなしに帰って来ないなんて無いと思う。何かはあったんだろうけど……。


「ライアン貴方、どうせ面倒臭がって何も説明しなかったんでしょう……。人選を間違えたわね……」

「いやぁ、最初は説明しようと思ったんだがな」


なんだ?マリベルさんとこのライアンとか言う男は知り合いなのか?接点は無さそうなんだけど……


「ごめんなさいねカズマ君、順を追って説明するわね」


そう言って、マリベルさんは昨日の顛末を話しだした。

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