第8話【事件勃発!?】
昼食を終えた後、俺はさっそく図書館へ足を運んでいた。目的はひとまず魔素について調べることだった……んだが
「むぅ……さっぱりわからん」
どうにも書いていることがさっぱりわからない事態に陥っていた。いや多少はわかる、わかるんだが、魔素が一体何なのか、どういうものなのかと言う部分がさっぱり不明なのである。
概ね魔素についての本を読み漁っても、他のなにかに混ざり作用する、魔法に使える、度が過ぎると暴走、転生してしまう。そういった情報しか載っていないのだ。そう――不自然なまでに魔素自体についての記載が無いのである。
「これは……情報規制でもされてるのかな。あるいは誰もわかっていない?」
例えば日本で『水』について調べたとしよう。まぁ、液体であるとか、凍る、蒸発するといった情報はもちろん、少し調べたら水素と酸素の化合物であるだとか、化学式だとか、そういった情報まですぐにわかる。だがこの図書館で調べた限り、魔素は魔素である、以上。みたいな答えしか得ることが出来なかった。魔素を使って何が出来る、みたいなのはわかっても、魔素とはなにか?に全く触れていない。もちろん現代地球ほど文明が発展しているわけではなさそうなので、単純にそこまでわかっていない、と言ったオチも十分にあるんだが。
「ふーむ……とりあえずわかったのは、魔素の吸収上限は個体によってバラバラってことくらいか。年齢やサイズにも影響されないと。ますます紗綾に吸収させるのは怖くなったな」
過去には小動物なんかで実験した例もあったみたいだが、確定した答えは得られなかったらしい。その本によると素質だとか精神面に左右されるのでは――なんて締めくくられていた。
「魔素については図書館か王都って言ってたし、王都に行けばもう少し詳しいこともわかるかな。たしか王都には一流の魔法士とやらもいるんだっけ?これは何処かで王都に行かなきゃならないかな……王都って遠いのか?」
魔素関係の本を返却し、地理関係の本を探してみる。地図が非常に貴重、ということもなくあっさりと目当ての本は見つかった。
それによると王都はここ、アーバンテレス国のちょうど中央に位置しているらしい。ここ、コルセアはアーバンテレスという国全体からみたら、端にある領土なので中央へはいくつかの領を跨がないといけないらしい。結構な距離がある。
「うーん、今すぐ向かうには流石に無理があるな……」
なにせ先立つものがなにも無い。マリベルさんから給料は貰える事になってるがまだまだ先の話だ。ただでさえ生活費や細かなお金を出して貰ってるのに、王都に行きたいからお金を貸してください、なんて到底言えたもんじゃない。
「最低でもかかる旅費――食費や宿泊費が貯まらないと動くに動けないな」
もちろん、ココに来るときみたいに、行った先でなんとかなるさ精神で強行することも出来なくはない。はやく日本へ帰る事を考えたらその方が正解かもしれない。しかし一度腰を落ち着けてしまった俺には、どうしてもその選択肢を取る踏ん切りがつかなかった。まぁ、いきなり居なくなったらマリベルさんも困るだろうしな……
「さて、とりあえず一旦帰るか。紗綾達はもう帰ってるかな?」
そう、図書館へは俺一人できている。最初は紗綾と一緒に来る予定だったんだが、昼食後店を出る時に、紗綾はフィーナに連れて行かれてしまった。と言うのも――
「じゃあ、俺達は図書館にちょっと足を伸ばしてみます」
昼食も終え、これからどうしようとなった所で俺がそうマリベルさんに提案した時だった。
「ちょっと待ったー!!」
突然乱入してきたのはこの店の看板犬もとい看板娘のフィーナだった。なんだ?まだなにか用なのか?
「サーヤちゃん、図書館なんて行ってもつまらないよ!それよりお姉ちゃんとお買い物に行こう!」
「あらあらフィーナちゃん、急にどうしたの?」
「あ、もちろんマリベルさんも一緒ですよ!女の子だけで行きましょう!……そういう事だからアンタは独りで行ってきなさい」
いきなり現れて勝手なことを言い出す始末。こいつは本当に……
「紗綾、気にしないで良いぞ。さ、俺と図書館に行こうな」
「サーヤちゃん、ほらほらお姉ちゃんと行こう?きっと楽しいよ!」
「えーと、その……両方行く……ていうのは?」
「嫌よこんなやつと一緒に行動するなんて」
「あ、あうぅぅ……ど、どうしよ……」
散々な言われようである。と言うかマリベルさんと一緒に暮らしてるってだけで随分と嫌われたもんだな……。紗綾は自分では決められないようであわあわしている。
「そうねぇ……サーヤちゃん、お洋服は好き?」
「あ、はい。好きです……けど」
そう答えながらチラチラこっちを見てくる紗綾。あ、これはもう決まったな。逆らうだけ無駄だろう。
「はぁー……よし、じゃあ紗綾はマリベルさん達と行ってくると良いよ。確かに図書館だとちょっと退屈だろうしな。マリベルさん、お願いしても良いですか」
「ええ、もちろんよ。任せて」
「やたっ!じゃあ早く行きましょ!ほらほら」
そう言って急かすように買い物に行こうとするフィーナ。尻尾がパタパタ揺れている……いや、生えてないけど。
「ご、ごめんねお兄ぃ……」
「いーよいーよ、行ってきな。迷惑はかけるんじゃないぞ」
そうして紗綾達は買い物に行ってしまったと言うわけだ。
帰り道、日も沈みはじめ人通りも少しずつ減ってきていた。まずいな、もしかしたら待たせちゃってるかもしれない。紗綾はちゃんとおとなしくしてたかな。フィーナに釣られて暴走してなきゃ良いけど……
そんな風に考えながら、急ぎ図書館から帰ったが紗綾達はまだ戻ってきて無かった。まぁ女の子3人だし、時間もかかるだろう。そう思って呑気に待っていたが、いつまで経っても帰ってこない。
「流石に遅すぎやしないか……?」
もう日はとっくに沈んでおり、通りには人の気配もない。
迎えに行くべきか、でもどこに行ったか分からない以上、すれ違いになっても困るしな……。あと少し待ってそれでも帰って来なかったら、探しに行くか。書き置きしておけばすれ違っても大丈夫だろう……そんな風に待っていた。
それでも時間だけが過ぎていき、居ても立っても居られず街中を探しに行く、帰って来てないか店に戻る、を何度も何度も繰り返してみたが、ついにその日、紗綾達は帰って来なかった―――
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