第7話【美人三姉妹?】
「またねー、サーヤちゃん」
「ありがとうございましたー」
マリベルさんの店で働く事になってから3日、俺と紗綾はとりあえず最低限の事は出来るようになっていた。店での役割は俺が金銭関係、紗綾が注文関係となっている。初日は注文が上手く覚えられず、間違ったりもした紗綾だが、小さい子が慌てながら注文をする姿や頑張って持ってくる姿にほだされたのか、大きなクレームには繋がらなかった。紗綾は中学一年にしては小柄なので、実際の歳より下に見られるのも効いてるんだろう。
ちなみに、俺達が入ると決まったその日の内にマリベルさんはパンを陳列していた棚をへらし、代わりにテーブルセットを増やしてしまった。ついでにメニューにも最初に出してくれたケーキを増やしていた。結果的にこれが当たりで、今では昼過ぎまで人が途絶えることがない。
「ふぅ、今のお客さんでとりあえず一息つけるかな」
「おつかれお兄ぃ!……ぷぷぷ」
「笑うなよ紗綾……」
「だってぇー」
そう、俺は結局制服と言って譲らないあのメイド服を着ている。最初こそお客さんに変な目で見られていた俺だが、マリベルさんの鶴の一声……可愛いは正義……により、みな納得してしまった。いや、気にしない様にしただけかも知れないが。常連さんの中には別の服を着せようと持ってくる客もいる始末だ。と言うか似合ってないだろ……これ。
「あ、お客様捌けたのね。二人共お疲れ様」
厨房からマリベルさんが顔を出してくる。ちなみにマリベルさんはメイド服を着ていない。どうせなら巻き込んでしまおうと、制服じゃないんですか?と聞いたが、私はいいのよー、と逃げられてしまった。理不尽である。似合うと思うんだけどなぁ……。
「そう言えば、注文が来たらすぐに出てきますけど、そんなに早く作れるものなんですか、パンって?」
うろ覚えの知識だが、生地を発酵させたり焼いたり、パンってそんなにすぐに作れたっけ?ましてやケーキなんてもっと時間がかかる気がするんだけど……
「うふふ……それは企業秘密よ」
「企業秘密ですか……」
「そんな事より、お昼にしましょう。どうしよっか、今日はどこかに食べに行きましょうか」
「お昼お昼ー、お腹空いたー!」
またはぐらかされてしまった。
飯と言えば紗綾のMPについてだが、満腹になっても日本への帰還は果たせなかった。最大容量的なものが足りないのか、イメージがうまく掴めないのかはわからないがその日、紗綾はこの世界に来て初めて大泣きした。今まで我慢していたものが噴き出したのだろう……。慌ててマリベルさんが飛んできたが、色々隠して説明するのは大変だった……。
泣き疲れて紗綾が眠った頃、例の説明書が急に輝き出した。取り出して見てみると、そこにはこう記されていたんだ。
【術者の最大エネルギーについて。最大エネルギーは成長とともに増加してく他、以下の方法によっても増加可能です】
術者の身体的成長
術者の知識的成長
術者の熟練的成長
外部因子の取込による成長
ふむ、狙いすましたように文書が増えたな。紗綾は自分の力不足を嘆いてたからな。それに反応してってとこか?
1の身体的ってのは要するに成長だよな。単純な話身体がデカくなればそれだけ胃の容量も増えるしな。そうすれば摂取出来るエネルギーも増える。
2の知識的ってのはなんだろう……。魔法の事をより理解すれば良いのか?とは言えまだまだ分からない事だらけだしな……。説明書仕事しろ。
3の熟練的ってのは要するに魔法を使い続ければ成長するって事か?うーん、もっと小まめに色々使わせた方が良いんだろうか……
そして4の外部因子の取込。これは一体なにを取り込めば良いのか……。この世界で魔法に関係するものと言えば魔素だけど、取り込み過ぎると転生……あの化け物みたいになるんだよな。流石にソレは却下だ。それ以外に何か取り込めるものがあるんだろうか。
結局今の所出来るのは小まめに魔法を使いつつ、外部因子とやらを探す事か。もう少しこの世界の魔法についても調べないと。マリベルさんは知ってるかな?今度聞いて見るとするか。
マリベルさんに連れられて俺達はオススメの店に向かっている。何でも早くて安いのに、味は良い店らしい。ちなみに例のメイド服は着ていないぞ。マリベルさんはそのままでも良いのに、と言っていたが断固拒否しておいた。今はマリベルさんが買ってきてくれた服を着ている。
「そう言えばマリベルさん、マリベルさんは魔法について詳しかったりします?」
「え、魔法?うーん……私も学校で習った程度しか説明出来ないわよ?詳しく知りたいなら図書館に行くか、王都に行くしかないわねぇ」
図書館!この街にも図書館はあるのか。後で行って色々調べてみよう。
「でも急にどうしたの?魔法が使いたくなった?」
そう、マリベルさんに紗綾の事は伝えていない。シトナ村で注意されたのもあるけど、あまりおおっぴらにするのも怖かった。
「え、ええ。魔法が使えたら色々役立ちそうじゃないですか」
「確かに便利だけど……難しいわよ?素質も必要だし、制御に間違ったりすると……」
「転生……ですよね」
「あら、知ってたのね。まぁ転生まで行くのは稀だけど、事故とかはあるかな」
「なるほど……、まぁとりあえず図書館に行ってみます。魔法に限らず知りたい事は色々ありますし」
別に俺が魔法を使う必要はない……いや、使えるなら勿論使ってみたいが……ともかく、まずは魔素について詳しく調べるところからかな。安全に取り込めるなら、紗綾のMPも増やすことが出来るかもしれない。
「ねー、早く行こうよー!私お腹すいたよぅー」
「ふふっ、ごめんねサーヤちゃん。もうすぐ着くからね」
「いらっしゃいませー!あれ、マリベルじゃない」
「こんにちは、フィーナ。お昼、大丈夫?」
元気よく出て来たのは、橙色の髪を2つ横で縛った女の子。多分俺と同い年かちょっと上くらい?エプロン姿でパタパタ走ってくる姿はちょっと犬っぽい。
「あれ、この子達は?まままままさか、マリベルさんの子供!?い、一体いつの間に……」
「ちーがーいーまーすー。大体カズマ君が子供だとしたら、私は何歳になるのかな?」
マズイ、マリベルさんの背中に鬼が見える……。多分だけどこの人に歳を聞くのは厳禁だ。
「ぴゅい!?ごごご、ゴメンナサイ」
「ま、マリベルお姉ちゃん、怖いよぅ……」
フィーナさんはぷるぷる震えて謝っている。あ、つられて紗綾もぷるぷるしてるし。なんか仔犬が2匹いるみたいでちょっと和むな。
「この子達はウチの従業員よ。ワケアリみたいだから住み込みで働いてもらってるのよ」
「あ、どうもはじめまして。俺は和真、こっちのは妹の――」
「はじめまして!紗綾です」
「住み込み!?今住み込みって言った!?何、あなたマリベルさんと一緒に暮らしてるの!?」
ぐいぐい迫ってくるフィーナさん。何だ何だ……。いやまぁ確かに若い?いや若いですねハイ。ゴメンナサイ。だからそんなに怖い顔してこっち見ないで……。ごほん、若い女性の家に男が転がり込んでる訳で、そりゃ知り合いとしては心配になるか。
「いーなー、私もマリベルさんと暮らしたい!ちょっとアナタ……カズマって言った?私と代わりなさいよ!」
さらっと無茶を言ってくる。
「あなたの代わりに私が入れば、この子と合わせて美人三姉妹で売り出せるわ!ねー、あなたもそっちの方が良いわよねサーヤちゃん」
「あ、あうぅ……わ、私は、お兄ぃと一緒のほうが……でも美人三姉妹……えへへ……」
おい紗綾、そこで揺れないでくれ。お兄ちゃんは悲しいぞ……
「こらぁフィーナ!!くっちゃべってないで仕事しろ仕事!!」
「うひぃ!」
怒られてやんの。そのまま注文を取って去っていく姿は寂しく、心なしか垂れた耳と尻尾が見えるようだった。
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