第二章 残念系魔法少女

第7話 モニカレベル5 ノアレベル26

 モニカ達は、無事に次の目的地であるルクセントという街に辿り着いた。

 外から見た街はぐるりと石できた塀に囲まれて、塀の上では街の外と中を見張る兵士が点々と立っている。それだけ見たモニカは、武器を持つ人間の姿ばかり見えるルクセントに怖い印象を受けたが、門をくぐり街の中に入ればマイナスのイメージは一蹴された。

 「おぉ」と、踏み込んだモニカはあまりの活気の驚きの声を漏らした。目の前を行き来する通行人たちは、おかしな言い方だがいずれも急がしそうであるが愉快そうに働いている。歩き出せば、左右から声をかけられて、商売人根性の強い商人達が次から次に商品を勧めてくるのだ。


 「採れたての魚だよ! この辺じゃ滅多に採れない高級魚なんだ。ここを逃したら、次はないよ!」

 「ほら、万病に効くといわれてるエナジーフルーツだ! 薬草があるからいいって? そんなの古い古い! 今、流行なのは美味しくて傷口を癒すことのできる、エナジーフルーツだって! え、色がおかしい? そりゃ、独自の品種改良をしている……からね……」

 「竜の鱗で作られた剣はいらないかい!? 今、この剣を購入すれば、何と……この竜の鱗で作られたかもしれない鎧も一緒についてくる! それだけじゃない、なんと、この魚の鱗風の竜の鱗が――!」


 かなり怪しい商売も混ざる嵐のような声を聞きながら、気づけばモニカはクスクスと小さく笑っていた。そんな楽しげなモニカを見たノアもつられて笑う。


 「どうした、何か楽しいか?」


 「うん、なんだかお祭りみたいだね!」


 「祭り、か……。確かに、そうだ。この世界で生きている私でさえ、このルクセントに来ると人の騒がしさに圧倒されてしまうものだ」


 クールに笑うノアの横顔を見て、なんだかモニカは恥ずかしい気分になってくる。ノアと自分の年齢は一つしか変わらない。それなのに、このはしゃぎっぷりはまるで自分が子供のように思えた。

 モニカは「ごほん」と咳払いをする。頬の緩みまくっていた筋肉にぐっと力を入れた。


 「そ、そうだね。私もちょっこと驚くよ。……驚く、ぞ?」


 一体、この言葉のどこにモニカの大人が含まれているのか理解できないが、それでもこれがモニカなりの大人でクールな発言なのだ。顔を横に向けているノアから返事がないので、モニカは今一度「ノアちゃん?」と呼んでみることにする。


 「ん? もぐぁふぁ?(なんだ?)」


 振り返ったノアの顔を見て、モニカは驚きで口をぽっかりと開ける。そこには、イカに酷似した三角の生物を焼いたものを串で刺した食べ物を頬張るノアがいた。 


 「――て、すごい満喫しているし!? ていうか、めっちゃ美味しそうに食べるね!」


 食べ終わったノアは、口の周りに付着したソースを手の甲で拭う。その仕草まで、美味しそうに見えるので、モニカの口内からは唾液が溢れてくる。


 「まったく、モニカはいつもいつも食いしん坊だな」


 やれやれと困った感じに告げるノアの脳裏には、きっとモニカが村にやってきた日のことを思い出しているのだろう。


 「状況がいつも悪いんだもん……。そ、そりゃ、食べることは好きだけど、別にずっとお腹が空いているわけじゃ……」


 ふてくされたように言うモニカを見たノアは、足を止めた。その視線の先には、先程ノアが食べていたものが売ってある屋台がある。


 「迷惑じゃなかったら、私がさっき食べていたウキョ焼き食べるか?」


 ブツブツ言いながら小石を蹴飛ばしていたモニカは、再び蹴るために上げた足をジャンプするために使う。全身で飛び上がって、喜びを表現した。


 「そんなノアちゃんが好きだよ! 食べりゅぅ! ……え、今さっきのウキョ焼きとかいうの?」


 「ふ、ふふふへ……そ、そうか、好きか、なんだったら……私を食べてもいいんだ、ぞ」


 よく分からないことを言うノアに会計を任せたモニカはウキョ焼きを受けとる。

 ウキョ焼きというのは、どうやら二本の手と二本の足で海の底を駆け回るイカによく似た生物らしい。なんで、ウキョと呼ぶのかというと、海から陸に上げる時に「ウキョキョキョ!」と野太いおじさんの声で叫ぶところからウキョという名付けられたのだ。


 (名前と由来はアレだけど、意外とウキョ焼きおいしい……)


 ちなみに、イカ焼きは別にちゃんと存在するそうだ。



          ※



 そして、場面はモニカ達と同時刻にルクセントへ到着したある少女へと変わる。


 少女の髪の色は淡い茶色。セミロングの髪がふわりと流れるさまは、絵画に出てくる女神のような神聖さすら感じさせる。しかし、その自慢の髪をもってしても、少女の美しさを霞ませる理由もある。それは、少女の生まれ持ってのつり上った目のことだ。端が高く上がった眉のこともあり、外見のせいで他人からきつく見られがちな少女からは、どことなく人を近づけさせない雰囲気を醸し出していた。

 だからといって、ただ威圧的なオーラを持っているわけではない。事実、少女の外見は可憐なものだった。女神ではないが、戦女神ヴァルキュリアとしては成立する。つまり、少女の美しさというのは、飾りものを貴重に扱うような美しさではなく、周囲に緊張感を与える凛とした美しさだった。――ただ、今の状況は少し違う。


 意思の強い瞳を空に向けた。そして、つばの広い帽子をぐっと上に持ち上げて、陽の光に目を細める。


 「眩しいわね。だけど、旅の始まりには良い日と言っておこうかしら」


 少女の名前はアルマ。そして、少女は気づかなければいけないことを気づいていない。少女から間隔を空けて歩いている通行人達のことを。

 彼女はモンスターでもなければ、裸で歩き回り痴女でもない。ただの、どこにでもいる十五歳の少女だ。しかし、そんなどこにでもいる人間を見て遠ざける方法は一つ――見た目だ。


 頭に被っている帽子は、つばが広く頭のてっぺんが三角形で高くなっている。そして、手に持つのは先端がアンモナイトの化石のように内側にぐるりと巻いたアルマの地面から腰の高さまで辺りの長さの木製の杖、足首を隠すほどの黒いフェルト生地のローブ。実は、ローブの下は白いブラウスに股下五センチ以下のショートパンツとアクティブな格好をしているのだが、それは今の少女の外見からは関係ない。

 ――アルマは、全身黒尽くめのその姿はどこからどう見ても魔女や魔法使いの格好をしているのだ。


 だがしかし、ルクセントには魔法を自在に扱うことのできる魔女や魔法使いの存在は知られていても、その格好までは知られてはいない。例え異世界だとしても、その格好は異質なのだ。そのため、ルクセントの住人達からしてみれば、何か変な格好の女が一人でブツブツと言っている。よし、なるべく目を合わせないように関わらないように通り過ぎよう。

 そう考える人間が大半の往来の中、アルマから一メートル以上離れた謎の間隔で歩く通行人。普通ならば、少しぐらい違和感を覚えていいほどだ。本来なら道は広いが、人は多く、自然と押し合うように歩くことになるはずである。まずそこにアルマは違和感を覚えなければいけなかった。


 (お姉ちゃん達が用意してくれたこの魔法使いの礼装、完璧ね。これさえあれば、魔力の上昇。さらには、正体を隠すこともできる機能付き。そして、お姉ちゃんが言うにはナンパな男が一人か二人か十人かが声をかけてくる可能性があったらしいけど、この高貴なる姿に誰も声をかけられないようね。さすが、お姉ちゃん!)


 ある意味では好奇な視線に晒されていることに気づかないアルマ。

 事実、この服装には確かに魔力が繊維にまで浸透している。しかし、格好が格好だけに変人扱いをされてしまうため、あまり着たがる人間はいない。

 事実、正体を隠すことは可能。魔法使いというのは、いざ正体が分かってしまえば、敵の標的になりやすい。しかし、この服装は悪目立ちする可能性が高い。頭の悪いモンスターなら、これこそ先に攻撃をしてくる恐れもある。

 事実、彼女の美貌に反応する異性はいた。しかし、変態に声をかけるナンパはいない。先のリスクを考えて、そこで冷静に戻るナンパ達。

 事実、ここには怪しい少女が一人歩いていることになる。


 気分は物語の主人公のアルマは、できる女のようにローブの裾をひらりと浮かせた。

 通行人が、アルマのことを害虫から避けるように逃げていることに気づくこともなく、鼻歌混じりに歩き出した。



           ※


 場面は勇者一向に戻る。



 「ありがとうございましたー」


 酒場を出る前にモニカは店のカウンターへお礼を言えば、両開きのスイングドアを押し開ける。ドアのすぐ脇でモニカが出てくるのを待っていたノアは、モニカに視線を送る。


 「どうだ、何か異変についての情報はあったか?」


 「ううん、最近は領主様が課す税が重くなってきたとは言ったけど……。世界の異変とは関係ないよね?」


 「だろうな。陸や海がモンスターの襲撃で襲われる危険性を考えたら、物資の供給も難しくなる。税が重くなるのも、きっと珍しい話ではないだろう」


 ノアが先に歩き出せば、その背中を早歩きで追いかけるモニカ。今のペースなら、モニカを息切れさせてしまうので、ノアはそっと速度を落として歩幅を合わせる。


 「そっかぁ……。夜なら、もっと人が来るらしいから、また遅くなってから来てみる?」


 「夜は私が行こう。その間、モニカは宿で休んでくれているといい」


 「え、そんな、ノアちゃんばかり……」


 「いや、よく知らない街を夜間出歩くのは得策ではない。モニカは私を補助する魔法は使えるが、一人ではその力を発揮できない。今回は情報収集だけだし、一人の方が行動しやすいだろう」


 理由をいくつか挙げるノアだったが、結局のところはモニカ一人では危険だということだ。同時に、人間相手との戦闘も経験しているノアだからこその戦い方もある。できることなら、モニカには人と人との戦いはさせたくない。だからといって、情報収集をしないわけにもいかない。そう考えれば、自然とノアが一人で行動することが一番良い方法となってくる。

 微妙に納得いっていない様子のモニカ。しばらく、悩んだ後に申し訳なさそうに声を発した。


 「それはそうかもだけど……。宿に着いたら、おうえんのスキルをかけてあげようか?」


 「宿で二人きりで……」


 不思議といえば不思議な光景。二人っきりの部屋の中で、モニカがノアをひたすらに声援を送るのだ。変態的ではあるし、何だかモニカがノアからお金を貰ってそうな状況でもある。そういう商売があるなら、間違いなくノアは常連になっているだろう。だが、しかし――。

 胸が跳ねるようなドキドキを感じるノア。なかなかに魅力的な提案に思えるが、ここはぐっと我慢をする。


 「……いや、あれを使うと私の体内からの魔力放出が外見から視認できる。さすがに、それでは警戒されてしまうだろ?」


 決してノアの言い方がきつかったわけではないが、モニカは黙って言葉を聞けば、小さく肩を落とした。

 そんなモニカの姿に、お前は悪くないんだよ! と抱きしめてやりたい気持ちもあるが、それをしてしまえばきっと堂々巡りになる。忍耐が必要だ。我慢我慢、と。顔だけなら冷静な表情をしたノアの心の中は騒ぎ揺らめく海のように不安定だった。


 「だから、モニカ。すまないが、今夜はゆっくり休んでくれ――ん?」


 横にいたはずのモニカがいない。そんな素早い動きのできる少女ではない。考えられるとすれば、足を止めたことに自分が気づかなかったか。振り返れば、すぐにでもモニカの姿を見つけられた。


 「モニカ?」


 ノアが近寄れば、ぼぉと呆けたように一点を集中して見ているモニカ。

 モニカの前で足を止めたノアは、その視線を辿っていく。そこには変わった格好をした一人の少女。


 「なんだ、あれは……流行っているのか?」


 ノアは表情に嫌悪を滲ませながら、そんなことを言う。その視線の先には――アルマがいた。


 「あれ……たぶん、魔法使いさんか魔女さんだよ?」


 モニカの口から出てくるとは思えなかった二つの単語を聞いたノアは、眉間にシワを寄せた。


 「モニカには分かるのか? 私もそこまで詳しくはないのだが……魔法を使えることが分かってしまうと、戦闘に不利になる彼らは正体を隠して生きているはずだ。普通なら分からないようにするものだが……アレは……。それよりも、よくその二つを知っていたな」


 「うん、私の住んでいた世界では結構有名なんだよ。あの子がしてる格好なんて、魔女の手本みたいな服を着てるし」


 世界も違えば、考え方も違う。

 この世界には魔法使いに決まった格好があるわけではない。その反対に、モニカの世界には魔法使いや魔女には、あの三角帽子に黒尽くめは基本ともいえる服装だった。これで、隣に箒か黒猫でもいれば文句なしだ。

 まじまじとアルマを見つめるモニカ。ノアは、その瞳の中に楽しげな輝きを感じた。なんだか、嫌な予感を感じたノアは話題を逸らそうと考えた。


 「どうしたんだ、モニカ? もしかして、あの格好が羨ましいのか。だ、だったら、私が作ってやるさ。妹の服を作ってやったこともあるんだ。ほ、ほら、どこかで休みながら、一緒に考えよう。な、そうしよう。モニカ」


 ノアの言葉を聞いたモニカは、一度頷いた……ように見えた。それは、完全にそこで安心してしまったノアの失敗だといえた。

 ぱたぱたと二本の腕を無造作に、動かしながらモニカはアルマの前に駆け寄って行った。

 みるみる内に離れていくモニカに手を伸ばしながら、ノアのモニカの名前を呼ぶ声が虚しく響き渡った。




          ※



 アルマはふと自分の前に立つ少女に気づいた。小柄な体にくりくりとした目は小動物を彷彿とさせる。そこには、モニカが立っていた。


 「な、なによ、アンタ……」


 道に迷っていたアルマは、正直言うとモニカの登場を嬉しく思っていた。モニカが人波の中から、アルマに辿り着けた理由は、誰かに道を聞こうとして聞けなくて狼狽していたからだ。

 アルマの目的地は、魔法ギルド。魔法使い、魔女、魔法少女、魔法薬師などなどの魔法関連の職業になった者が仕事を貰う場所だ。しかし、じぃと自分の顔を覗きこんでくる少女からは、この街に詳しいように思えない。何より、少女の着用している鎧が冒険者だと教えているようなものだった。


 「用がないなら、さっさと離れてちょうだい。こっちは忙しいのよ」


 迷惑そうに言うアルマ。しかし、好意的な眼差しを向ける少女を前にしたせいか、あまり口調を強くすることはできない。

 視線を上に下に泳がせていたアルマは、諦めたようにモニカに視線を合わせた。


 「さっきから、なんなのよ。私が何かしたの?」


 「――ねえねえ、もしかして魔法使いさん?」


 「――へ」


 アルマの表情に明らかな動揺の色が浮かぶ。


 「ななな、何を言っているの……」


 絶対に見つかるわけがない。なんたって、これは魔法使いの中でも最高級の礼装。それを、こんなどこにでもいそうな女の子に見つかるわけがない。きっと、雰囲気だけで言っているのよ。

 正直、雰囲気で見つかる魔法使いはどうなのだ。などという発想すら湧く余裕のないノアは、再び強引に言葉を取り繕う。


 「わ、私は魔法使いじゃないわよっ。どこにでもいる旅人よっ」


 冗談でも言われたように、モニカは高い声で笑い声を上げた。


 「何言ってるのー。だって、どこからどう見ても――魔法使いだよ?」


 「あぁ……? ……え」


 頭が真っ白になっていく。もしかして、自分はどこからどう見ても魔法使いです。という格好で、この街の中を歩き回っていたのだろうか。

 そんなことはない。実際、誰からもそんなことは言われていないのだ。そもそも、魔法使いに決まった格好はないのだ。

 大丈夫、きっと大丈夫。……ということは、この子だけ私の正体に気づいているということか。じゃあ、この子は何者なのだ。今着ている礼装は魔力も感知されなければ、目立たない地味な色の服だ。それなのに、自分のことを見抜くなんて……何者だ。


 アルマは混乱から、空っぽになった頭の中を埋めるように不信感で埋めていく。


 「貴女、名前は?」


 「私? 私は、モニカだよ。……魔法使いさんの名前は?」


 聞いたことのない名前だ。どうやら、有名な魔法使いというわけではなさそうだ。

 一見、邪気のない少女だが、一体何を隠しているのだろう。きっとこの笑顔の裏には、何かとんでもない秘密があるはずだ。

 アルマは一度言いにくそうに口ごもると、思い切ったように告げる。


 「私の名前は……アルマよ」


 「よろしくねっ。アルマちゃん」


 警戒をするアルマとは反対に、握手をしようと無邪気に手を伸ばすモニカ。アルマはモニカの雰囲気に流されるように、その手を繋ぐために自分の手を伸ばそうとしたところで――モニカの右の手の甲が輝いた。


 (な、なな、なにっ!?)


 慌ててモニカは手を引っ込めれば、右手の甲を左手で押さえながら腰の後ろに回した。


 「あわわっ、恥ずかしいっ」


 顔を赤くするモニカの背後では、小さく何か老人が出すようなしわがれた声が聞こえてくる。


 「ふええぇ、こうりゅうがいち上がったって、こんな時にまで言わなくていいよ。これ、マナーモードとか電源切るとかできないのかな……」


 一人、自分の顔を背中側に向けながら、モニカは何かブツブツと言い続けている。実際のところ、モニカは独り言を言っているのだが、ノアからみれば怪しいことこの上ない。

 そんなモニカを見ていたノアだったが、ある結論に辿り着く。

 お姉ちゃん達から、人の姿に化ける魔族がいると聞いたことがある。世界中で起きている異変のせいで、そういうモンスターが増えている、とも……。まさか、このモニカという少女はその人型モンスターではないのだろうか。それなら、納得がいく。自分の正体に気づき、さらに右手は別の生命を宿したように喋る。


 (間違いないわ。私は、このモニカというモンスターに命を狙われているのよ! しかも、少女の姿で現れるなんて……なんたる卑劣!)


 アルマは少しずつ少しずつ、モニカの前から離れていく。

 敵はどうやら、私を油断させようとしているようだ。手を繋げば、自分の体は消滅していた可能性もある。どうして、自分の命を狙おうと思ったのかは分からないが、魔法使いという珍しい職業を仲間にして、洗脳でもするつもりだったのだろうか。いっそのこと、ここで、魔法を使って先制攻撃を行うか。いや、それは難しい。――私の魔法は、ここでは使えない。

 なにより、こんな往来の真ん中で少女の姿をしたモンスターを攻撃する魔法使いは見た目が悪い。まさか、そも含めてこの姿に……極悪ね!


 (仕方がないわ。ここは、一度身を引くことにしましょう)


 モニカから背を向けて走り出したアルマは、ギルドを探していたことなんて忘れていた。ただそこには、使命感が燃えていた。


 「モニカ、私が絶対に貴女を倒してみせる。少女の姿になっていても、私の目は見抜けないわよ。なんたって私は、世界一の魔法使いになる女だからね」


 息切れを起こしつつ、「ふふっふふふっ」と笑いながらアルマは人混みの中に消えた。



            ※



 「ごめんごめん、アルマちゃん。ちょっと右手が騒がしくて。あ、別に中学二年生的なものは発症してないけど……て、あれ?」


 右手の輝きが消えて、アルマの方を見れば、そこは見知らぬ人達が行き来しているだけだった。


 「――おーい、モニカー!」


 頭に疑問符を浮かばせるように、何度も首を傾げるモニカだったが、ノアの自分を呼ぶ声に振り返る。

 昔からの憧れであった本物の魔法使いと握手でもしたっかったのになぁ。とそれだけを残念に思いながら、手を振りながら駆け寄るノアの元へ足を向けた。

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