004 クリエイターツール

「とりあえず、これについて教えて欲しいんだけど」

 夢の中でまで人見知りを発揮した私に呆れもせず、イサナは謎のキューブについて説明してくれた。


「クリエイターツールは、マイスターミコトの異能である〔創作家クリエイター〕によって創作クリエイトされた汎用補助端末です。〔創作家クリエイター〕の使用に必要な演算の補助に加えて、マイスターミコトの日常生活全般に関してもアシストできるよう、コミュニケーション・インターフェースとしてイサナが附属しています」

「フェアリィと言うにはちょっと大きめなのは『生活補助』の都合かぁ。そのサイズなら怪力設定で普通に家事こなせるもんね」

「はい」

 そこで「なるほど」と納得してしまえるあたり、いい大人として駄目駄目である。

 怠惰な本性をまったく隠せていない。

「そもそも『私の異能』って?」

「〔創作家クリエイター〕は物質創造系の異能です。マイスターミコトの想像力が及ぶ限り、ありとあらゆるものを作り出すことが可能です」

「たとえば、よくわからない物質でできた、ふわふわ浮いちゃうデバイスとか、背中に翅が生えてる妖精さんとか?」

「はい。ただし、〔創作家クリエイター〕による創作クリエイトには対象の明確なイメージが必要となります。複雑な構造の物体を創作クリエイトするには相当の集中を要するため、マイスターミコトはご自身の異能をもっと手軽に扱えるよう、クリエイターツールをお作りになった……と、イサナがアクセス可能な記憶領域には記録されています」

 そこで、イサナはこてん、と首を傾げた。

「マイスターミコトは覚えていらっしゃらないのですか?」

「うん」


 どういう反応が返ってくるか気になって、気がつくと目の前にキューブが浮いていたのだと、私が認識している「現状」を説明してやると。私の「お手伝い全般」がお仕事だというイサナは少し考え込むような素振りを見せてから、明晰夢補正込みでそれなりに納得のいく推理を披露してくれた。

「マイスターミコトはクリエイターツールの創作クリエイトにあたって、使用時の負荷軽減を目的として、脳内の異能に関する領域を『隔離』してご自身の意識下から『切り離す』とイメージされました。クリエイターツールの完成とともに、マイスターミコトの意識下から、異能とそれに関する知識や記憶までもが切り離されてしまったのでは?」

「なるほど」

 なんとなくありえそうだと思えた時点で、それ以上深く考えるのはやめにした。

 なんといっても、これは夢。イサナの言葉がどれほど理に適っているよう思えても、目が覚めてから冷静に考えてみたらそうでもなかったりするし、そもそも覚えていられるかどうかも怪しいのだから。


 夢は夢として楽しまなければ、損だ。

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