003 麗しの妖精さん
元が立方体なので、八つある角の一つから広がる、薄くて平たい板。
拡張されたキューブのタブレットのような面には、水に文字を浮かべたよう立体的なテキストが表示されていて。その下には、テキストボックスらしき「窪み」も確認できた。
「初期設定……名前とか?」
ベッドの上に座り直した私の正面に浮かぶキューブと、その角から生えたタブレット。
そこへ、ようよう立ち上がった黒髪赤目、翅つきの「Fairy-01」が並ぶ。
テキストボックスと思しき窪みに触れると、キューブの本体、タブレットが生えている箇所とは別の角から、テンキーレスのキーボードが空気を入れられ膨れ上がる風船のような風情でぷくりと生えてきた。
「んー……」
試しに押したキーの感触は、ぐんにゃりとしていそうな見かけに反してかっちりとしたメカニカル。
「フェアリィならシルフかメイヴが私的にはイチオシだけど……」
これといった意味もなく、手慰みにBackSpaceを連打しながら。何気なく部屋の中を見回していると、隅の方で床に積み上げられたコミックの背表紙が、ふと目に付いた。
「イサナ、は?」
キューブの隣に立つ「Fairy-01」はノーリアクション。
特にこだわりがないのだろうと判断して、キーボードから入力。Enterを叩くと、硝子玉のようだった瞳に――ぱちんっ、と――見違えるような生気が宿る。
[コミュニケーション・インターフェース『Fairy-01』の初期設定を完了しました]
タブレット面の表示が一新されて、数秒後。キューブから派生していたタブレット面とキーボードは穴の開いた風船が萎むよう、触れ合った角からキューブ本体へと吸い込まれていった。
そして。キューブを押しやるよう私の正面に立った「イサナ」が、スカートの裾を持ち上げ、いいとこのお嬢様もかくやと上品に腰を落としてみせる。
「おはようございます、マイスターミコト。イサナになんなりとご命令を」
(あっ、そういう感じ?)
意外とお堅い感じなのかと、身構えてしまった私の反応を見て。姿勢を正したイサナは、わかりやすく相好を崩すような笑い方をした。
「もっと馴れ馴れしく振る舞った方が、マイスターのお好みですか?」
生まれたての妖精に気を使われている。
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