002 REBOOT
意識的に動いて、思考することができる、夢。
明晰夢を見ているのであれば、よく分からないことの全ては「夢だから」で説明がつく。
奇妙なキューブが浮いているのは夢だから。
目が覚める前のことが思い出せないのも夢だから
鏡に映る「私」の姿がまるきり別人のそれなのも、夢だから。
「夢なら仕方ない」
そういうふうに割り切ってしまえば、すっと気が楽になる。
壁に寄りかかっていた体をずらし、背中からベッドへ倒れ込んで。私は不可思議アイテムであるところの「キューブ」を両手に挟み、頭上へ掲げた。
こういう時、言うべき科白は決まっている。
「アウェイク」
単純に過ぎようが、夢なんてそんなもの。
何より、これは私が見ている夢なのだから、私が「それでどうにかなる」と疑いの余地なく確信していれば、そういうふうになる。
信じるものは救われるのだという証明は、私が「魔法の呪文」を唱えて二秒と経たず、果たされた。
〈起動します――〉
ゲーム的な表現をすれば、コア付きのスライムを四角く固めたようなキューブから、なめらかな合成音声が発せられて。程なく、キューブの真っ赤な「コア」から、蝶が羽化するよう、背中に半透明の翅を生やした「妖精」としか形容しようのない少女が姿を現す。
こういう時のお約束といえば、金髪碧眼だろうに。キューブのコアから出てきてその妖精は黒髪赤目。雪のよう白い肌へ髪と同じ漆黒のドレスを纏い、キューブの中から、半濡れ状態でずるりと這い出してきた。
〈クリエイターツールの起動を確認。コミュニケーション・インターフェース、生成中。セルフチェックを開始……完了しました。コンディション・グリーン。クリエイターツールは全機能、正常に稼働中〉
宙に浮いているキューブから、ベッドの上へ。どしゃりと無様に落ちた妖精は、どう見ても、キューブ本体よりも質量がある。十五センチ角のキューブから出てきたというのに、その体長はお高めなドールほどもあって、私の趣味をわかりやすく反映していた。
(本物は高くて買えないけど夢ならタダ。しかも動く。控えめに言って最高かな?)
〈コミュニケーション・インターフェースの生成を完了しました。支援人格を起動します――〉
生まれたてで、まだ上手く動いていない手足を使ってもぞもぞと藻掻く妖精を手伝ってやろうとベッドの上に起き上がり、手を出せば、硝子玉のよう透明感のある赤目と視線が絡む。
「…………」
「うん?」
一度は開いた小さな口は、そのままはくりと空気を呑んだ。
「喋れないタイプの妖精さん?」
だとしたら、CVも満足に割り振れない私の貧弱な想像力の敗北だと、内心で落胆していると。まだ少しぎこちない動きで、当人が首を横へ振ってみせてくる。
長い黒髪がシーツの上をのたうった。
「性能的には話せるけど、今は理由があって話せない?」
これは肯定。
では、その理由とは?
疑問の答えは、妖精の小さな手指によって示された先。いつの間にかタブレットのよう薄く伸びて立方体ではなくなっている「キューブ」に、文字情報として書き出されていた。
[コミュニケーション・インターフェース『Fairy-01』の初期設定を完了してください]
「……なるほど?」
妖精の方にばかり目が行って、キューブの変化を見逃していた。
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