005 ガーディアン
「では、マイスターミコトは――」
「それ、もうちょっと短くならない?」
「……ミコトさま?」
「呼び捨てでもいいけど」
「ミコトさま」
変なところ頑固なイサナに、遮ってしまった話の続きを促す。
イサナは「こほんっ」と一つ咳払いをして、ベッドの上からふわりと浮き上がった。
ベッドの上で壁にもたれていた私は、イサナに手を引かれるがまま立ち上がる。
「これもクリエイターツールの
「ガーディアン?」
イサナに手を引かれ、連れて行かれた先は部屋の外。
玄関へと続く廊下の途中を折れた先。
几帳面というか、神経質なところがある私がそんなことをするはずないのに。何故か、電気がつきっぱなしの浴室前。
「ヒューマノイド・ペット、個体名を『アラヤ』。ミコトさまの心身をお守りするために
イサナの手で押し開けられた折り畳み戸の向こうには、出しっぱなしのシャワーに降られる、全裸の男が倒れていた。
「哀れが過ぎる……」
「強いて言うなら無様では? ミコトさまのお手を煩わせるなど、
夢の中のこととはいえ、
「再起動って、どうすればいいの?」
あとで喧嘩になったりしないだろうかと、ひやひやしながら尋ねる私に、振り返ったイサナはなんてことのないようさらりと告げた。
「ヒューマノイド・ペットの起動には、ユーザー認証も兼ねて粘膜接触が必要です」
風呂場でぶっ倒れてる全裸の男相手にべろちゅーしろと?
「は……」
あまりのショックにここで目が覚めてくれればよかったのに。心の中でたっぷり十ほど数えても、そんな気配は微塵もない。
「まじか」
目が覚めないのであれば、話を進める他なかった。
「まじか……」
のっそりと靴下を脱いで、浴室へと足を踏み入れる。
シャワーヘッドが一番高いフックにかかっているせいで、素でチビな私が流れっぱなしのシャワーを止めるには、一度濡れるしかなくて。頭からお湯をばしゃばしゃ被りながら倒れているアラヤを跨ぎ、浴槽へ手をついて、コックを捻る頃にはすっかり濡れ鼠。
「あー……」
着替えを用意してから入れば良かったと、思いついたところであとの祭りだった。
「イサナ、ごめん。何か着るものとってきてくれる? 寝間着にしてるロンTとかでいいから、適当に」
「わかりました。――イサナのことは気にせず、ごゆっくりどうぞ」
「えっ」
構造的に外から閉めるのは面倒な折り畳み戸をきっちり閉めてから立ち去られ、いやそういうことじゃないんだけど……と、頭を抱える。
(誤解だ)
単身者用アパートの尋常でなく狭い浴室でごゆっくりなどできはしないし、したいとも思わなかった。
体格的に成人男性と思しきアラヤが一人、洗い場へ倒れ込んでいるだけで足の踏み場もないというのに。
「……くしゅんっ」
じっとり濡れた服の冷たさに急かされるよう、ぐったりと意識のない男の体を跨いで、浴室の洗い場へなんとか膝をつく。
なんの力も入っていないせいで重い頭。べろちゅーするために上向けた容貌は、私の夢の産物らしく非の打ち所のないイケメンだった。
「…………」
ちょっとどころでなく悪いコトをしている気分になりながら、されるがままの男へ口付ける。
羞恥から目を背けるよう、瞼を伏せて。ぬるりと舌を差し入れた……途端、粘膜同士が触れ合ったかどうかの確信すら持てない段階で、なんの心構えも出来ていなかった体が、締め上げるような強さで濡れた男の腕に捕まる。
「んんっ」
伸び上がってきたアラヤの舌に口の中を弄られ、その淫らがましい動きに、現実でも百戦錬磨とはいかない体がぶるりと震えた。
「――何があった?」
断りもなく人の服を脱がしにかかりながら、真面目くさった声で話すのは止めて欲しい。
「新しい玩具を作って、意識と異能を切り離したら記憶もまとめて吹っ飛んだ。あなたのことも覚えてない。悲鳴上げて大騒ぎされたくなかったら、お尻撫で回すのやめてくれない?」
「思いつきで
「だから、覚えてないんだってば……っ」
アラヤ曰く、節穴らしい耳を強めに囓られて、びくんっ、と体が跳ねる。
そんな私の反応を揶揄うよう、アラヤは目を細めてシニカルに笑った。
「お前が俺を忘れても、体は覚えているようだな」
「さいってー」
「これくらい強引な方が好きだろ、お前」
濡れそぼったシャツを、言葉通りやや強引に脱がされて、遮るもののない素肌にキスを落とされる。
私の体を乗せたまま立ち上がる素振りをみせたアラヤはずり上がるようにして、浴槽の縁へと腰掛けた。
背中でぱつん、とホックを外されたブラジャーが、押しつけられた鼻先に押し上げられる。
「ほんとにするの……?」
アラヤの膝に乗せられた私と、私を膝に乗せたアラヤの間では、アラヤ自身のご立派なものがゆるゆると勃ち上がりかけていた。
「真面目な話、お前のメンタルケアも俺の仕事だからな」
「……つまり?」
「目を閉じて、楽にしてろ」
じきに何もわからなくしてやると、どうしようもなく熱を孕んだ色っぽい声のアラヤが囁いて。
実際、そのとおりになった。
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