009 晩御飯
「ご飯なにー?」
「そろそろ賞味期限のやばそうなパスタとソースのアソート」
「わぁい……」
リビングから寝室までの経路をそのまま逆に辿ることはせず、書斎から裏道めいた収納前の通路を抜けて、キッチン経由でリビングに戻ると。一足先に
「ユエはそっちな」
「――あい」
二人掛けの長椅子と一人掛けの椅子が、背もたれのあるものとないもの、それぞれ一つずつあって。最大で六人が一度に着けるダイニングテーブルには、並びで座った私とイヴ、テーブルの角を挟んで私の隣に座ったユエの他にもう一人、私とイヴの向かいに祢々切丸が座っていた。
「全部少しずつ味見するよな?」
「うん……」
私が席に着くなり、甲斐甲斐しく給仕をはじめたイヴを横目。これといった紹介もないまま、同じテーブルに着いている祢々切丸の様子をそれとなく窺うと。案の定と言うべきか、がっつりぶつかった視線の先で、思いのほか人懐っこく笑って見せた青年が、その肩口からひらひらと手を振ってくる。
「ユエもそうだけど……祢々切丸も、ご飯食べられるの……?」
ユエはもちろん、祢々切丸の前にも食事用の皿が用意されているのを見て取り、私が内緒話をするよう、形ばかりこっそり尋ねると。イヴは「まぁな」と言葉少なに答えながら、私の皿に続いて自分の皿にも、三種類のパスタを少しずつ取り分けていった。
私の目が節穴でなければ、ソースの種類はボンゴレと、カルボナーラにボロネーゼ。
テーブルの上には、他にもプライパンで焼いたような小振りの薄焼きピザとボウルいっぱいのサラダが並べられていて。私の右隣では、クッションでかさ上げされた椅子から手を伸ばしたユエが、手元の皿にいそいそとサラダを取り分けている真最中。
「いただきます……」
さすがにここまでくると、まるでおままごとのようだと思わなくもないけれど。この状況を作り出したのがイヴであるということは、つまるところこれが私の望みでもあるということだから。結局、気を抜けばはたと我に返りそうになる余計な思考に蓋をして。いつにない行儀の良さでしっかり手を合わせてから、上げ膳据え膳の食事に手をつけた。
「――ごちそうさまでした」
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