第2話野上進という男
―――嫁の刹那は、娘の千夏が1歳の時に亡くなった。交通事故で亡くなった。
彼女とは同期のマネージャーというベタな出会いだった。
今思えば初めから彼女は不思議な存在だった。
辛い時や悲しい時には、必ず隣にいた。そして俺の話を聞いて何も言わずにただ頷くだけだった。
そんな彼女が・・・そんな彼女だったから堪らなく愛おしく感じた。
(だから、千夏がいる。)
あの時、高校生のガキンチョカップルが無責任な行動とされ、お互いの両親に顔が腫れるまで殴られた。
お互い色々あったが高校生を無事卒業して、同居生活を始めた。
同居生活1年目は、生後間もない千夏、千夏
、千夏の1年だった。幸せな日々だった。
カラカラに乾いた夏に久しぶりに雨が降った、あの日。
スマートフォンの着信音が煩く部屋に響く。
「こちら、竹下病院ですがッ・・・。」
その後は、はっきり覚えていない。
ただ言えるのは、彼女との出会いから別れまでは本当に刹那のようだった―――。
「おーい!野上くん、この機材運んでくれたら一旦休憩にしていいから。」
「はい!分かりました。」
(やっと、休憩か。土木工事の仕事は給料はいいけど、夏は最悪だな。)
進は言われたものを運び、日陰のある所で鉄骨を椅子代わりにして一息ついた。
この現場の指揮をしている山下リーダーが「お疲れ様。」と、キンキンに冷えたコーラを差し出し横に座った。
「ありがとうございます。」この暑さにコーラは体に染みる。美味い。
「野上くん、明日から少し休みだったね。今年も嫁さんに会いに行くんだね。」
もう、50代なのにシャレた言い方をするハゲた筋肉質なオッサンは少し俯いている。
「迷惑かけて、すみません。戻ってきたらバリバリ働きますよ!」
俺は気丈に振舞った。
「待ってる!お前が戻って来るのを皆待ってる。」
リーダーの目と声には熱が篭っていた。
(たかが3日なのに、やけに深刻そうな顔だな。人手不足か?)
進はコーラを飲み干し、休憩を終えた。
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