第4話
詩衣那へのお参りを終えた遥太は、そのままタクシーを呼んでホテルに戻ろうかとも思ったが、先ほどの話にあった神社が気になり、コンビニで食料と飲み物、そして念の為軍手とゴミ袋を買うと、神社があるという山道を登っていく。
山自体の高さは下から見る限りは大した事はないと思っていたが、実際には時間と共に勾配がきつくなっていき、遥太の額からは汗が噴き出すと、次第に息も上がっていき、その足取りは重くなる一方で、嫌でも日頃の運動不足を思い知らされながら歩いていた。
「くそっ、なんで俺はこんな事してんだよ」
文句を言いながらも歩き続けて40分が経過したあたりで、朱塗りの鳥居が目に入り、遥太は思わずガッツポーズを取りながら近付く。
しかし鳥居は見るからに傷んでおり、人の手が行き届いている感じはなかったが、鳥居に掲出されている
遥太は鳥居の先に視線を移すが、その先は長い石段になっており、今立っている場所からは上の様子が分からない程の高さである。
「マジかよ」
遥太は思わず項垂れるが、ここまで来て引き返す事もしたくないと思い、今一度自分に気合を入れなおすと一歩を踏み出した。
それまで歩いていた道が舗装されていた分、この均等とは言えない石段は、身体にダメージを与えていくが、遥太は最早意地で足を動かしていく。
そして上り始めて15分が経過した頃に、ようやく石段を登りきると、思わずその場に座り込み息を整える。
「こりゃ、筋肉痛確定だな」
そう呟きつつ神社の様子を見回すと、一見立派な拝殿があるものの、山の頂上という限られたスペースの為か、全体的にはこぢんまりとしており、また四方が崖という事で転落防止用の防護柵で囲まれている事から殺風景に思えた。
しかしそれ以上に遥太の表情を曇らせたのは、その境内に散乱しているゴミであり、その荒れように思わずため息をつく。
「おいおい、いくら何でも神様に失礼だろ」
遥太は引き続き境内を散策すると、拝殿に比べ小さい本殿の傍には説明の札が立てられているが、やはり落石事故で落下した石が、元々の御神体であり、その石には神様が座していたという伝説があったらしい。
御神体が無くなってしまったものの、昔から稲荷も祀られてきたらしく、現在はその稲荷神がこの神社の主祭神とされていた。
一通り境内を見終えた遥太は用具入れを見つけ、そこから掃除道具を拝借する。
「本当になにやってんだよ。俺は」
そう言いながらコンビニで買ってきた軍手をはめると、まずは境内にあるゴミを拾って一箇所にまとめていき、それが終わると箒を使って境内を掃き、更に細かいゴミまで集めていった。
集まったゴミを袋に詰め終わる頃には15時を過ぎており、それに気がついた遥太は自身がまだ昼食を取っていない事を思い出すと、境内にある椅子に腰を掛け、コンビニの袋から弁当とお茶を取り出す。
そして改めて境内を見ると、散乱していたゴミが片付いたおかげで、遥太も誇らしげな気分で弁当の蓋を開け、笑顔でおかずを口に運んでいく。
「しかし、この神社も災難だよな。あんな事故がなければ、こうはならなかっただろうし、まあ、そうなると詩衣那も生きていたんだろうな」
そう呟くと、遥太は大して信心深くもない自分が、何故この神社に来たくなったのか理解する。
それは詩衣那が死んでから20年、この町に来なかった事への自責の念からであり、同時に彼女への手向けでもあった。
自己満足だと言われればそれまでだが、彼女の周りは事故により変わってしまっており、この荒れ果てた神社はその象徴にさえ思え、それにささやかな抵抗をしたかったのかも知れないと遥太は思っている。
そう思うと自然と涙が溢れそうになるが、上を見上げそれをこらえると、残りの弁当をかきこみお茶で流し込むと大きく息を吐いた。
遥太はしばらくその姿勢を保っていたが、不意に何者かの視線を感じ振り返ると、そこには白い動物が茂みの中から遥太の様子をうかがっている事に気が付く。
「狐?」
最初は驚いたものの、その狐の目はどこか弱弱しく遥太を見ており、遥太はコンビニ袋から余分に買っておいたおにぎりを取り出すと、包みをはがし、そっと狐の見える位置に置いた。
そして自分が出したゴミをゴミ袋に片付けると、そのゴミ袋の口を縛り、他のゴミ袋とともに肩に担ぎ境内を後にすべく、その場から歩き出した。
去り際に振り返ると、狐は遥太の置いたおにぎりを口にしており、遥太の視線に気づくとそのまま遥太を見つめる。
「また来ることがあれば、油揚げでも持って来てやるよ。じゃあ元気でな」
遥太が狐に右手を上げると、狐は遥太の姿が見えなくなるまでその姿を見送っていた。
遥太は満杯のゴミ袋4つを苦労しながら持って降りると、ゴミの処分法をコンビニで尋ねるが、先ほどのオーナー夫人とオーナーも遥太の行動に感心し、そのままゴミを引き取ってもらえる事になった。
神社をキレイにした事で気分が良くなった遥太が、改めて神社のある方向に目を向けると、改めて高い場所にあったと感じつつ、その視線を戻すが、その途中道路の中央に得体のしれない黒い影が見える。
「え?」
驚いた遥太は、慌ててその場所を再び見るが、車が走っているだけで、黒い影などは見えなかった為、何かの錯覚だろうと結論付けた。
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