2-20【先史の記憶 5:~コレジャナイ~】




『ヴィオ、左後方、一匹そっちに行った! エリクは前に集中してるから、お前の操作で仕留めろ』

『了解です!』


 俺の指示でヴィオが反応する。

 それに合わせて、見もせずに当てずっぽうに振り出されたエリクの”魔力の短剣”が、吸い込まれる様な動きで猿顔の四足獣の腹を裂いた。

 さらに同時に、エリク自身が前の2頭をヴィオ本体で仕留める。

 相変わらず剣身の動きが止まらぬ独特のスタイルだが、以前の様に嵐の如く全てを薙ぎ倒すような荒々しさはなく、最小の動き効率よく狩っていく。

 これならば、周囲への損害は憂慮しなくても大丈夫だろう。


『”鎧袖一触”とはこの事だな』


 その様子に俺が感想を漏らす。

 それ程苦戦する相手ではないものの、エリク達のそれは、あまりに圧倒的。

 四足獣達は己の能力を発揮する間もなく、一瞬で剣の錆になっていた(錆びないけど)

 しかも動く度に最適化され、俺達と手合わせしたときよりも鋭くなっている気がする。

 こりゃ俺達も、もう棒術だけで戦いを挑むには少々分が悪いかもしれない。


『よろいのそでに、ちょっと触るの?』


 先程の俺の呟きにモニカが聞いてくる。

 鎧袖一触は”日本語”の単語だが、どうも時々、俺の考えてる言葉の”意味”、というか部分的な”構成”がモニカに伝わるのだ。


『そう、ちょっと触れるくらいの気軽さで倒しちゃってる、って意味だ』

『へぇ』


 それでもこういう時は、モニカも”以前見た世界”の話と理解するので、興味深くも比較的どうでもいい感覚をよこしてくるだけで終わる。



 ”前期第一社会文明”の作った巨大な廊下へ出た俺達は、すぐにそこに入り込んでいた獣との戦闘に突入していた。

 この廊下、広くて気温や湿度が安定し、崩れたり小部屋が多いので隠れ場所には困らないと、野生動物にとっては中々居心地が良いらしい。

 多くはないが、それでも気の抜ける瞬間はないくらいには襲ってくるので、散発的に群れが生息しているのだろう。


 エサには事欠かないしな。


 俺はそう思いながら、足元を蠢く大量のネズミのような小動物へ注視した。

 モニカは全く気にしてないが、毛並みが悪いネズミというのは中々キツイ。

 偶に踏んづけるので尚キツイ。


 とはいえ、絶賛稼働試験中のエリク達の手に終えなさそうな奴等はいなかった。

 彼は、あえて少し離れて戦うことで、クレストール先生とアイリスに危害が及ばない様にする余裕もあるくらいだ。

 上手いもので、仮に後ろから接近されてもすぐにエリクの戦場が後ろに回る。

 この辺の距離感は、まだヴィオが制御不能だった頃に身に着けたのだろうな。


 一方の俺たちはといえば・・・


「ほう、こうして見ると、あの柱の第三節上部の意匠は第5区で見つかったものに似ているな、資料は持ってきてるか?」

「はい先生、ちょっと待って下さい・・・って!?」

「あ、アイリス、前行っちゃだめ」


 荷物を取り出すために、ロメオの前に回り込もうとしたアイリスを、モニカが慌ててフロウを伸ばして止める。

 まったく、前に出られてはロメオを前に置いている意味がないではないか。


 こんな風に俺達は、エリクとは少し離れた位置から様子を見守り、護衛対象の2人の安全・・・という名の抑え込みをしながら、周囲に気を配っていた。

 基本的にエリクはこちらの支援を必要とはしていないが、それでもいつでも支援できるように準備はしているし、客観的な指示は飛ばせる。

 まあ、”後衛”って奴だ。


 とはいえその仕事の大部分は、クレストール先生とアイリスを抑え込んでおくこと。

 事前の注意にあったとおり、2人共環境的に興奮しやすくてすばしっこいので言葉や手では足りず、いつしかフロウを細長く伸ばした”触手”で直接的に抑えていた。


「このフロウより前に出ないで」


 モニカがそう言いながら、フロウの触手でアイリスのお腹辺りを抑えて引きずり戻す。

 だが、それでも”歴史遺物”に魅せられたアイリスは、今度はなんとかロメオの反対側に手を伸ばし資料を取ろうと藻掻いていた。

 その様子があまりに必死で、見てるこっちが申し訳なくなってしまうほど、


「・・・これ?」


 たまらず、モニカがフロウの触手でロメオの背中の荷袋の中からそれっぽい資料束を取り出す。


「あ! うん、それ!」


 するとアイリスは目に見えて喜び、モニカが書類を渡すと「ありがとう」と言って、そこから出ないようにと囲ったフロウの触手に寄りかかるクレストール先生の方に駆け寄った。

 すぐに始まる、大討論会。

 すぐ目の前でエリクが獅子奮迅で戦っているのを完全に無視して、見上げるほど高い位置にある柱の装飾にライトを当てて、ああでもないこうでもないとクレストール先生とアイリスが興奮した様子で話し始めた。


 呑気なもんである。


 それでも最初の内は、この廊下への入口が高い位置にあったせいで高所恐怖症のアイリスが怖がっていたのと、いきなり野生動物に襲いかかられたせいで静かだった。


 だが、去年にかけられた移動用のはしごを伝って下に降り、エリクが一人で十二分に対処できることが分かりだすと、2人共急に安心しはじめ。

 いつしかエリクが片付けるまでの時間で道沿いの状況を再確認し始めたのだ。

 結果、索敵で気は抜けないものの手持ち無沙汰の俺達が、彼等の”お守り”を本格的にやる羽目になっていたワケである。


 派手に動き回るエリクに対して、なんとも間抜けな絵面だがこっちのほうが重要なので仕方ない。


「モニカ君、あれにもう少し近づきたいのだが」


 クレストール先生がそう言いながら、俺達のフロウの触手を掴んで押す。


「も、もうちょっとまって、もうすぐ終わるから・・・」


 モニカが冷や汗をかきながらそう答え、周囲を確認しながら、エリクの方に向き直る。

 すると、ちょうど最後の一頭を真っ二つに斬り終え、残りがいないかと周囲を見渡す彼の様子が見えた。


「ええっと・・・いいですよ」

「よし!」


 クレストール先生は景気良くそう言うと、身を屈めフロウの触手の下を潜り、件の柱のそばに駆け寄った。

 アイリスと俺達がそれに続く。

 今は獣の気配はないが、年季が入った場所なので崩落の危険があるので、彼等だけ行かせるわけにはいかない。


「ふう・・・」 

『幼年部のお守りを思い出すな』


 俺は高等技術持ちの教師への特典稼ぎでよく引き受ける、アクリラの子供の引率の事を思い出していた。

 今のクレストール先生とアイリスは、凝縮された元気と魔力の塊であるアクリラのちびっこ達並みに活発で、行動が突然だった。

 だが、モニカはすぐにそれを否定する。


『ううん、こっちのほうが全然きつい・・・あの子達なら力ずくで止められるけど、クレストール先生は”先生”だし、アイリスも”アイリス”だから』

『あー、たしかに。 それに普段冷静だから、余計手に負えないよな』


 今は完全に子供なクレストール先生も”アクリラの教師”だ。

 モニカのような駆け出し冒険者が御し切るには、些か権威も経験も多すぎる。

 たぶん、一応彼なりに注意はしてるんだろうけど、それが全然わからないのが困る。

 正直、前線で気楽に暴れた方が楽かもしれない。


 そうこうしていると、切り刻んだ獣の死体をヴィオの開けた”次元収納”に放り込んで”処理”をし終えたエリクが、困ったような顔でこちらに駆けてきた。

 せっかく”露払い”を担当しているのに、違う方向にいかれては意味がない。

 すぐに先生とアイリスの前に回り込むと、2人の前を走って周囲の安全を確保する。

 気は楽といったが、当然ながら”前衛”は”前衛”で大変だ。


 俺達は”殿しんがり”なので基本的に後ろから眺めるだけでいいが、前衛は走り回るのが仕事。

 まあ、エリクの強化ユニットの試験になるから良いけれど。


『低出力モードの調子はどうだ?』


 というわけで俺はヴィオに確認する。


 現在エリクはハスカールの出力を制限し、装甲機能や支援機能を一部省略した状態の稼働試験を行っていた。

 ヘルメットはそのままだが、それ以外はこの前までのエリクとそれほど変わらない装備でしかない。

 なんでこんな事をしているかといえば、強化装備のフルパワーは明らかに過剰だし、魔力元である吸魔器の魔力をすぐに使い切ってしまうし、吸魔器自体への負荷もすごいので、俺達の近くでしか稼働できない。

 だからより”実戦的”なことを考えれば、できるだけ低燃費な形態を模索しなければいけないのだ。

 

『ええ、これでもまだ運動能力は80%以上を維持してます。 燃費は約30%ですね。 私とエリクの慣熟が進んでいるので、攻撃力だけなら朝お父様達と手合わせしたときと殆ど変わってません』

『そうか、思ったよりも落ちないんだな』


 それ自体は良いことだ。

 それ自体は・・・


 問題は、70%の消費を削っても攻撃力が20%も下がらないということは、逆説的にまだまだ無駄が多いことが証明されてしまったというわけで・・・


『どうします? まだ削れますよ?』

『うーーーーーーん・・・・・・いや、今のところはそれで行こう。

 30%なら立ち回り次第じゃ、溜め込んでる分とエリクの魔力の補給で1時間は戦えるだろうし、防御を大きく減らしてるからこれ以上は実戦ではこわい』

『わかりました』


 全力稼働すればすぐに魔力切れになるが、モニカが常に30m以内にいる現在、ハスカールの魔力の枯渇の心配はない。

 なので、今回はとりあえずこれで様子を見よう。


 今はそれよりも、二人の子供 ・・・・・のお守りが先決だ。

 特に上の子・・・がこわい。

 ”巨大廊下”の床は数千年の歴史があるだけあって、色んなもので埋まったり逆に穴が空いていたり、というかそもそもこの床のようなものは堆積物っぽいので、気をつけないと簡単に足を取られる。

 まあ、アイリスは一応戦闘系の授業に顔を出しているし、クレストール先生だって身のこなしは危なげないので大丈夫だろうが。


「・・・いつもこんな調子なの?」


 モニカが遺物を前にクレストール先生とはしゃいでいるアイリスにそれとなく尋ねる。

 すると、彼女はちょっとだけ我に返ったのか、気恥ずかしそうに答えた。


「ううん、そんな事ないよ。 去年初めて参加したときとか、別のところに行ったときなんかは、私も先生も護衛の人と一緒に戦って大変だったから。

 でも今日はエリクくんがとっても強いし、モニカちゃんがいるから」

「あー・・・」


 なるほど、周りを見渡す余裕があると・・・


 まあ、たしかに命がけで駆け抜けるのが精一杯だったところで、周りを見渡す余裕ができて、なおかつそこが自分の興味の対象だったりしたら目も移るはな・・・

 もし、ここがカシウスのゴーレム工場だったりしたなら、モニカはきっと大群を前にしても・・・いや多分それを片付けてから、じっくり見て回ったに違いない。


 とはいえ、ここはまだ”目的の場所”ではないわけで・・・


「クレストール先生、片付きました。 行きますよ」


 するとエリクが手慣れた様子でクレストール先生の肩を叩きそう告げた。

 柱に彫られた女神像に釘付けだったクレストール先生がそれで振り返り、「そうだった!」と我に返って、エリクの方に体を向ける。

 どうやら、今日ここに来ている理由を思い出してくれたらしい。


「ありがとう・・・慣れてるね」


 すれ違いざまに、モニカがエリクに声をかける。

 それに対し、エリクはなんでもないように答えた。


「護衛の依頼は何度か経験あるから」


 そう言って涼しい顔を決めるエリクは、中々に頼もしい少年の風格を漂わせている。

 きっと俺の精神がただの12歳乙女だったら惚れていたかもしれない。


 ただ残念ながら、俺は”男”だしヴィオから上がってくるバイタルデータで彼が絶賛”カッコつけ”に必死な事を知ってしまっていたので、全く心惹かれなかった。

 どうやらエリクは、モニカこそオマケ程度だが、アイリスはそれなりに意識しているようで、女子2人を前に良い格好を見せようと気合が入っているのだろう。

 とはいえ、アイリスはそれよりも周囲に夢中だし、モニカだって”花より仕事”でそれどころではない。

 なので俺は、”オトコノコの心”で、寛大に見守ることにした。


 ところでアイリスの話なら、クレストール先生もそれなりに戦えることになるが。

 どんな感じなのだろうか?

 モニカいわく”戦闘向きではない”とのことだし、俺の測定でも特に戦闘に有利そうな反応は観測できなかった。

 まあ、クレストール先生は座学向けの先生なので、本当に護身レベルのものだろうけれど。

 それでも一応緊急時には戦力になるか。


 考えを改めた俺は、アイリスの戦闘能力とクレストール先生の推定能力を加味した緊急用の戦闘フォーメーションを作定し、内容をヴィオと共有した。

 多分使うことはないだろうしアテにもしてないが、”転ばぬ先の杖”である。



 それからもエリクを先頭に、結構な距離を進む俺達。

 巨大廊下は、瓦礫で塞がったりして視界を遮る障害物や通りにくくなっている場所は多いが、特に問題は起きなかった。

 懸念されている脅威にしても、現れるのは先程と同じ猿顔の四足獣ばかりで脅威にならない。

 せいぜい足元のネズミが時折齧りついてくる程度か、これも全員厚いブーツを履いてるので問題にはならない。

 心の中では若干、”魔物”とかを期待してたんだけど、今の所俺のスキルにもヴィオのスキルにも反応はなかった。

 まあ、脅威が弱い分には良いだろう。


 俺は、アイリスの足を駆け上がり、不逞にも彼女の丈の短めのズボンの隙間から入り込もうとしたネズミを、モニカが引っ掴んで投げるのをそんな気持ちで見守った。


 行程中では1㌔毎にエリクが左手を掲げ、IMUから短い波長の魔力波を飛ばして周囲を探る。

 それだけ聞くとレーダーみたいで格好良いが、その仕組みは初等部でやってる”魔法基礎”の本に出てくるやつの丸パクリ。

 そうでもないとIインスタントM・マジックU・ユニットの小さな処理能力で発動することはできないので仕方ないが、丸パクリなので正直見ていて恥ずかしい。

 ただどうもヴィオにはその辺の感覚が全く無いらしく、俺の中に残ってるヴィオの”端末”が、嬉々としてライブラリの中からIMUのスロットに入る魔法を抜き出しては本体に送りつけている様子が報告されていた。

 まあ、初等部向けの本に書いてあるくらいだから、信頼性は抜群なんだけど。


 何度目かの索敵の時、その先が崩落していて観測しづらかったので、エリクは観測魔法から続けて光源魔法を放って先の様子を確認した。

 魔力傾向が抜かれて純粋な光を放つ魔法が、暗がりを白く塗りつぶしながら進んでいく幻想的な光景に俺は、やっぱりビジュアルで得してる魔道具だなと思わずにはいられない。


 するといつの間にか、クレストール先生の視線が変わっている事に気がついた。

 今はめぼしい脅威が無いおかげで柱ではなくIMUに向けて唸り、気づけば殆どエリクのすぐ後ろに迫っているではないか。

 唐突に背後に迫られたエリクがすごい表情で驚いていた。


「・・・面白い魔道具を使っておるな、それで魔法をつかった様に見えるが、”杖”とも仕組みが異なるし・・・どこで手に入れた?」


 そう言いながらズイと顔を寄せるクレストール先生。

 ゴブリン系の血の影響か、わずかにギョロリと飛び出た目が、ものすごい圧力でエリクを射抜く。

 エリクが怖がっているのはヴィオに聞くまでもなく表情を見れば明らかだ。


「・・・あ、あの、モニカが作ってくれました」


 エリクがなんとかそう答える。

 だが、それがいけなかった。


「ほう、君が!」

「ヒッ!?」


 唐突に首が回転するように後ろを向いたことで、モニカが軽く悲鳴を上げてその視線から飛び退いた。

 そんな事をしても逃げられるわけでもないのに。

 クレストール先生はその興味に満ちた瞳を今度は俺達の方に向け、追い詰めるようににじり寄ってきた。


「君が作ったということは、あれは、ゴーレム関連の魔道具の一種か?」

「えっと、半分そうで・・・半分違います」

「見た所、基礎魔法が複数使えるようだが、何種類くらい使えるんだ?」

「えっと・・・・・『今ん所、72』・・・72種類です」


 モニカが正直にそう答える。

 俺としては没にした”失敗作”なので、あまり興味を持たれると恥ずかしいのだが・・・


「なんと70以上も!? ならば私も是非欲しいな、量産する予定はないのか? 基礎魔法があれだけ安定して使えるなら、高度な魔法士であってもそれなりに需要があると思うが」


 どうやらIMUはそのインスタントな構造とは裏腹に、クレストール先生の興味を射止めたようだ。

 まあ、見た目はかっこいいからな・・・

 とはいえ、


『無理だって言え、IMUは”ヴィオ”のシステムがあるから動いてるんだ、”ユニバーサルシステム”でも現状じゃ使えない』


 元々、俺が使うことを想定していただけあって、IMUはその名とは裏腹に、使用者側に俺と互換性のある強力なスキルシステムを要求する。

 ヴィオの根幹となる”フロウゴーレム”が量産できない以上、それに付随するIMUもまた、量産の目処は立っていなかった。


 モニカが量産の目処が立っていない事を伝えると、クレストール先生は残念そうに息を吐いた。


「そうか・・・ならば、量産の目処がたった暁にはぜひ、私かアイリスに教えてくれ。 君もほしいだろアイリス?」

「え、わたしですか?」


 急に話を向けられたアイリスが、キョトンとして首をひねる。


「他に誰がいる? 君もあの魔道具があったら便利だと思わないか?」


 クレストール先生はそう言って教え子に同意を求める。

 ただ、アイリスの反応は些か淡白なものだった。


「私はそこまで・・・基礎魔法なら大抵使えるので・・・」


 あ、そうだった。

 この地味な少女は、全色の軽い混合なので高度な魔法は殆ど全滅だが、逆に基礎魔法レベルならば破格の対応力を持っている。

 それに器用な子だし、ある意味でIMUの想定ユーザーから最も遠い存在かもしれなかった。


「あ、でも、かっこいいと思うよ!」


 何を思ったのか、変な気を利かせたアイリスがそう言ってフォローする。

 どうやら、モニカの気に触ったのではないかと心配らしい。

 俺達、そんな子じゃないのにね。


 ただ・・・”かっこいい”か。

 その評価に俺は少しだけ気を良くしていた。


 それにしても、クレストール先生の反応は思ったよりも良かったので、これはIMUだけでも稼働できる魔道具を開発してみても良いかもしれない。

 それに量産化の目処が立つなら、そのままウチ・・の産業にでも・・・・


『ねえ、ロン』

『ん? どしたモニカ?』


 不意にかけられた言葉に俺が聞き返す。

 すると、予想外の言葉が返ってきた。


『ロン、わたしもあれほしい』

『は!? 何言ってんだ!?』


 想定外の内容に、俺は思わず叫ぶように聞き返してしまった。

 だが、モニカは気にしない。


『あれほしい』

『IMUが?』

『うん、あの”シュバッ”ってやるやつ、手合わせの時にも思ったけど、やっぱりほしい』


 この子は何を言ってるんだか・・・


『いや、俺達はIMUなくても同じことできるからな?』


 そもそも、俺達にはこんな物不必要だから没になったわけで。


『ほら、これでいいだろ?』


 それを分からせるために、俺はあえてIMUでは使えない少し高度なタイプの魔力光源魔法を組成し、それを放ってみせる。

 すると俺達の頭上の丁度いい高度に、眩しくないが暗くもない明るさの光源が出現し、周囲をほのかに照らした。


『どうだ、見ろ、この細やかな配慮、場所に応じた適切な組成、これはIMUじゃできないぞ』


 俺はそう言うと、自慢気に仮想胸を張った。


『・・・』


 だがモニカの反応は鈍い。


『・・・どうした?』

『コレジャナイ』 


 ・・・ワガママ言わないで。

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