2-18【不思議な先生 1:~不思議な浮島~】



「あれ? 今日休みじゃなかったっけ?」


 週末の前の日、地球で言うところの”金曜日”に当たる日の朝。

 俺達はいつものように授業へ向かう準備をしていると、先に準備を終えていたルシエラからそんな言葉をかけられた。


「あれ? 言ってなかった?」


 モニカが準備のついでとばかりにベスの髪を梳かしながらそう答える。

 その後ろでは俺が魔力溜まりを使ってモニカの髪を梳いていた。

 するとルシエラは何かを思い出そうと悩むように頭を抱えこむ。


 2年に上がってからというもの、俺達にとって週末の前の日は授業のない日だった。

 元々この日は戦闘関連の授業が組まれていたのだが、それをキャンセルしているためにポッカリと隙間が空いていたのだ。

 なのでこの日は、新たな授業を探したり、”実家”の商売の話をして回ったり、その辺で見つけた喫茶店でお茶したりと、自由な活動の日として使っていた。

 だが、ずっとそうなわけなはずもなく。


「今日から、新しい授業を入れたんだ」


 俺がそう答えを言うと、ルシエラが合点がいったように大きく頷いて手を叩いた。


「あ! 思い出した! そんなこと言ってたわね」

「ルシエラ姉さま・・・昨日の夜に言ってましたよ?」


 ルシエラの言葉にベスが若干呆れ気味にツッコミを入れる。

 するとルシエラは困ったように苦笑いを浮かべながら、頭を掻いた。


「いやぁ、ごめんごめん・・・えっと、それで何の授業だったっけ?」


 そして誤魔化すようにそう聞いてくる。

 だがその様子に、モニカは不審そうにベスの髪に入れていた櫛をとめて俺に聞いてきた。


『ルシエラ、だいじょうぶかな?』


 どうやら、俺達の”今日の授業”の特殊性を忘れてしまっていることに驚きのようだ。


『まあ、ちょっと疲れてるんだろう』


 最近はなんか、新たな”校長先生からの依頼”とやらで神経が参ってるようだし、彼女の活動についても何やら大変らしいので疲れているのだろう。

 俺がそんな意図を込めて返事を返すと、モニカは一拍間を置いてから答えた。


「オリバー先生の、”概念魔法”の授業」

「あれ? モニカって”そっち”方面も取るんだっけ?」

わたし・・・じゃなくて・・・」


 なおも寝ぼけているらしいルシエラに対し、モニカが”これで分かれ”とばかりに自分の後頭部に手を当てる。

 それを見た瞬間、ルシエラが今度こそすべてを思い出したと言わんばかりに、「ああ!!」と大きな声を上げた。


「そうか今日からか! ロン・・の授業」


 どうやら思い出してくれたか。

 俺はその事に少しホッとする。

 一瞬、本気で忘れてたんじゃないかと疑ってしまっていた。

 だが、それでもモニカとベスはなんとも言えないジト目でルシエラを見つめている。

 どうやら2人にとっては、”結構アウト”なレベルらしい。


 そんな2人の視線を受けてかルシエラが話題をそらすように話を進める。


「えっと・・・それでどんな先生なの?」


 なんとも破れかぶれな問いだが、すると俺達はどう答えようかと悩み込んでしまった。


「それが、よく分からないんだ」


 俺が困ったようにそう答える。


「あれ、調べなかったの?」

「公式の教師名簿には名前が載ってない。 だが一部の授業概要には名前が記載されてるのは見た。

 スリード先生曰く”アクリラで最高齢”って話だけど、過去の記録にも出てこないんだ。 表向きの資料だけだけど」

「でも、教室に行くくらいは出来たんじゃないの?」


「それが・・・」


 モニカはそう言うと困ったようにルシエラを見返した。




※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※




 指定された時間通りに寮を出た俺達は、通学通勤ラッシュに沸く大通りを横目に、朝の街をあてもなく彷徨い歩いていた。

 普段は入らない路地に入ってみたり、行きつけのお店でウィンドウショッピングと洒落込んだり、時々飛んでくるヴィオの”おねだり”を処理したり。

 休日だった筈の先週までと比べても、なかなかに緩やかな朝となっているのではないか?


 普段なら、中央に向かうか、それとも郊外に向かうかはさておいて、とりあえず何処かに向かうためにロメオの背にまたがって、最近であれば空へと舞い上がっていたところ。

 近場に行くにしても、目的地までダラダラと向かう道理はないので、それなりにハッキリとした動きになる。

 決して、今の俺達のような”のんびり感”は出ないだろう。

 少なくとも、いつもの俺達にはない。


 だが今日はそういうわけにもいかないのだ。


「進んでいれば・・・勝手につく」


 モニカが、今朝方ルシエラ達に伝えた、スコット先生の伝言を口ずさむ。

 それを聞いた時、ルシエラたちと同様に思わず”どういうことやねん!?”とツッコんでしまったが、スコット先生もよく分かってないらしいので、聞いても答えは返ってこなかった。


 どうやらオリバー先生というのは、相当存在感がないらしい。

 情報どころか、誰に聞いても何処で何をしているのかすら伝わってこないのだ。

 よほど人見知りの強い人なのか、それともアクリラが本気で隠したらここまで分かりづらいということか。

 アラン先生が霞むくらいの高齢という事だが、どうやってその存在を隠し続けてきたのか謎だけど。


 とにかく今の俺達はスコット先生の言葉を信じてあてもなく歩くしかない。

 一応、どこに行っても良いようにロメオは連れてきているが、後ろで「今日飛ばないの!? 今日飛ばないの!?」とヒョコヒョコしながらのんびり付いてきている。


『でも、どういう”しくみ”なのかな?』

『さあ、”概念魔法”でも使ってんじゃないの?』


 モニカの疑問に俺がそっけなくそう答える。

 実際、概念魔法のすごい先生という話なのだから、概念魔法で何かしててもおかしくはない。


『でも、歩いていれば勝手につくなんて、概念魔法で作れるの?』

『まあ、確かに”呪術系”って感じだよな』


 呪術系の魔法は完全に門外漢だが、精神に働きかけるのが得意な魔法のため、相手の行動を誘導したりするのが得意というのは、俺も漠然とした知識として持っていた。

 というか普通に考えて、使うならこれだろう。


『でも、そんな兆候はないからな・・・』


 俺のデータを見る限り、俺達の脳内に不審な魔力アクセスの傾向は見られない。

 呪術系魔法にかかれば、かかっている最中でもエラーログが出てくるのでなんとなく分かるのだが、それすらないということは、少なくとも現時点で魔力的操作は行われてないだろう。


「うーん・・・」


 俺の答えを聞いてモニカが唸る。

 ・・・いや、それとも今見ている、”ラフォリエ・マエヌロ”のサイン入りマフラーの値段を見て唸ったのか。

 まったく・・・


 まあ、どうせ教えてもらわないと分からない系なので、モニカみたくドーンと構えているしかないのかもしれない。


 しっかし、平和な朝だなー

 俺は後部視界に映る街並みをボケーっと眺めながらそんな感想を持った。

 朝ラッシュが一段落した街は、本格稼働直前の独特の静けさに包まれて平穏だった。


 モニカが近所で評判の肉の燻製専門店で、一番人気の燻製のスライスを購入する。

 普段なら1時間待ちが当たり前のこの店も、今ならわりとすぐに買える。

 あとはそれを朝食でテイクアウトしていたパンで挟めば即席のサンドイッチの完成だ。

 これ一度やってみたかったんだよな俺達。

 早速モニカが歩きながら囓りつくと、芳醇な燻製風味が口いっぱいに広がる。


 うん、平和だ。


 というか、そろそろ授業の時間だけどいいのか?

 それとも”意地悪”しすぎたか。

 実は、”勝手に着く”という言葉を信じて、というかどこまでのものか気になって、寮の周りから殆ど動いていなかった。


 せめて中央区の方まで出るべきだったかもしれない。

 いや、流石にそれが常識だろう・・・

 どうしよう、こういうのも遅刻にカウントされるのか?


 いやいや、向こうが悪いに決まってる。

 ”進んでいれば、勝手に着く”だぞ!?

 それ信じて、郊外に向かってたらどうするんだ!


 いやいやいや、そこはせめてもの常識をだな。

 ひょっとすると、いつもの通学コースの途中なのかもしれないじゃないか。

 あれは暗にそれを伝えるための言葉で、俺達はそれを勝手に”魔法的にスッゴーイ仕組み”と勘違いしただけとか。


 いやいやいやいや、それならそうと・・・


『・・・ねえ、ロン』


 思っちゃうでしょ!

 数千年以上生きてる概念魔法の先生なんだから、なにかとんでもない仕掛けがあるんだって!


『・・・ねえってば』

『なに!? どうしたの!?』


 モニカの呼びかける声に俺が反応する。


 よく見ればモニカは、サンドイッチを囓りながら何やら上空を見上げていた。

 ちょうど真上には、直径100m程の岩の塊が空中に浮いていた。

 それは通常なら激しく違和感のある光景だが、ここはアクリラ。


『あの浮島がどうした?』


 俺がなんでもないようにそう聞く。


 不思議ではあるが、浮島はアクリラの名物。

 しかも視線の先にあるのは、一応大きい方だが、”6大浮島”に比べれば木っ端もいいところの小さなもの。

 これくらいのサイズなら、適当に空を見上げても4,5個は目に入るだろう。

 気にすることは無い。


 だが、モニカはその浮島をじっと眺めたまま。


『ねえロン、あそこ行きたくない?』


 モニカがなんとも言えない感覚を滲ませながら、俺にそう言ってくる。


『どうした?』

『うーん、なんか引っ張られるっていうか』


 確認するようにモニカが首を捻る。

 すると、まるで唇の端を釣り針で引っ張られるような感覚がモニカから伝わってきた。

 その感覚の、”とってつけた感”ときたら・・・


『なるほどね・・・』


 俺が呆れた様にそう呟く。


『あそこだよね?』

『だろうな』


 これで違ったらビックリだ。

 だが想像以上になんというか・・・

 もうちょっとミステリアスにできなかったのだろうか。


 行き先の決まった俺達は、空を飛ぶ為にとりあえずロメオの背中に飛び乗ると、そのまま慣れた動作で”ワイバーン”を展開した。

 状況が掴めていないロメオが、”え!? 飛ぶの!? 気まぐれ過ぎない!?”といった表情でこちらを振り返るが、背中を軽く叩くとヤレヤレといった感じに地面を蹴った。



 その浮島は、他の浮島と比べても結構高い位置に鎮座していた。

 既に雲の大半は下に見え、空気も薄くなり始めている。

 ざっと高度5000m弱。


『あまり、長居したくないな』

『”こうざんびょう”だっけ?』

『ああ、流石に死にはしないが、この高度ならその症状が出てもおかしくはない』


 一応、”ワイバーン”には高高度装備は付いてるし、俺が無理やり色々すれば平気な酸素濃度だが、それでも気にはなる。


『まだ引っ張られるか?』

『うん』


 しかたない。


 俺達はその浮島と同じ高度に達すると、ゆっくりとその周りを一周した。

 下から見ると小さく見えたこの浮島も、ここまで近づくと結構な大きさに見える。

 そりゃ腐っても100m四方の立体だからな。


 だが一周回っても、唯の”浮いてる岩”以上の事は分からなかった。

 人工的な要素は殆どない。

 上部の方に、管理番号と、危険のため立入禁止という警告が書かれた小さなプレートがあるだけ。

 予想以上に何もなかった。


『どうする?』

『そりゃ、降りるしかないだろ・・・』

『でも”立入禁止”だよ?』

『まだ引っ張られてるんだろ? じゃあ、どうしようもないじゃないか』

『うーん』


 モニカがそう言って、若干消極的な呻き声を上げながら、ワイバーンの体を寄せていく。

 どうやら上部には、僅かばかりの芝生があるようだ。

 そのあまりにもささやかな芝生を踏みたくなくて、わざわざ端の方の岩場に着地する。


『踏んだ感じ、しっかりしてるね』

『少なくとも俺達が、乗った程度で落ちるってことはないだろうな』


 ロメオの足の感覚から、俺達はそう結論づける。

 ここで落ちたら厄介だからな。

 100mサイズなので大きく感じるが、揚力が足りてない場合、砂袋を置いただけで落下することもある。

 そういった事故も、年に数回あるので侮れないのだ。

 だが、この浮島は俺達が乗った程度で落ちるどころか、高度がそれほど変わった様子もない。

 高い位置にあることからしても、これを浮かせている魔力要素には余裕があるのだろう。


 そうやって安全を確保した俺達はロメオの背中から滑り降り、辺りの様子を恐る恐る探り始める。


 だが、流石にこの上を走り回るほどモニカも豪気じゃない。

 ゆっくりと歩きながら浮島の様子を見ていく。


 だが軽く探った感じは、見た感じと大差なく。

 つまるところなにもない、ただの浮いているだけの岩という印象を裏付けるだけのものだった。

 なにか人工物があるということもなく・・・


『どうしようっか?』


 モニカが降りたところとは逆の縁で下を眺めながら、困ったように聞いてくる。

 反対側では、興味なさそうなロメオが浮島に生えた芝生を食んでいた。

 なんとも平和である。


 本当にこんなところにオリバー先生はいるのだろうか?


『まあ、とりあえず、この浮島を調べるしか無いだろうけれど・・・』


 とはいえ、もう既に【透視】含めて取れる観測方法は全て発動済みである。

 そしてその結果はどれも、この浮島が完全に岩の塊であることを示していた。

 ただただ、とっても、とーっても硬い岩の塊。


『本当に詰まってるね・・・』

『ああ、この浮島見た目以上に重いな。 ほとんど重金属並みの密度じゃないか?

 そりゃ俺達が乗った程度で落ちねえわな』


 となると、この浮島は他と比べても”異質度”自体は高いのか。


 ”それだけ”だけど。


 やっぱり、ここがオリバー先生の研究室と考えるのは無理がある。

 高度な隠蔽技術とかとも思ったが、こうまで複数種類の検測に反応がないと、その可能性もない。

 わずかに掘削痕のようなものはあるが、おそらく以前に行われた調査とかの物だろう。

 その時に設置したと思われる魔道具が内部に幾つかあるが、大それた感じもないし、空間の類も完全になかった。


『しゃーない。 ”場所わかんないんすけど?” って校長にでも言うしかないな』


 結局それしか無い。

 ”進んでいれば、勝手に着く”ってのが、そもそも土台無理な話だったんだ。

 いや、きっと俺の何らかの作用が、その仕組を阻害したに違いない。

 普段から呪術耐性や、精神攻撃耐性をスキル的に付与しているから、普通の子と違ってこういう仕組みに鈍感なのだろう。

 だから、こんな見当違いな場所に案内される。


 だが、だとすれば、もうここにいる用はない。


『取り合えず降りよう』


 俺はそう言うと、”ワイバーン”のシステムの準備を始める。


 だが、モニカは動かなかった。


『あれ? どうした?』


 モニカは何かに引っ張られるように、浮島の中心部をじっと見つめていた。 

 そこにいたロメオも何かに反応するように、周囲を見渡している。

 依然として検測スキルに反応はない。

 ロメオとモニカだけが反応しているということは、”野生の勘”か。


 ”危機”といっても良いかもしれない。



『ロン・・・何か ・・いる』


 モニカはそう言うと、眉間に皺を寄せて次元収納から棒を取り出して構えた。


『薄い・・・・・だけど、鋭い”殺気”を感じる』


 おぅ。


『モニカがそう言うってことは、無視はできないな』


 俺もそう応えると、目の前のコンソールを”汎用”から”戦闘モード”に切り替える。

 だが、切り替えたところで、俺は”異変”に気がついた。


『まずい・・・コンソールの幾つかがエラーで固まってる』

『どういうこと?』

『すでに、俺達は”相手”の掌の中ってことだ・・・』


 俺は苦々しげにそう言った。

 エラーログを調べてみると、何らかの接続不良が見られる。

 だがその広範囲ぶりから言って、考えられるのは一つ。


『環境魔法で、この浮島の環境が操作されてる』


 俺がそう言うと、モニカがサッと腰を落として周囲を睨んだ。


 発動しているのは、かなり強力な魔法。

 それもかなり広範囲を巻き込むようなもの。

 普通のことではない。

 となれば相手は、必然的にかなり高度な魔法士といえるだろう。

 

 すると続いて、周囲の様子が急に暗くなる。


『!?』

『・・・』

「キュルル!?」


 まるで電球のスイッチを切ったかのような急な変化だ。

 そしてそれに驚いたロメオが慌ててこちらに駆け寄ってきた。


 それは数少ない良い情報である。

 俺達は敵の出方を窺うためにこの場に釘付けだったからな、リスキーだったが結果的にロメオの方から近づいてきたことで、戦力はかなり増大した。


 だが、相手は一向に姿を見せない。


 完全に夜の風景になった浮島からは、周囲の景色も見えなくなっていた。


 何が来るのかわからないが、”何か”は来る。

 モニカの感情は、その結論を力強く訴えかけていた。

 


 その時、俺達の耳に何やら唸り声のようなものが聞こえてきた。


 慌てて振り向くと、さっきまで・・・いや振り向くまで後方視界にも写り込んでいなかった人影が現れたではないか。

 それを見た瞬間、モニカとロメオが弾かれたように後ろに飛び退き、その額に冷や汗を浮かべる。

 続いて認識の遅れた俺が、その姿を見て盛大に肝を冷やした。



 それは悍ましいまでにボロボロの姿をした、ゾンビの様な魔法士の姿だったのだ。


『な!? な!? な!?』


 俺が呂律の回らない声で悲鳴を上げ、モニカが視線をグッと鋭く尖らせる。

 棒を構えるその姿勢には、先程まではなかった熱い”敵意”が滲んでいた。


 だが”そいつ”は、その様子を虚ろな眼孔の向こうから見下ろし、その姿に俺に刻み込まれていた恐怖が湧き出した。


『ロン・・・こいつ・・・おぼえてる?』


 モニカが唸るように俺に聞く。


『ああ・・・忘れるわけねえだろ・・・だけど』


 だけどなんで・・・


『なんで”こいつ”が、ここにいるんだ・・・!?』



 その姿は、かつての面影がないほどにボロボロに腐敗し、髪はどす黒くよごれ、魔法士服は見る影もない程破れている。

 だがそれでも、その姿は忘れようがない。


 どこかルーベンに似た雰囲気に、特徴的な血のような赤い髪、ハッキリと魔力を感じさせる緑に光る眼。

 様々なアクセサリーをぶら下げた魔法士服の胸元では、ボロボロになりながらも金色の”エリートバッジ”が輝いている。

 その存在感は、かつて俺達を殺しかけた時と比べても目減りするどころか、遥かに大きく感じられた。


「・・・モニカ・・・シリバ・・・」


 そいつが唸り、その迫力に俺達はまた一歩後ずさる。


 なんでこいつがいるのか分からないが・・・



 マグヌスの調査官、かつてカミルの家で、思考同調した俺達に消し飛ばされた筈の”ランベルト・アオハ”が確かにそこにいた。

 

「・・・あなた・・・なに・・?」


 モニカがゆっくりとにじり寄りながら、挑むように問う。

 するとランベルトから、せせら笑うようなノイズが聞こえてきた。


「私は・・・私こそが・・・最古の”概念”」


 ランベルトが口をめいいっぱいまで広げて笑みを作る。


「私は・・・”死”だ」

 

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