2-17【剣の声 9:~ヴィオ~】



 俺の視界いっぱいに広がる黒い影。

 だが、只のデータの塊であるはずのその姿は、どこで覚えたのか”モニカ”の姿をしていた。



『なんだこりゃ!?』


 俺が悲鳴の様にそう叫びながら、必死に”世界の壁”に体を貼り付ける。

 そんな事をしても抜けられないのだが、本能だから仕方ない。

 ”そいつ”はもはや、”怪獣”を飛び越して”神話の巨人”の粋に達するかと思うほどの存在感だったのだ。

 俺との大きさの比較など、さっとすぐには出来ない程に。

 そしてそんな差でありながら、相手は確かにこちらを凝視してくると来ている。


 ”雲”の時はまだハッキリ見えた複雑な構造も、ここまで来ると皮膚の凹凸にしか見えなかった。

 いったいどれだけの魔力回路をその内側に溜め込んでいるのか・・・

 そりゃこんな物を複製しようとしても失敗するだろう。

 俺が持ってる”マニュアルのゴーレム機械”じゃ、確実にサポート範囲外のシステムサイズだ。


『ロン、なんでその子、わたしの姿してるの!?』


 モニカがショックを受けたような声を出す。


『安心しろ、その可能性 ・・・・・はない。

 こいつはただ単に姿を真似てるだけだ。

 それもよく見りゃ上辺 ・・だけな』


 そっくりなのは”外観”だけで、”細かいところ”はかなり適当だ。

 足の先は未完成だし、目は片方しか動いてなかった。

 

 写真だけ見て造形した様に作り込みが甘い。

 問題はどこからその”写真”を得たかだが・・・


『こりゃ、まずいかもな・・・』


 その可能性に、俺が心の中で舌打ちしながらその場を飛び退くと、細い毛のようなものが体から引きちぎれるのが見えた。

 そしてその”毛”は細く伸びながら空間を回り込み、”モニカもどき”の背中に繋がっている。

 背中から生えている毛は一本ではない。

 よく見れば背中の表面が裂けて、そこから無数の長い細い毛がそこら中に伸びているではないか。

 おそらく糸状に伸びた立体魔力回路と思われるその毛は、あまりに量が多すぎて密度の濃い部分が繋がって見え、天使か悪魔の”羽”のように見える。


『どういうこと?』

『こいつ、俺を食べた ・・・んだよ』

『え!?』


 正確には”食べる”という表現は適切かどうかはわからない、別に俺のデータが失われている訳ではないからな。

 だが、向こうは明らかにこちらのデータを複製して内側に取り込んでいた。

 その結果がこの姿モニカの姿だろう。


 この”データの化け物”め。

 そういう仕組 ・・・・・・なのかもしれないが、こいつはもはや単なる”システム”の領域を超越した存在だ。


 俺はいつの間にか周囲に漂っていた極細の毛を避けながら、”そいつ”から見て後ろ向きに逃げることにした。

 だがそう簡単に逃亡できるわけもなく。


 突然、俺の頭上で巨体が動いたかと思えば、そのまま倒れ込むようにこちらに伸し掛かってきたのだ。

 やっぱり”見た目だけ”か、関節の実装が出鱈目だ。

 腕は肘じゃないところから曲がり、顔が不安定に変形している。

 それに削り出しの人形のように動きがぎこちなく歪だが、それでも元々がでかいだけあって速度はかなりのものだ。

 

『というか、完全に俺を狙ってやがる!』


 数少ない”見た目だけでない”と思われる”目”が、ギョロギョロと俺の姿を追いかけながら迫ってくる。

 その恐怖ったるや。


 ”毛”の束の一つが俺を掠めた。

 その時、俺は己の中に何かが入ってくるような感覚を感じる。

 ログを見れば正体不明の支離滅裂なプログラムが、俺のデータを閲覧している様子が見て取れた。

 すると続いて、”そいつ”の表面が急速に蠢いて未完成だった足が伸び、関節などが適切な場所に移動し始めたではないか。

 閲覧していたのは・・・


『どうする? リセットをかける?』


 モニカが切羽詰まったような声で聞いてくる。

 見れば横ではメリダが真剣な面持ちでコンソール調整魔法陣に手をかけていた。

 だが俺は、あえてそれを無視する。


『だめだ! ”こいつ”が消えちまう』


 今の俺はあくまで”端末”、どうなっても問題はない。

 だが”こいつ”は違う。


『こんな高度に変容したプログラムを消しちまったら、一生後悔するぞ』


 俺はそう言うと、動く向きを反転させて”そいつ”の方へと進行方向を変えた。

 すぐ横を極太の”毛”の束が何本も通過する。


『モニカ、頼みがある』

『なに!?』

『エリクに頼んでくれ、”中身改造していいか”って』


 俺がそう言うと、モニカが戸惑った様子で俺の言葉をエリクに伝えた。

 当然、エリクは驚きとさらなる戸惑いの表情を見せて、どういうことかと聞いてきた。


『こいつは想像以上に柔軟性が高い。

 もう既に俺のデータを見て・・取り込んでる。

 この姿は、俺が持ってるモニカの”身体情報データ”を丸写しして反映しているだけだ』


 その俺の言葉をモニカが伝える。

 先程の一合でその証拠は取れていた。


 ”そいつ”を見上げる。

 それは先程と比べてもより細かく ・・・・・モニカに似通っていた。

 肌の色とかが黒いままなのは、何らかの制約か、それともまだ互換性のある”色ライブラリ”までは持っていないのか。


 このシステムは俺に侵入すると、そこら中のプログラムを手当たりしだいに自分に取り込んでいた。

 当然、一番先に取り始めたのは、俺の持っている中で最大のデータであるモニカの”身体情報”。

 これがあまりに容量が巨大すぎて取り込むのに時間がかかり、結果的に他のシステムが複製されるのを防いでいたようだ。

 最初からモニカの姿をしていたのは、おそらく既に僅かにデータを吸収していた”あの雲”を取り込んだからじゃなかろうか?


『だったらそれを利用して、この機に使いやすい形に”改造”しておきたい』


 その俺の言葉をモニカが伝えると、エリクが”そんな事をして大丈夫なのか?”と聞いてきた。

 その問いに対し、俺は内心で冷や汗をかきながらニヤリと笑う。


『わかんねえ』


 エリクが”え?”っと虚を突かれた様な声を出すのが見えた。


『ハッキリとは約束できねえ。 なにせ初めてだからな。

 元の機能を失う可能性も”ない”とは言い切れない』


 するとその言葉に対し、エリクが憤慨しモニカに迫ってくる。

 モニカからも俺の真意を問うような感情が流れ込んできた。

 だがそうは言っても仕方がない。


『悪いと思ってるが、”想定外”なんだ。

 隔離した複製環境にだけ干渉するまでは良かったが、まさかそこから剣の方に飛ばされるなんて思ってなかったんだよ。

 というか、こうなった時点でもう俺は取り込まれているようなもんだ。

 今はただ”消化”を待ってるだけだな。

 どのみち、もうこいつは俺のデータの影響を受ける。

 だが、今ならその方向性を少しでも有用な方向に設定できるかもしれない』


 俺がそう説明すると、その言葉をモニカが必死にゆっくりとエリクに伝えていく。

 だが早くしてほしい。


 その間も、俺は必死に”そいつの触手”を躱し続けていた。

 うん、触手だな。

 学習能力が高いのか、それとも俺のデータを食って変わったのか。

 フワフワで速度の遅い”毛”だった魔力回路の糸は、いつの間にか寄り集まって素早く複雑に動くハッキリとした触手に変貌していた。

 今はまだ、相手が出来立ての体に慣れていないせいか間一髪で避けられているが、捕まるのも時間の問題だろう。


 ようやくモニカの説明が終わると、エリクが少し悩むように剣の方を見た。


「もう、変えるしかないんだな?」


 エリクが確認するようにそう聞いてきた。

 それに対し俺は皮肉交じりに答える。


『”改良”だ』


 俺のその言葉をモニカがエリクに伝えると、エリクは俺達とメリダの姿を交互に見てから、若干悔しそうに頷いた。


 いやー、本当に申し訳ない。

 俺は心の中でそう謝罪する。


『とはいえ、もう遅いんだけどね・・・・』


 俺はそう言うと、疲れたように上を見上げた。

 だが体は動かない、捕まってしまったのだ。


 俺は、端末に何本もぶっ刺さる触手に固定されてピクリとも動けなかった。

 もう既にその触手からプログラムを侵入させて俺のデータを吸い上げ始めている。


 とはいえ、俺も考えなしに逃げ回っていたわけではない。

 その間中、せっせと”改造用”のプログラムを組んでいたのだ。

 エリクから許可も出たことだし、心置きなく始められる。


 俺は”それ”を取り出すと、逆に押し付けるように触手のプログラムにコピーさせた。

 その瞬間、視界を覆う”モニカもどき”の巨体がビクリと震える。


『そんな原始的で細い回線じゃ、俺は食えねえぜ。

 もっと”便利なもの”を使おうや』


 俺はそう言いながら、そのプログラムを”起動状態”でそいつに押し込んだ。

 その強烈なデータの嵐に、そいつが巨体をくねらせて悶える。

 

 そして俺は、その反応と流れ込んできたログから、プログラムが上手くインストールされたことを確認した。




 俺が送りつけたのは、名付けて【通信Lv1】というスキル形式で書かれたプログラム。

 通信用のシステムとプロトコルを混ぜたものに、変換プログラムと基本ライブラリをセットにしたものだ。


 今、このモニカの姿をしたシステムの中では、俺の送った通信をシステムが変換し、その度に基本ライブラリの中にあった情報が反応して炸裂しているはずである。

 ただそれだけの事なのだが、驚いたことに柔軟性のあるシステムはすぐに己が既に持っていた”ライブラリ”と俺が注入した”基本ライブラリ”を結び始め、通信内容を理解し始めた。

 通信に使う基本概念を優先させたとはいえ、さすがフロウカシウスゴーレムの最高傑作

 ちょっと引くくらいすごいシステムだな。


 こいつが今まで使ってきた不安定な魔法陣式ではなく、変更不可のスキル式にしたのは、確実な通信を確保するため。

 だが、増設を前提に組んであるのでアップデートは容易である。

 もう既に”Lv.4”までアップデートされ、より大量のデータをそいつの中に送り始めていた。


 今やっているのは、より複雑な通信を通すための機能の追加だ。

 つまり・・・


『それじゃ、話そう ・・・ぜ』 


 俺は自分の中に新たに開いた回線にその言葉を送る。

 すると”そいつ”が動きを止め、今しがた自分の中で響いた”声”を確認するように目を泳がせた。

 初めて聞く”言葉”と、それを理解できる事に戸惑った形か。


『・・・・何? ・・・”声” ・・・・不安 ・・・何』


 ”そいつ”が拙い言葉で、思考に結びついた単語を並べる。

 まだ文法までは完成してないようだが、随分と感情的な単語を並べるじゃないか。


『・・・言葉・・・なぜ・・・なに・・・お前・・・わたし・・・』

『とりあえず落ち着こう』


 俺はそう言うと、目の前に迫っていた触手を跳ね除けてズイと近寄る。

 するとそいつは、それまでの巨大な人形のような反応ではなく、まるで生まれたばかりの子鹿のように震えながら後ずさり、周囲をキョロキョロと見回しながら俺との距離を開けた。

 先程までは猛禽のように鋭く噛み付いてきた触手の勢いは完全にない。


『・・・あなた、何?』


 ”そいつ”が表情を疑わしげに歪めながら聞いてきた。

 その様子に俺が感心する。


『おう・・・もう単語を繋げられるようになったか。 ”表情”のデータも取り込んでいるようだし、凄まじい学習能力だな』


 いかにこの場所が、”そういう場所”とはいえ、いざちゃんとそのように機能しているのを見ると驚嘆せざるを得ない。


『大丈夫そう?』


 モニカが聞いてくる。

 よく見れば、他のメンバーもメリダが投影する俺の視界映像に釘付けになっていた。


『ああ、ようやくおはなし ・・・・に応じてくれるようになってくれたからな。

 ここから先は、簡単な取引・・・』

『あなたは何なの!!!』


 俺の返答に被せるように”そいつ”が怒鳴る。

 どうやら自分の疑問をスルーした俺が気に食わないらしい。

 想像以上に感情がしっかりしているな。


 そして俺は、10段階に小分けにした【通信】が無事に全てアップデートを終えて、打ち込んだ”ライブラリ”が程よく馴染んでいるところを確認した

 これならば本格的な”会話”を始めても問題ないだろう。

 そのことにホッと一息つく。


『俺は君の”敵”じゃない』

『”敵”って何!』


 おっと、まだそこまでライブラリが馴染んでないか。

 いやというよりも”常識”がまだ足りないか。


『えっと、君を壊したり、消したりしたりはしないよ』


 俺は相手を刺激しないように努めて冷静に言葉を選んで語りかけた。

 だが、相手は俺の言葉を聞くたびに体を跳ねさせて怯えた反応した。


『それは嘘! お前、異物!』

『あー、異物っちゃあ、異物だけど、悪いやつじゃないよ』


 そう言いながら、俺は少しだけ距離を詰める。

 するとまるで警告するように、目の前を高速で触手が横切った。

 よほど焦っていたのか、動きが早すぎて先端が消し飛んでいる程の速度だ。


『再び問う! お前、何!』


 そいつがまた聞いてくる。

 さて、どうしようか・・・


 するとその時、俺の中に映像が流れ込んできた。

 【通信】の機能を使ったらしい。


 そこには相手から見たと思われる”俺”の姿が写っている。

 だがそれだけではなかった。

 俺の向こうに・・・なにか巨大な。


 この巨大な”剣の意思”を遥かに凌ぐほどの・・・いや、この空間そのものを遥かに凌ぐほどの巨大な”存在”が写り込んでいたのだ。

 これは・・・俺の本体か?


 相手は俺の通信網からその先に繋がっているモニカの中のシステム空間を見ているようだ。

 そりゃ、人の脳だからな。

 こんな狭いシステムとはスケールが違う。


 だが問うてるのは、そういうことでもないような。

 その時俺は、”剣の意思”が抱える”疑念”に気がついた。

 それは俺達の存在自体が気になるらしい。

 というよりも、これは”モニカのデータ”かな?


 どうやらこいつがモニカの姿を取ったのは、こいつの中にモニカに強く反応する要素があるからのようだ。

 それが気になって取り込もうとしていたらしい。


 あ、そうか!

 てっきり俺は相手が聞いているのが、”敵か味方か”といった”立場”に関するものだとばかり思っていたが、よく考えるとまだそこまで複雑な思考ができているとは考えづらい。

 なので単純に答えることにした。


『俺は”ロン”。 モニカのスキル”フランチェスカ”を管理するインテリジェントスキルだ。

 理解できるか?』


 俺はそう言って簡単に自己紹介する。

 すると”そいつ”は眉間にシワを寄せて考え込むように顔を顰めた。

 どうやら俺の言葉を理解するのに時間がかかっているようだ。

 元にしていることもあってか、そんな顔をすると本当にモニカそっくりだな。

 

『問う! ”ロン”と”モニカ”は固有名詞!?』

『そうだ。 ”モニカ”は俺の本体が入ってる人間を指す単語だ』


 その質問に俺はできるだけ簡潔に答える。


『問う! ”インテリジェントスキル”は”一般名詞”!?』

『そうだ。 俺の”存在”を指す単語だ。 そしてお前のな』

『わたしの・・存在も指す?』


 俺の返答にそいつの表情が更に怪訝に歪む。


『ああ、お前は喋れる ・・・し。 俺と会話でやり取りできる”スキルシステム”だろ?』


 俺はそう答える。

 厳密には全然違うが、そういう風に認識してもらうのが都合がいいし、後々そうなる ・・・・・・ので問題はない。


『私は・・・”インテリジェントスキル”・・・あなたも同じ・・・』

『ああ、そうだ。 俺達は”同じ存在”だ。 いや、”同じ存在”になれる ・・・

 

 俺がそう言うと、そいつは戸惑うように俺の向こうを見た。

 正確には、俺に繋がる本体の存在を。


『だが、まずその前に”君”を教えてほしい』


 俺はそう問い返す。


『私は・・・固有名詞はない。 ただ、処理をするだけ・・・』

『なんの処理?』


 俺がそう聞くと、”剣の意思”が困ったように目を泳がせてから、また【通信】で何かを送りつけてきた。

 だが、その膨大な量のデータに俺が一瞬面食らう。


 それは俺が打ち込んだ通信プロトコルに変換される前の、”生”のデータの塊だったのだ。


『”それ”を処理する』


 ”剣の意思”がそう語る。


『ちょっと待ってくれ、今読み解くから』


 俺はそう言うと、自分の持ってる解読スキルにデータを渡して結果を待つ。

 表層の意識だけで解くのは不可能なレベルの複雑さだったのだ。


 幸いにもその間、”剣の意思”はじっとこちらを見つめたままで待ってくれた。

 だがそれは単純な反応というよりも、”知性”に近く感じられるではないか?

 


 渡されたデータの中から出てきたのは、意外にも”感情”めいたものだった。

 それも複数の異なる形式の・・・


 これは”不安”? それと”希望”?

 そんな感情が渦巻きながら、魔法の残滓に絡みついている。

 だが異なる形式のためか変換しきれないようで、試しにそれを処理してみると何やらゴミの様な回路の切れ端が飛び出した。

 綿のようなその回路は、元のデータに絡みついてすぐにその一部になる。

 なるほど、これがこの”剣の意思”の素か。


 ”希望”が何なのかはすぐに分かった。

 何度も何度も継続的に補給されているフシがあるからな。

 これはエリクの持ってる”剣士”に対する”憧れ”が魔力回路となって蓄積したものだろう。

 ということは、このデータの形式がエリクの”思考形式”なのか。 


 だがもう一つの”不安”は別の形式で記録されていた。

 よく似ているが、別の形式。

 しかもこちらは強く染み付いている代わりに、長い間追記された様子がない。

 だがそれ故に、”剣の意思”のベースになっているようだが、それを読み解くと意外なものと形式が一致した。



 俺達の”思考形式”である。


 ということは・・・・


 俺の中で、この剣の正体とそのメカニズムが音を立てて組み上がっていた。

 なるほど、これがさっき向けられた”興味”の正体か。


『私は・・・”何”?』


 ”剣の意思”が問う。

 俺の様子から、こちらの合点がいったことを察したらしい。


『短く伝えることはできない・・・だが、端的に説明するなら・・・

 2つの意識の間で生じた、”齟齬そご”だろうな』

『齟齬?』


『お前の下地になっているのは、俺・・・いや俺とモニカの抱えていた”不安”だ』


 ”剣の意思”の根底にあったもの・・・

 それはなんと、このフロウゴーレムを手放した時に俺達が抱えていた、”不安”の感情だったのだ。


 俺の中であの時の、あの恐怖と不安の綱渡りの感情が蘇ってくる。


 この”剣”を手放したとき、俺達は”ゴーレム軍団”に襲われ一寸先は闇の恐怖を味わっていた。

 それは今思い出しても身が竦むものだ。

 フロウゴーレム自身もその身にダメージを負い、俺達が持っていけた方などは半分以上を失っている。


 結果的に、その不安は俺達だけすぐに解消されたわけだが、切り離されたこのフロウの中の”不安”は消えることなく残り続け、その感情のあまりの強さに内包していた魔法の記録に強く結びついていた。

 真っ暗な、どこにも発散する事のできない不安が、ただひたすら棒状のフロウゴーレムの中で渦巻いていたのだ。


『そこにエリクの感情が流れ込んだ』


 偶々・・・本当に偶然に・・・いや、もしかすると皆そんなものなのかもしれないが、”思考形式”の似ていたエリクの感情はその不安に驚くほどすんなりとアクセスすることが出来た。

 つまり”フロウゴーレム”は最初、エリクを俺達と誤認したわけだな。


 だがいくら似ているといっても、完全に同じではない。

 当然ながら、エリクの流し込んだ様々な”感情”はそのままでは処理することはできなかった。

 だが”フロウゴーレム”はそこで止まる機械ではない。


『この空間を形作っている”フロウゴーレム”は本来、”思考する機械”を目指して作られたものだ』


 決して、”棒”や”剣”として相手に叩きつけるためのものではない。

 俺達の想像のつかないような高度なゴーレムの中枢部として、いくつも作られた”思考専用ゴーレム”が、その正体なのだ。


 つまり俺達は”配線”で殴ってたどころか、”脳みそ”で殴ってたわけだな・・・


『そしてそれ故に、エラーを自己解決する機能を持っている』


 その機能が、わずかに嵌りきらないエリクの感情を、手を変え品を変え動くように己を改造し続けたのだ。

 結果として、このフロウゴーレムの中で俺達の”不安”と、エリクの”希望”は”剣”という姿を取ることでかなり密接に絡み合うことになる。

 それは単に思考形式が近しかっただけではなく、俺達の残した”魔法魔獣狩りの巨刀”と、エリクの望んだ”剣士英雄”の組み合わせが良かったことも大きく手伝った。

 

『だが、そうは言っても違う形式。

 常に変換の必要があるし、そのたびに切れ端の回路が溜まっていく。

 だが、その”切れ端”を取り込んで固めたものが、君の原型になったんだ』


 俺はそう言うと、”剣の意思”は無言で己の手を見つめた。

 その形はつい今しがた手に入れたものとはいえ、構成する回路は蓄積されていたものだ。

 その量に達するまでに、どれほどの回数エリクはこの剣を振るったのか。


 そりゃ複製できんわな。


 いや、もしかすると”複製”はできていたのかもしれない。

 だが、中核データだけで、その大部分を占める”切れ端のデータ”までは複製できなかったのだろう。


『これは推測だが、エリクは君を使うたびにどんどん馴染んでいったんじゃないか?』

『・・・わからない。 ・・・でも、たしかに、データが流れ込んで来る度に、より複雑な処理ができるようになっていった』


 ”剣の意思”がそう言って手をギュッと握りしめる。

 するとそこに、周囲の魔力回路が寄り集まって”剣”の姿が現れる。



『教えて・・・モニカにもう”不安”はないの?』


 ”剣の意思”がポツリと呟くようにそう聞いてきた。

 それに対し、俺はまっすぐに答える。


『ああ、あれからすぐに消えた』


 俺はそう言うとずっと”剣の意思”の顔を覆っていた緊張がフッと晴れ、その体から怯えの色が消える。


『よかった・・・これで心置きなく、データ希望を処理できる』


 ”剣の意思”はそう言うと、ゆっくりと己の顔に触れた。


『このデータ感情をくれたのが・・・”エリク”。

 そして・・・このシステム衝動を作ったのが、”モニカ”』


 ”剣の意思”がそう言って、己の”素材”の名を口にし、その意味を内に刻みつける。

 それはずっと探していた物をようやく見つけたような、そんな純粋で尊い光景だった。


 そんな状態なので俺はそっとしてやりたかったが、いつまでも待っているわけにはいかないので話を進める。


『そして、ここからが”提案”だ』

『・・・なに?』


 俺の言葉に、”剣の意思”が弾かれたようにこちらを見る。

 その視線に、思わず面食らいそうになった。

 そこには先程までの無機物的な反応ではなく、明らかに”知性”を感じさせる輝きがあったからだ。


『エリクを支える気はないか?』


 俺はそう聞くと、”剣の意思”の表情が再び怪訝になる。


『もう支えている。

 固有名詞:”エリク”がデータ 希望の”発信元”だとするならば、そのように機能しているはず』


 まだ言葉にそれほど感情を込めることはできないが、それでもその言葉からは、”何を言っているのか?”といった感情が見て取れた。

 だが俺は、あえて(仮想の)首を振る


『”もっと”だ。

 もっとより良い形で、もっと多くの形で』

『もっと?』

『ああ、言っただろう? 君はインテリジェントスキルになれるってな。

 そうなれば、今より遥かに多くのことが、遥かに強力にできるようになる』


 それはまるで悪魔の誘惑のように、迫るものだった。

 我ながら、随分と悪そうな声が出るものである。

 だがそれでも、相手に真意は伝わったらしい。


『わかった。

 私は”インテリジェントスキル”になる』


 驚いたことに、”剣の意思”は迷うことなくそう言い切ったのだ。

 その、あまりにものあっけらかんとした返答に、逆に俺が驚いてしまう。


『え!? いいの!?』


 てっきり、最初は断られたり、もう少し説明を求められたりするもんだと思っていただけに、いきなりの”OK”に俺はそんな素っ頓狂な声を上げてしまった。


『いい。

 ロンにもらった”思考”で当てはめるなら、今の私は”エリク”を補助する。

 それだけが”存在意義”のはず。

 それを効率的にできるのなら、やった方がいい』

『あ・・・・』


 なるほど、どうやらまだ”騙される”ということを学習していないらしい。

 いつの間にか驚くほど会話が成り立っているので忘れていたが、つい数分前は思考すらできない存在だったことを思い出した。


 まあ、いいや。


 そんな無垢な存在に付け入るようなのは心苦しいが、俺の言ってることに間違いはないし、騙す気もないので良いだろう。


『それじゃ、君を”インテリジェントスキル”にするための、データを渡すよ』


 俺はそう言うと、”剣の意思”に繋がっている回線を本体の方に直接つないだ。

 これから送るデータは端末からでは大きすぎて扱えない。

 それにこの”端末”も、もう少ししか・・・・・・使えないしな。


 俺は本体のデータストレージの中から、”ユニバーサルシステム”と書かれた巨大データを抜き出して、それを”剣の意思”に送信するための処理を始める。

 だがそれは、すぐにエラーで止まってしまった。


『あれ?』


 どういうことだろうか?

 データの最初の部分の送信が、いつまで経っても始まらないのだ。

 エラーの内容的に、受け取り側の問題のようだが・・・

 おっかしいなー。


『あれ、ひょっとして【通信】に受け取り方のシステム入れ忘れちゃった?』


 俺はおっかなびっくり、なにか虚空を見つめている”剣の意思”に向かってそう聞いてみる。

 だが、すぐにそうではないことが判明した。


『・・・”名前”がいる』

『・・・へ?』

『受け取り側の・・・私の名前が通信に必要。 だけど私には”固有名詞”がない。

 なんでこんな形式に?』


 あ、そういうこと・・・

 どうやら、”フランチェスカ系”スキル特有の仕様に引っかかったらしい。

 内部処理に名前がいるからな。

 こいつの場合、主処理は”エリク”の名前で行けるが、内部処理には別の名前が必要だ。

 元来のフランチェスカはそこまで厳格ではないが、その辺も変えちゃってるし、”ユニバーサルシステム”は、今の俺のデータをコピーして作ってるので仕方ない。 


 とはいえこれも問題にはならないのだけれど。


『君の名前ならあるぞ』


『私の名前があるの?』


 俺の返答に、”剣の意思”が不思議そうに首をひねる。

 幸いにも、こいつにはおあつらえ向きの名前がもう用意されている。


『ああ、これから君は・・・”ヴィオ”と名乗れ』


 俺がそう言った瞬間だった。


 突如、”剣の意思 ヴィオ”の体が黒く光り、データとは思えないほどの魔力反応を見せる。

 と、同時に回線の中を大量のデータが一気に流れ始めた。


『ものすごい量のデータ・・・処理しきれない』


 ヴィオが、驚嘆したようにそう言うと同時に、僅かな不安がその周りを取り巻き始めた。

 あまりに処理量が増えて、システムが追いつかないのだ。

 無理もない。

 本来ただの”ゴミの塊”であるヴィオは、そのままでは処理に追いつけなかった。

 

 だが、だからこそ、それを変換し切るだけの”受け皿”が必要になる。

 それはシステムの骨格となる、新たな”フレーム”と言っても良いかもしれない。

 当然、その構造はカシウスを持ってしても作りきれるかどうか怪しいレベルなわけで。

 そんなもの、今の俺達に作れるわけもない。


 だがそれで問題はない。

 なにせ、もうすでに”ある”のだから。


『安心しろヴィオ。 ”俺”を飲み込め』


 自分自身の最終調整を終えたところで、俺は藪から棒にヴィオに向かってそう言った。

 その言葉にヴィオが瞠目する。


『良いの? あなた消える』

『俺は消えねえよ。

 これはただの”端末”だ、本体は別のところにある。

 だが、これでも必要な機能は一揃いあるからな。

 どうせ元々、消すしかない物なんだ。 有効活用してくれ』

『・・・わかった』


 ヴィオはわずかに葛藤を見せながらもそう答えると、俺に向かって近づき、その体をゆっくりと倒す。


 俺の端末の体がヴィオのデータに触れた瞬間、予め用意されていたプログラムがヴィオのシステムの中に一斉に解き放たれ、取り込んだ俺の体を分解しながらその構造をヴィオの中に再構成し始めた。

 それに伴って、ゆっくりと俺の意識が薄らぎ、本体の意識へと戻っていく。


 ヴィオに溶けた俺の構造は問題なく機能しているようだ。


 その洗練された構造で”ユニバーサルシステム”の強大なシステムを受け取り、新たに組み上げていく。



『ああ・・・これが・・・』


 そしてヴィオのその言葉が聞こえた瞬間。

 俺の意識は完全にヴィオと同化し、彼女の中でフレームワークとして固定された。

 そしてその枠を伝い、情報が”きれいな形”に並べ替えられていく。


 ただのデータの塊だった全身が、より洗練された繋がりと機能を持つものに置き換えられ、フロウゴーレム本体の外側の機能に繋がる。

 そしてその姿は段々と小さく高密度になりながら、やがてシステム内のインテリジェントスキルの中核へと発展した。


 灰のように降り積もっていただけの肌は、黒いままながらも瑞々しい輝きを放ち、不完全だった部分が繊細に造形され。

 その上からI/Oプログラムによって形作られた衣を纏い、羽のように広がっていた伝達回路がより広範囲に根を張り、ヴィオの中核と剣の外を繫ぐ。


 それは、まだ見ぬヴィオの機能を受け入れるための強力な管理システムとして再誕した、新たな”剣の意思”の姿だった。


 そして”ユニバーサルシステム”の送信が完了し、全ての機能が問題なく組み上がったことを確認した端末の俺は、最後の指示を残して完全に消えたのだ。



『スキルID:US0001 ユニバーサルシステム:”ヴィオ” 起動せよ・・・


・・・


・・




ー  端末との通信を終了しました  ー




 端末からのデータがなくなると、今度はその回線を通してヴィオから初期起動に関する大量のデータが送られてきた。

 その反応に俺達は慌ただしくなる。


「手に持って」


 俺の指示でモニカがエリクにそう伝えると、エリクは心配そうな目で俺達を確認してから、そこに迷いがない事を確認すると一思いに剣の柄を握った。


 その瞬間、エリクの剣が黒く輝き、その光が辺りを照らす。



『システムの移管は正常に完了。

 動作に問題はありません』


 ”ヴィオ”の意思が俺にそう報告する。

 どうやら向こうは問題なく動いているようだ。


『よし。

 少しの間はこれまで通り剣の中に居てもらうが、すぐに拡張ユニットを準備してやる。

 その時まで、エリクのデータの収集をよろしくな』


 俺はそう言って、以前エリクに埋め込んだ医療用検測器のパスを渡す。

 すると”ヴィオ”は問題なくそれを展開し、同期を始めたことを示すデータを送ってよこした。


 するとエリクも”何か”を感じ取ったのだろう。

 配線を外さない様に慎重に剣を持ち上げると、その光る剣身を魅入るように見つめている。

 光り輝く剣の姿は予想以上に幻想的だな。


 うーむ、せっかくの”娘”の門出だ。

 どうせならちょっとばかし”演出”を入れてやるか。

 そう思った俺は、とりあえず適当に持っていたフロウを引っ張り出し、それで感覚器を作ると、”使い方ドライバ”と一緒にヴィオに操作権を渡す。

 するとヴィオは即座にその意図を読み取り、己の”声”をスピーカーに繋いだ。


「『”ユニバーサルシステム:ヴィオ” 正常に起動しました。 個体名”エリク” パスNo.P0001と関連付けます。

 始めましてエリク。

 これから私はあなたの”インテリジェントスキル”として、この剣の中からサポートします』」


 そしてヴィオがそう”名乗り”を行うと、エリクの目が点になったまま宙を泳ぎ、助けを求めるようにモニカを見た。


「えっと・・・この剣が喋ったの?」


 その問いに対しモニカがドヤ顔で頷く。


「ちょっと聞こえるようにしただけだよ。

 でもこれからは、この剣が”ヴィオ”の中核になるから」

「じゃあ、この剣が”ヴィオ”ってこと?」


 エリクのその問いに、モニカは悩むように眉を寄せた。


「うーん、そうなるんじゃないかなー」

『いや、厳密には違うから・・・』

『めんどくさいから、ロンは黙っててね』

『・・・え?』


 なんてこった。

 俺のその進言は、”めんどくさい”の一言で封殺されてしまったぞ。

 まあ、そんなことに拘る必要はないか。


 その証拠に、エリクが剣に向かって「よろしく、ヴィオ」と語りかけると、まるで応えるように剣が黒く光を放ったのだ。

 まだ、エリクとの会話モジュールは作ってないので簡単なやり取りしかできないが、どうやらヴィオは剣ごとそう呼ばれても良いらしい。


 妙にその辺にこだわった俺やウルとは大違いだな。

 人の頭の中に作られたスキルはプライバシーを気にしやすいのかもしれない。


 まあ、当人達がそれで良いなら、これでいいか。


 とはいえ、エリクの装備はようやくこれで下準備ができた段階だ。

 ”OSインストール”が終わった段階とも言えるかな。

 実際に使うには、ハードもソフトもまだまだ足りない。


 さて、これからどういう風に改造してやるか。

 俺はそんな事を考えながら、仮想空間上の図面を色々と引っ張り出してそこに”実験案”を思い描く。

 せっかくの”成功例”だ、これで終わらせはしない。


 まずは・・・”あいつら”を使ってみるか。

 そう決めると、俺は自分の持ってる”日陰者達”を移植するための指示を組み立て始めた。


 だが、


『これから、よろしくお願いしますね』


 だが俺のその行動は、ヴィオから飛んできたその通信で頓挫する。

 ヴィオの言葉は、先程までとは比較にならないほど自然で、驚くほど感情豊かだったのだ。

 あれ? こんな短時間でこんなに成長しちゃうの!?


 だがその思考も、次いで飛んできた言葉で完全に吹き飛ばされる。




『”お父様”』



『・・・・・・・・・・は?』


 ヴィオが意味深な声でそう言うと、俺の思考が一気に大混乱に陥った。


『え!? お父様!?』

『え? ロンの子供なの!?』


 咄嗟に溢れた俺の声を拾ったモニカが釣られて驚く。


『ちょっとまて、”お父様”ってどういうことだよ!?』


 たまらず俺がヴィオに問いただすと、ヴィオは出来たてのプログラムとは思えないほどハッキリとした物言いで宣うた。


『私のシステムは、”お父様”のシステムを別のプログラムに挿し込んで形成されています。

 その構造や経緯、関係性を考えるにお父様は”概念上の父親”という見方をすることができるのでは? と判断いたしました』


 そしてその言葉にモニカが無言で考え込む。


『えーっと、つまりロンと”剣”がくっついて ・・・・・ヴィオが出来たってこと?』

『はい。 そうなりますね』


 モニカの問にヴィオが即座にそう返した。

 おい、まてまてまて。


『やっぱりくっついた ・・・・・んだ』


 モニカがそう言って若干顔を赤らめる。


『モニカ・・・一旦”くっつく ・・・・”から離れろ。 

 いいか、俺はあくまで俺のシステムの中核データだけを流用して組み立てただけに過ぎん。

 システムの形態も違うし、使ってる”アセンブリ”もぜんぜん違う。

 あくまで”ライブラリ”とシステムの組み方に互換性があるくらいだ』


 俺はそう言って自分がいかにヴィオと異なるかを力説した。

 そりゃ確かにさっきヴィオの事を内心で”娘”と形容したけれど、それは言葉の綾で・・・


 だがそれに対しモニカは難しい感情を崩さない。

 そして絶望的な結論を口にした。


『つまり、”父親”くらいの距離感ってことだよね?』


 その瞬間、俺の中に”ガーン”という強烈な音が木霊した。

 その音量にモニカが一瞬だけ顔を顰める。


 そしてモニカという”最強の後ろ盾”を得たヴィオが、勝ち誇ったような笑みの画像を送ってよこした。

 その表情に俺は言葉も出ない。


 何ということだ。


 もうすぐ1歳になろうかという春の日。

 俺はまだ恋もしていないというのに、一児の父になってしまった。

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