2-17【剣の声 4:~初期バージョン~】



「なんか話しかけられた!? なんか””これ”に話しかけられたぞ!?」


 エリクがそう叫びながらヘルメットの両側を掴む。


「落ち着いてエリク! 問題ないから」


 するとモニカが慌ててエリクを宥めすかし、なんとかその場に抑え込んだ。

 だが突然頭に被った得体のしれない物体に話しかけられたエリクは、半ばパニック状態で、落ち着かせるのにモニカとメリダの二人がかりでも効果が薄い。

 まあ流石に今のは音量が大きかったかな。

 俺はこっそりヘルメットの音量を下げる。

 そうしている間に、モニカ達がなんとかその声が自分たちの用意した機能の一つであることを説明し、エリクの頭にヘルメットを押し止めることに成功すると、ホッと胸をなでおろしていた。


 それでも、まだ少し疑念が残っているようだが、脱ぐ様子は消えたので大丈夫だろう。


「とにかく聞いてみて」

「大丈夫なんだよな・・・」


 エリクはすっかり怖気づいていた。

 ヘルメットから送られてくるバイタルデータからもそれが覗える。

 幸いにも、この前付けた医療用の観測機でエリクのデータを取っていたおかげで、彼のデータをシステムに組み込む作業の方は順調らしい。


 それじゃ続けるか。

 俺はシステム用の音声スキルに指示を出す。


 はい、” printf(ほにゃらら) ”っと・・・


『このシステムは、あなたを補完し、支援するための、統合型外部スキル管理システムです。

 私はそのシステムとあなたを繋ぐための、【インテリジェントスキルLv.1】です。

 このシステムを使用することで、あなたは様々な可能性を具現化することができるでしょう』


 ちなみに現状だとこの喋る機能は俺がそれっぽいこと言わせてるだけである。

 要は腹話術だ。

 声の主は、好感度の高そうなシルフィとアイリス当たりの音声データを混ぜて作ったやつを大人っぽくして使ってる。

 インテリジェントスキルなんてそう簡単に作れないので雰囲気だけだが、システムづくりはこういった気配りで差がつくので気は抜けない。

 何と差がつくかって? 知らん。


『まず初めに、あなたの名前を教えて下さい』

「・・・なんか名前聞かれたんだけど・・・」


 エリクがまるで呪われる寸前であるかのような目でモニカを見る。

 だが無情にもモニカは”さっさと言え”とばかりに、笑顔で無言の圧力を送るだけ。


「・・・・ええっと、”エリク”」

『”エエット・エリク”ですね。 よろしいですか?』

「あ! 違う・・・”エリク”です」


 ヘルメットの予想外の解釈に、エリクが慌てて言い直す。


『”エリク”ですね。 よろしいですか?』

「はい・・・それでお願いします」


『それでは”使用者:エリク”で登録いたします』


 その瞬間、俺に送られてくるデータのタグが”エリク”に変わり、既に観測されていたバイタルデータと個人データが紐付けされていく。

 これで、このヘルメットのシステムは完全にエリクのものとして確立した。


『それでは、私の”呼び名”を決定してください』

「・・・呼び名?」

『私の機能を使用する時に、必要になります』


 ついでに俺がこいつの機能を使う時に便利になります。


「ええっと・・・じゃあ・・・」


 エリクがそう言いながら考え込むように押し黙る。

 バイタルデータが、活発に動く彼の脳波のデータを示していた。

 なるほど、これが”悩んでる”時のデータね。

 だがそれも、やがて絞られ始めたのか、纏まりのような傾向を見せ始めた。


「・・・”ヴィオ”」


 エリクが絞り出すような声でそう呟く。


『”ヴィオ”でよろしいですか?』

「・・・うん」


 なんとも引っかかるような返事だなおい。

 まあ、でも”ヴィオ”でいいってんだから”ヴィオ”にしておくか。

 はいはい、MIS.STATUS.NAME = ”ヴィオ” っと・・・

 俺がそんな感じにポチッと切り替えると、それまで只のアドレス表示だったヘルメットのシステムが”ヴィオ”という名前に切り替わった。


『名称変更を承認、スキル名【ヴィオ】で登録されました。

 今後は私のことを”ヴィオ”とお呼びください』


 ヴィオインテリジェントスキルがアナウンスをエリクに伝える。

 その間にもシステムの基本設定がヴィオの名前で初期化されていった。

 これで、一通りの準備はできたか。


「ねえ、なんで”ヴィオ”にしたの?」


 その時、メリダが興味深そうにエリクに聞いてきた。

 一通りの準備が終わったことで手持ち無沙汰になって気になったのだろう。

 でも確かに、”ヴィオ”ってあんまり聞かない名前だな。

 するとエリクは少々困ったような顔をした。


「特に・・・なにかの理由があったわけじゃないよ・・・ただ、昔死んだ妹の名前がヴィオだったんだ」

「へー・・・」

「はー・・・」


 こりゃまた、随分と思っていたよりも重たい理由が来ちまった。


「あ! 妹といっても流産だったんだけど・・・」


 エリクがそんな風に言いながら気にするなとばかりに笑って誤魔化す。

 そんな無茶な・・・

 するとメリダが、俺の感覚器を引っ掴んで小声で耳打ちした。


「・・・これ、悪いこと聞いちゃったかな?」

「そんなこと無いよ。 別に名前の由来を聞いただけだし」


 俺がそう言ってフォローを入れると、メリダが感謝するように小さく頷く。

 ちょうどその時、


『初期化プロセスが終了しました』


 ヴィオが全ての準備を終えたことを知らせ、その声にエリクがハッとしたように耳を傾ける。

 それと、いつの間にかヘルメット内の表示に、いつもモニカに見せているものを簡易化したようなインターフェイスを表示させているではないか。

 これで心置きなく全て起動できるな。

 俺が、求められてきた管理者権限での”ゴーサイン”を送り返した。


『これより、インテリジェントスキル【ヴィオ】をきどsdvg映えwsるlv儀部sdlうあえdv!!????

「うわあああっ!!!??」


 唐突に異音を発したヘルメットに、エリクが声を上げて驚いた。

 無理もない、俺もビックリして心臓が止まるかと思ったもん。

 よく見れば、流れてくるテレメトリーが大量のエラーログの塊を吐き出しているではないか。

 ギリギリ、システムは持ちこたえているらしいが、何処かで問題が発生して空回りしているらしい。

 ヘルメットのスピーカーからは、尚も女性の声で言葉にならない怨霊のような音が流れ続けていた。

 なんだこりゃ!?


「なんか、こわれた!? おかしいよ!」


 エリクがそう叫びながらヘルメットに手をかける。


『まずいモニカ、エリクを止めてくれ』

『いいの?』

『アナウンスがバグってるだけだ。 こっちでなんとかできる。 今脱がれると初期設定からやり直しだ』

『わかった「落ち着いて、エリク! すぐに直すから!」


 そう言ってモニカが口では優しく、手は問答無用でヘルメットをエリクの頭に押し付け続けてくれたおかげで、俺はなんとかエラーに集中することができた。

 思考加速を掛けながら、ログの一つ一つを精査して発生源をたどる。

 幸いなことに、システム全体の問題ではなく”エリクに伝える音声スキル”に問題があることは突き止めている。

 ”printf()”なんて使うからこうなるんだよって? うるさいな、自分で作ったやつなんだから良いだろうに。


 だが、パッと見る限りプログラムに問題は見られない。

 ということは、”実行部”の方だな。

 俺は、魔水晶内の魔力の動きの方を精査し始めた。

 ええっと・・・ここがこうなって・・・そこがああだから・・・んで・・・あ!?


 俺はそこで”問題の箇所”を見つけた。

 回路の焼付不足か、配線ミスか、とにかく1つだけ魔力の入らない”メモリ”があって、そこにデータを入れようとすると盛大にバグるらしい。

 名前がつけられる前はデータが小さくて使わなかったから、チェックをすり抜けたか。

 俺は急いでその箇所を使わないように”実装アセンブリ”の内容を書き換えていく。

 こんな突貫工事、俺じゃなきゃ無理だね。 ←そんなこと言ってる暇があれば手を動かせ!


 あまりに焦りながら思考を並列に回したので、俺の頭の中はそんな風に大混乱に陥った。

 システムを起動しながら、他の値に干渉しないようにタイミングを見計らって切り替えていくのは、もはや超常パズルの様相を呈している。

 とはいえ、その御蔭でエラーログの量が一気に減り始め、やがて音声スキルが正常な動作を取り戻した。


『これより、インテリジェントスキル【ヴィオ】を起動します』


 ヴィオがそう言って”ドヤ?”とばかりに格好良く起動文句を宣うが、裏方の俺としてはもはや恥ずかしい。

 ”ユーザー”であるエリクに心配されているので、インテリジェントスキルの第一歩としては散々なものだろう。

 ”我が娘”ながら、前途は多難だな。

 俺はやれやれといった感じにそう思うと、次のプログラムが今度は問題なく動作するのを見守った。


『ほっ・・・これで一息つけるかな・・・』


「それで・・・これは何をするための魔道具なの?」


 するとエリクが、そもそもの疑問をモニカにぶつけてくる。


「兜みたいだけど、強度はないだろ?」

 

 そう言いながら、頭を指差す。

 確かに、硬い部品を結構使ってるので頭は最低限守ってくれるだろうが、そんな所に剥き出しで大量の魔道具を取り付けている今の状態は、とても”防具”には思えないだろう。


「装甲は次のときにつけるよ。 今日はシステムの起動の実験だけ。

 それに、これの本当の機能は”守る”ことじゃないから」


 モニカが答える。

 するとエリクは怪訝な様子を深めた。


「で、結局これは何なんだ?」


 その問いに答えたのは、モニカではなくヴィオの方だった。


『私は、外部スキルユニットとして、使用者であるエリクの可能性を広げ、その力をサポートするための機能です。

 どうぞ、何ができるのか聞いてみてください』


 その言葉にエリクが一瞬、キョトンと空を眺め、やがておずおずと切り出した。


「・・・じゃあ、なにができるの?」

『現在使えるスキルは【基本設定】【視覚強化Lv1】【聴覚強化Lv.1】【分析Lv.1】【バイタルチェックLv.1】【魔力支援Lv.1】です。 また装備による補助機能として、【光灯】【音声強化】【魔力通信】が使えます』


 ヴィオが現在使える外部スキルの情報をエリクに淡々と伝える。


「えっと、その”スキル”って、もしかして。 あの”スキル”?」

『はい。 ですが外部からの再現ですので、内部能力に完全依存する従来のスキルとは構造が異なります』

「はあ・・・ということは、俺でも使えるの?」

『はい。 スキルの発動に必要な”力”は、全て外部ユニットの中にありますので問題はありません』

「じゃあ【視覚強化】をつかうと・・・」

『【視覚強化】を発動します』

「うわ!?」


 その瞬間、ヘルメットの中の表示が急激に拡大され、モニカの髪の毛の生え際が”ドアップ”になった。

 さらにエリクの目の動きとピントの動きに合わせて、そのズームやピントがそこら中に変わる。


 これらは全て、現在の装備の中に必要な”力”を入れているので、エリクの”力”には依存しない。

 とはいえ、まだデータ不足なのでエリクの体に干渉するようなスキルは起動させてないし、起動しているやつも、レベルが低いことにして ・・・・・ヘルメットの支援機能だけで再現するにとどめていた。


「これ凄いな」


 エリクがそう言いながら【視覚強化】で、地平線の先に僅かに見える山の頂上にピントを合わせると、そこに転がっている石ころの形までがハッキリと見えた。


「そうでしょう!

 しかも使っていくと、レベルが上ったり、他のスキルを覚えたりするんだよ」


 メリダがドヤ顔でそう説明する。

 この辺りの互換システムはメリダの設計なだけに、何とも誇らしげである。


「それ本当?」

『本当です。 エリクの動きや能力をシステムが分析し、それに合った形でスキルを構成することで使用可能となります』


 ヴィオがエリクに説明する。

 その言葉通り、このシステムの成長は、エリクのデータを集めて問題がないかを確認することで行われる。

 おかげで”まがい物”ではあるが、その動作は、従来のスキルや、俺たちと比べても随分とスキルらしい ・・・・・・代物に仕上がった。


「ためしに何かしてみてよ。 そうだ、剣を振ってみるとか」


 モニカが急かすようにエリクに助言する。

 するとエリクはおっかなびっくり聞き返した。


「剣を振ると、それでスキルが成長するのか?」

『日常の動作でも、戦闘の動作でも、エリクの様々なデータを元にスキルを構成するので、何らかのスキルが成長すると思われます』

「えっと、じゃあ・・・」


 エリクは、そう言うとまんまと・・・・剣を取り出して構えてくれた。

 即座に剣の中に魔力が充填され始め、同時にヴィオの分析スキルが”剣の内側”とのアクセスを試みる。

 すると、剣を構成するフロウの内側に、明らかな魔力回路が見え始めた。

 ヴィオが”それ”と接触し構造を自身のメモリーに紐付けしてゆく。


『やっぱりだ』


 俺がモニカに伝えると、モニカがメリダを見ながらコクリと頷いた。

 それに対しメリダも頷きで返す。


 一方、剣に集中していたエリクは、僅かな筈のその変化に大きく驚いていた。


「すごぃ・・・なんだか魔力が、めちゃくちゃ操作しやすいよ」


 ああ、それ。

 おそらく常時発動型の【魔力支援】影響だろう。

 エリクは、剣の”ベクトル魔法陣”に流す魔力を調整しながら、ゆっくりと動かしていた。

 器用なもので。

 俺達じゃこんなに少なく注入するのは苦手だからな。

 エリクは身体強化に使う魔力をヴィオが調整する事で体の動きが軽く感じているのか、仕切りに手や足を回している。

 そんな事をしていると、ほら、


『スキル【身体強化Lv.1】を獲得しました。

 スキル【武器使用:魔剣】を獲得しました』


 ヴィオが早速エリクの体に干渉するスキルを組み上げたようだ。

 まあ、組んでんのは俺なんだけど。

 遠隔でデータを受け取って、組んだレシピを返す仕組みだ。

 行く行くは自動的に組める様にしたいが、現状では無理な話。

 まだしばらくは俺が好き勝手にプロデュースするとしよう。


 するとその時、エリクが剣に魔力を込めながら勢いよく振り抜いた。

 ”ビュッ”っと鋭い音が鳴り響き、その速度で僅かに破裂音がなる。

 ベクトル魔法による加速は強烈だったが、同時に驚いたのは、今回はエリクの体が殆ど振られることなく、まるで舞う様に勢いを往なしきった事だ。


「うわ、止まった!?」


 まさか止まると思ってなかったらしいエリクが、驚きの声を上げる。


 え? マジで!?

 その様子に俺がテレメトリを何度も見直す。

 どうやら【身体強化】と【魔力支援】が、彼の経験とセンスをいい感じにブーストしていたらしい。

 それらも、すぐさま【武器使用:魔剣】の中に取り込んでLv.2にアップデートされた。

 と、同時にいくつかのスキルが起動可能となる。


『【剣術Lv.1】を獲得しました。

 【体術Lv.1】を獲得しました。

 【移動支援Lv.1】を獲得しました。

 【繊細操作Lv.1】を獲得しました・・・』


『ちょっと、あげ過ぎじゃない?』


 怒涛のスキル獲得ラッシュにモニカが指摘を入れる。


『とはいえ、そういう作りだからなー』


 どうしてもサンプルを増やしたいので細分化は致し方なし。


『それに基礎的な物ばかりで、あんまり使えないのが多いし』


 【剣術Lv.1】なんて、剣を格好良く構えられる程度の効果しかない。

 とはいえ、ここまで問題なく使えてるとくれば、”最初の被検体”にエリクを選んで正解だったな。

 ”ユニバーサルシステム”の第一歩としては順風満帆だろう。


『それで、”本題”の方はうまく行ってる?』


 モニカが”忘れてやしないかい?”と念を押す様に、聞いてきた。

 失敬な。


『そっちもちゃんと見ているよ、どんどんデータが溜まってる』


 俺は視界の右下に置いた”エリクの剣”の情報が、どんどん増えている事を確認しながらエリクの一挙手一投足を見守っていた。

 好都合な事に、エリクはヴィオの力を気に入ってくれたようで、何ができるのか確認するように何度も剣を振り込んでいる。

 そのおかげでエリクのデータも剣のデータも。これまでにない勢いで集まっていた。


 それにしてもだ。

 

 剣を縦横無尽に振り回すエリクは、まだ剣に振り回されてはいるものの、以前と違って”ちゃんとした剣術”の様に見えた。

 それでいて剣筋の鋭さは以前のままなので、これだけで強くなってるのは間違いないだろう。

 エリクが、一の太刀で切り飛ばした葉を立て続けに三等分にした時は、メリダが歓声を上げた程である。


『うん、これなら”良い前衛”になりそう』


 剣を振り抜いた姿勢で止めるエリクの姿を見ながら、モニカがそう言って”エリクは私が育てた”と云わんばかりに頷いた。


 だが問題がない訳ではない。


『これが限界か』


 俺がそう言うと、エリクのヘルメットの内側だけに聞こえる警告音が鳴り、エラーメッセージが表示される。


「あれ? 何これ? ・・・ヴィオ?」


 何が起こったか分からないエリクは途方にくれる。


「安心して、これも”そうていない”だから」


 モニカがそう言って、エリクの肩をポンと叩きヘルメットを引き上げて外した。


「まだ試作品だから、強度を持たせてなかったの。 だから激しく動かすとすぐ壊れる」


 モニカがそう説明する。

 するとエリクが慌てた。


「えっと、ゴメン・・・すっかり忘れてた・・・」


 そう言いながらバツの悪そうな顔を作った。

 どうやら自分の使い方のせいで壊したと思っているらしい。

 それに対しモニカが誤解を解くためにあえて笑顔を作る。


「だから”そうていない”って言ってるでしょ。 壊れたんじゃなくて壊させたんだよ。

 おかげでいいデータが取れた。

 これで次はもっと先に進める」


 そう言いながら、ヘルメットの状況を確認するモニカ。

 するとエリクが、急にモジモジとし始めたではないか。

 なんだ? トイレか?


「その・・・」

「ん?」

「その・・・ま、また”ヴィオ”に会えるの? ・・・また俺に使わせてくれる?」


 そう聞いてくるエリクの表情は何とももの寂しげだ。


『どうしたのかな?』

『妹の名前なんて付けちゃったもんだから、愛着が湧いたんじゃないの?』


 モニカの問に俺がそう答える。

 するとモニカが納得の感情を発し、エリクを励ますように”ニカッ”っと笑った。


「大丈夫! データは取ってるし、修理すればすぐにヴィオはちゃんと使えるよ。

 もっとしっかりと ・・・・・したヴィオ・・・・・をね。

 それに、これからは狩りとか討伐とかでも使って貰うつもりだから」


 モニカがそう言うと、エリクの顔が少し明るくなった。

 安心してくれ。

 彼にはこれからも、”実験ど・・・テストパイロット”としてユニバーサル計画の中核を担ってもらうつもりだから。


 そんな俺の考えを知ってか知らずか、エリクはモニカが取り外していく機器類を羨望の眼差しで見ていた。

 これで一安心だな。

 気味悪がって逃げられる事を想定していただけに、この結果はまずまずだろう。


 さてエリクは上手く行ったとして、次なる懸案は・・・


『”これ”だよね』


 そう言いながらモニカが取り外したのは、エリクの背中に取り付けられていた”魔力ジェネレーター”。

 それは外すと、過負荷を示すように白い煙を吹き出し、”ジュウ”という音が辺りに鳴り響いた。

 その様子を、エリクが恐る恐る振り返る。


『やっぱりこれじゃ性能不足か』

『そうみたい』


 俺達とメリダがその問題を確認しあって腕を組む。

 元にしたスキルが俺達の物のせいで、ヴィオの燃費効率はかなり悪い。

 このまま民間向けの低出力ジェネレーターを使うのでは、高いレベルのスキルを使う事など夢のまた夢である。


『まあ、これについては”解決策”はあるんだけどな』

『まあ、そうなんだけど』


 俺達はそう言い合うと、こんな事もあろうかと通い始めていた豚獣人兄弟の研究室エリコル研究所のイメージを思い浮かべたのだった。


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