2-13【キラキラの2年生 3:~筆記と実技、そして寸劇~】
事前講習が終わったことで、第二種校外活動免許試験は、いよいよ本格的に”試験”の部分に突入した。
内容は他の試験同様、まずは筆記試験。
行程は一日を半分に分け、午前中に基礎知識や法令、各地の風土や宗教状況、冒険者協会やアクリラ条約の規定に関する問題が出題される。
といっても、その殆どは事前講習で出た内容でありその確認だ。
当然ながら、講習内容をいつでも呼び出せる俺がいるのでこれは問題ない。
一応、いつものようにモニカはできるだけ自分で解いて、俺がそれを修正する形をとっているのでここでの減点はないと思われる。
もっとも、”午前中”の点数はかなり低めに設定されているので、他の受験者も皆それほど本気ではなかった。
難易度自体も結構低めだしね。
ここで気張って疲れるよりも、点数の高い”午後”に合わせて気楽な感じで受験している者が多い。
もしくは単純に簡単すぎて本気出すまでもない者か。
逆を言えば、午前を死ぬ気で頑張っている生徒は予想点数が当落線上の生徒だろう。
割合的には半々かな。
◇
それが終わってから、唯一の知人であるシルフィと一緒に会場となっている中央講堂の食堂で昼食を取る。
俺達的には他に知人がいないからだが、他に知人がいるはずのシルフィが俺達だけと一緒なのは、試験中なので気を使いたくないかららしい。
対外的には猫をかぶる習性のあるシルフィにとって、こんな時まで猫をかぶるのは嫌なんだと。
ただ、遠回しに俺達には気を使わないでいいと思っていると言われているのと一緒なので、俺もモニカも少し良い気がしたが、シルフィの態度を見る限り、適当に相手しても問題ない相手と思われているような気がしないでもないから微妙なところだ。
ちなみに、食べたのはここの食堂名物”肉盛り肉付け合せセット”こと、14番定食。
一応願掛けとして、編入試験を受けた時に食べたのと同じメニューである。
ただ、意外なことにシルフィも肉定食を頼んだのだ。
なんとなくエルフって菜食主義者的なイメージが有ったのもあるが、それよりも普段は本当に菜食主義者的なメニューを食べている所しか見たことがなかったので、モニカの方が思わずマジマジと見てしまったくらいである。
「・・・ん? なによ?」
大口を開けて肉の塊にかぶりつこうとしたシルフィが、その状態で怪訝な表情になる。
「あ、いや・・・お肉・・・食べてる所見たことがなかったから・・・」
「”肉は食べない種族”だと思ってたって?」
「・・・うん」
「ざーんねん! はっむ」
そう言ってしたり顔で肉に齧り付くシルフィ。
超弩級美少女が大きな肉に噛み付く妙に色っぽい絵面に、同性のモニカまでもがドキリとする。
「エルフだって肉は食べるわ・・・アムッ・・まあ、太りやすいし、普段は食べないようにしてるんだけどね・・・グッ・・でも、今日は試験だから・・・肉がないと」
そう言いながら肉を次々口に放り込んでいくシルフィ。
まさか普段肉を食べてなかったのがエルフだったからじゃなく、ダイエットのために控えていたとは・・・
彼女の”とんでもない美貌”には少なくない努力が含まれてたんだな・・・
てっきり触れたらまずい問題かなんかだと思って、モニカにもスルーさせていたんだけど、いらぬ気遣いだったようだ。
俺達もルシエラも、どちらかといえば燃費が悪く大食漢とまではいかないが、かなり食べる質なので、ダイエットを気にする少女という存在がなんだか希少に感じてしまったのだ。
◇
午後からの試験は、午前とはちょっと趣向が異なる。
だが同じようにペーパーテストだし、パッと見は変わらない。
それでも、午前中と比べると明らかに受験者たちの本気度が上がり、配られる答案を睨む視線に殺気のような物が混じった。
そして、その傾向は高学年ほど高く、ここからが本当の試験なんだと嫌でも認識させられるようである。
「初め!!」
監督員の先生の掛け声と同時に、一斉に答案がめくられ、俺達の視線の先に問題が大写しになり、事前に組んでいた認識スキルが問題の内容を俺にダイレクトに伝え始める。
出題の傾向は、過去問で確認したり、ルシエラから聞いていたものとほぼ同じだった。
実際に校外活動・・・すなわち”冒険”を行うに当たって発生する様々な問題が、そのシュチュエーションを細かく設定されていて、その時々に必要な解決法を記入していくというもの。
シュチュエーションは日々のちょっとした”イライラ”から、絶対絶望の状況まで様々。
これにちょっとした気配りから、最悪、どのように”最期”を迎える覚悟を決めるかまで、ありとあらゆる方法で対処方法を見出さなければならない。
ただし、全ての状況に対して共通の設定がある。
それは提示された状況で対応するのは”回答者本人”であるという設定だ。
なので単純に正解とされている方法を書くのはあまりオススメしない。
なにせ、ここで書いた答案に必要な技術ができるかどうか、明日以降に実施されるの実技試験で見られるのだ。
ただ、仮にそこで出来なくても、設定されている仲間ができる技術とか、習得まであと僅かの技術とか、実現性に応じて点は出るし、単純に正しい手順なら筆記の方で点は出る。
というか、できる技術で無理やりゴチャゴチャと非効率な方法を書いて筆記で減点されるのを考えたら、出来もしない正しい手順を書いて筆記で点をもらった方がいい場合だってあるくらいだ。
足りてない部分さえわかれば、それを補う人選なり、物資購入で調整するなり色々できるということらしい。
その辺の判断力も選考対象ということなんだろうな。
でも正しい手段を書いてそれが出来た場合に比べたら、どっちを取っても少ない点しかもらえないんだけどね。
まあ、ここで出来もしない技術を並べて解決案を書いてみるのも一興だが、普通に今できる技術で解決案を書いていくのが無難だろう。
もうモニカがそのノリで書きまくってるし。
しっかし聞いてはいたが、本当に内容は容赦ないな。
飲食物や排泄物の管理等もオブラートに包まず直球で聞いてきているし、直球で回答を求められる。
途中、やたら鮮明でグロテスクな絵が出てきたかと思えば、疫病に侵された部位を特定して対処せよという問題だった。
これの印刷のためにいくら掛かってるんだか、問題冊子は書き込めないようにキツめの結界が張ってあるのでお高いだろう。
他にも仲間内の色恋刃傷沙汰やら、性欲管理の問題なんて11歳のモニカに見せて大丈夫なのかと思うが、その辺も容赦はない。
どちらも複数人が長期間一緒に帯同する場合避けては通れない話だし、複数出ている辺りから、”そういう資格”なのだという重みを感じるしか無い。
ちなみに、これまたモニカはどちらも淡々と対処法を書き込んだ。
まだ色恋沙汰は分からないが、その問題性は理解しているし、性欲絡みについても・・・っと、あぶねえ。
とにかく、これらの話を聞いて分かる通り、この免許は基本的に複数人での行動を前提としている。
大きな事を成そうとすれば必然的に複数人の方が有利だし、安全だからだ。
危険地帯に踏み込めば、1人ではおちおち夜に寝ることすらままならないからな。
必然的にソロでの活動はどうやっても限度が出てくるわけで。
一応俺みたいなインテリジェントスキル持ちや、ルシエラみたいな規格外であればそれも緩和されはするが、冒険者協会で斡旋している仕事の中には魔獣出没地域での護衛任務や、調査旅行の随行なども有る。
そもそもアクリラ自体が、滅多なことではソロでの校外活動を認めない方針なのも大きいだろう。
一応その”滅多なこと”の部類には含まれるんじゃないかと思われる俺達だが、資格にまでそれを求めるのは筋違いだ。
・・・あ、高位スキルだからメンテ必須者としてソロだめかもしれん・・・
もちろん僅かではあるが単独条件での問題が出題されているが、こちらも仲間とはぐれた等の緊急時といった感じである。
一応、回答者個人の総合的な能力は見るということなんだろう。
『・・・どんなもん?』
最後の回答を終えたモニカが用紙を見回しながら、俺にそう聞いてきた。
『まあ、こんなもんじゃないか?』
もちろんベストではないが書かれている内容で対処は可能だと思うし、俺達でも可能な地に足の着いた回答だ。
満点はもらえないにしても、減点は少ないのではないか?
◇
その回答の是非が問われる実技試験は、丸一日かけて行われる中々にハードなものだ。
日程としては筆記試験の翌日から3日間の内、1日を指定されて行われる。
どれを指定されるかは事前講習の時に並んだ順らしい。
なるほど、あのとき早めに行った場合のメリットってこれのこともあるのか。
これならば、”とある特別授業”の1日を含めて、魔力を使う実技試験終了から本丸である”サバイバル試験”まで、まるまる3日間も休養日ができるので万全の準備が可能である。
それに、確かにこれならば魔力が有り余っている”俺達には関係ない”。
ちなみに俺達は、だいたい真ん中くらいに行ったので2日目。
なんとも平凡な。
講習と筆記試験では中央講堂を使ったが、この実技試験は郊外の実験場をいくつか使って行われる。
俺達は東山の寮に住んでいたので、東地区の会場が割り当てられていた。
そこはフェンスで覆われた荒れ地といった場所で、昨日ちょっと降った雨のせいで
ここで転げ回ればきっと一瞬で真っ黒になるだろう。
この会場で、一緒に受けるのは全員高等部の先輩が11人。
残念ながらシルフィは一緒ではない。
順番的に彼女は昨日だし、”南の大樹”に住んでいるので南地区の会場が割り当てられているだろう。
今日は1人で戦わないといけないと襟を正すしかない。
まあ今日はロメオも連れてきていい試験なので、寂しくはないか。
他の先輩方も、基本的に使い魔や飼っている動物などを持ち込んでいた。
試験監督は4人、見た感じ戦闘系と魔力系と魔道具系と、最後に明らかに弱そうなのは冒険者協会の職員かな?
受験生が何をしているのか分かるために各ジャンルから一揃い持ってきた感じか。
そしてこれも残念なことに全員知らない先生である。
まあ、アクリラの教師って助手を含めると何千人もいるから仕方ない。
それから俺達12人は、広い敷地に散り散りになるように指示され、お互いに十分な距離を開けて広がった。
すると魔力系教師と思われる試験監督が、生徒一人ひとりを囲うように結界を展開してく。
周りを緑色の壁で取り囲まれると、その向こうの景色がボヤけて音が一気に遮断され、その様子を見ていたロメオが驚いたような鳴き声を出した。
この結界の高性能なところは、中からは外の様子はよく分からないが、外からは中の様子がハッキリ分かるということだ。
展開中に既に出来上がった他の生徒の結界を見ていて気がついた。
流石に【透視】スキルまでも遮断するのかは不明だが、試さないほうが懸命だろう。
『これが”試験会場”か』
『意外と狭いね』
20m四方。
人間である俺達にしてみれば十分にも感じられるが、本気で動けば手狭に感じる広さだ。
誰かと戦うわけではないことが救いかな。
この中で一日過ごすことになると考えると少々気が滅入るが。
事前の案内通り、ちゃんと2食持ってきてよかった。
休憩時間はないので食べながらになっちゃうけれど。
「モニカ・ヴァロア、受け取りなさい」
その時、結界の一部が晴れ、そこから紙が差し込まれた。
モニカが近づき、言われた通りそれを受け取る。
書いてあったのは基礎的な魔法やスキルの課題。
『これをやれって事か?』
『みたいだね、・・・でも戻っちゃったよ?』
驚いたことに監督員の先生は、俺達に指示書を手渡してからすぐに結界の向こうに消えてしまった。
どうすればいいのだろうか?
すると、何をしているのかはわからないが、結界の向こうの方が僅かに光るのが見えた。
誰かが魔法を使ったのだろう。
さらに、他の先輩たちも続けとばかりに魔法を使い始め、結界の壁面には色とりどりの魔力の光でカラフルに染まっていく。
『とりあえず、上からやってみようぜ』
『うん』
魔法を使えば向こうからは見えるだろうし、見えなくても練習だと思えばいい。
もし、まだ使うなというなら、そんな注意をされるだろう。
『ええっと、”100ゲール以上の熱源を作りなさい”』
そう言いながらモニカが人指し指を立てる。
すると俺は殆ど息をするような気楽さでもって、そこに魔法陣を展開しバーナーの様に火をつけた。
『ほい、101ゲール』
その時、問題用紙の問題の横が光だし、謎の模様が現れた。
幾何学的な線の模様で、一見すると花柄にも見える。
『・・・これでいいってこと?』
『みたい・・・だな』
またなんともハイテクな・・・
『どういう仕掛けなんだこれ?』
『それよりも、今は急がないと。 むつかしいのに時間は残したい』
『あ、そうだな』
それから俺達は、魔法やスキルを用いて、問題用紙に書いてある条件を満たしていった。
内容は水を用意しろだの、何かを切断しろだの、周囲の状況を確認しろだの様々だが、やはり条件を満たすと該当の問題の横に謎の模様が現れる。
それと何問か進んで分かったが、事前の解法で既に条件が満たされている場合、その問題もクリアになるらしい。
『って事はこれ、順番は適当でいいな』
『じゃあ、一度全部見たほうがいいね』
『ああ、やってくれ』
俺の合図と共にモニカが問題冊子のページをパラパラとめくり始める。
それだけで内容は俺の中へと入っていった。
あとは思考加速をかけて、一緒に処理できる問題を洗い出せば・・・
『モニカ、4枚目の5問目』
『ええーっと、”15㌔バルムの清潔な水を確保し、手術に耐える環境を少なくとも3ブル四方に広げ、そこに・・・”とかってやつ?』
『そう、それだ。 それをちょっと回りくどいやり方でやれば、17問ほど一気に処理される計算だ』
『うん、わかった。 始めるね』
モニカがそう答え、魔力を必要分だけ捻り出す。
ある意味で予想通りだったが、問題の半分以上は達成するのにかなり手間のかかる物だった。
今回であれば、手術室に相当する環境を丸々用意せよというもの。
流石に、この課題を突破するために必要な魔法陣を詠唱なしで用意するのは不可能だ。
それでもモニカは果敢に長い呪文に挑戦し、その複雑な魔法陣を用意していく。
「カラムスパティオ・・・パテイム・・・メーアム・・・サゲニティム・・・」
モニカが一つ一つの呪文の意味と繋がりを意識しながら呪文を唱え、俺がそれを適切な形に調整する。
そして、それに応えるように眼の前に少しずつ組み上がっていく黒い魔法陣は、普段戦闘などで使うどの魔法陣よりも高度で複雑だった。
もはや、ちょっとした絨毯みたいである。
それが生み出される機織り機のような光景にロメオが興味津々の瞳で見つめていた。
この課題はどれだけ早くやるよりも、どれだけ確実にできるかが重要だ。
そしてこれさえできれば、例え治癒魔法が使えなくても治療を施すことは可能になる。
できないからといって指を咥えているのは魔法士のすることではない。
強引になろうともむちゃくちゃ非効率であろうとも、”できてしまえばよかろう”が鉄則なのだ。
数十分後、恐ろしく複雑な魔法陣が機能を始めると、俺達の周囲に殺菌消毒された空間が広がっていた。
この魔方陣がある限り、ここでどれだけ手荒に手術しても感染症にかかることはないだろう。
そして予想通り、基準を突破した他の問題たちに”完了”のマークが点灯している。
『ふうぅ。 大変だけど、これなら、結構な数がかせげそうだね』
それを見たモニカが嬉しそうにそう言う。
その声はどこかやりきった充実感に満ちていた。
それから、そんな風に複雑で難しい問題からこなし始めた俺達。
当然、できる数は少ないが、代わりに1問出来たときの旨みは大きいし、点数も稼げているだろう。
次第に広かったはずの空間に物が溢れ始めた。
俺達の専門が魔道具系とあって、どうしても即席の物で解決しようとしてしまうからだが、既に地面は水分を抜き取られ、地面の下から持ち出された岩が転がっている。
こういう時でも【土整形】のスキルは便利で頼もしい。
元々は槍状に固めるだけだったのが信じられないくらい肥大化し、今では家を作れといわれても可能だろう。
だがある時、結界が一部が晴れて2人の監督員が入ってきた。
そして入ってくるなり、片方が次元収納から何かを取り出しドサリと地面に置く。
モニカは、今しがた作っていた魔法陣作成作業を一旦打ち切り、そちらへ注意を向けた。
置かれたのは、山羊か何かの腐った死体だ。
「モニカ・ヴァロア、仲間の1人が正体不明の感染症によって死亡した。 ”この答案”にあなたが記した解決方法に従って処理しなさい」
そう言って渡されたのは、筆記試験で俺達が書き込んだ答案用紙。
この問題も見覚えがある
『モニカ、いけるか?』
『うん、大丈夫。 そっちもよろしく』
設定ではこれは獣人の30代の男性だったか。
「みんな! 離れて!」
モニカがとりあえず近くにいた監督員に向かってそう叫び、死体の周りを結界で覆いながら中に魔力を充満させていく。
これは寸劇だが、思いの外熱が入っている。
中を魔力で満たすのは魔力密度を致死量にして殺菌するためだ。
俺達ならではな方法だが、簡単故に確実性は高い。
それから他にも数種類の滅菌を試したあと、死体を焼却して灰を抗菌性の高い魔力物質で覆い、地中深くへ埋葬して、対応した自分を他の仲間から隔離し様子を見る段取りをつける。
その動きはぎこちなくはあったが、確実で確かなものだった。
答案に書いた内容を全てこなすと、監督員の教師が手元のメモに何かを書き込む。
”採点”ということだろうが、良かったのかどうかは分からない。
それから監督員たちは、何度か結界の中に入っては昨日の答案の内容を再現させてきた。
俺達はその度に問題の回答を切り上げて、そちらに回る。
大体はこちらの方が難しい条件なので手間も大きい。
対応の中には仲間に協力を求めるものもあるので、監督員に指示を出して寸劇に加わってもらうことになったのだが、それがなんだか奇妙な感じがしたものである。
でも、お昼時に汚物の処理をさせられたのはキツかったな。
何が入っているのか、すごい臭いなのだ。
ストレスを与えて反応を見てるんだろうが、全く平気な顔のモニカに対して俺はかなりこみ上げるものが有った。
ロメオは最初、どんどん増えていく謎の物体や俺達の”奇行”にいちいち反応を見せていたが、いつものようにその内慣れたのか反応を示さなくなった。
きっと俺達が変な行動するのは、別に異常ではないとでも思っているに違いない。
それでも、なんだかんだで寸劇にも参加してくれているし、物置から輸送手段まで意外と大車輪である。
そうやって、問題を次々とこなしていく俺達。
その動きは順調そのものだ。
ただ、酒からアルコールを抜くのは失敗した。
液体からアルコールを抜くこと自体は成功したのだが、気化したアルコールでちょっとむせたのだ。
ちょっとだが間違いなく減点対象なので駄目だし、俺達が酔ってないかチェックも入ったほど。
この世界では基本的に魔法士は成年未成年関係なく酒は飲まない。
スキル保有者ともなれば結構敏感に避けるくらいだ。
なぜかって?
想像してもみたまえ、精密ミサイルや戦車、高性能爆薬に・・・俺達の場合は核ミサイルもか、とにかくそれらのスイッチを握っている者が、その辺の酒場で酔っ払っている光景を。
危なすぎてオチオチ近づけたものじゃないだろう?
特に普段から猛烈な力を無理やり抑え込んでいるスキル保有者などはいわずもがな。
もちろん何事にも例外はあるように、酒を飲んでいる魔法士やスキル保有者はいるが、彼らは皆、己の力を完全に制御できている者たちで、それでも酔わないように何らかの対策は取っているのが殆ど。
そんな訳で、知らない土地での長期活動にはアルコール対策は必須となっていた。
保存の関係でどうしても酒を口にしなければいけない場面はあるからな。
それでも、それ以外は特に問題なくすべての問題を解けたと思う。
終わったときにはすっかり周囲は真っ暗になっていたが、見る影もないほど穴凹だらけになってしまった”試験場”の中で、俺達の心はなんとも言えない満足感が広がっていた。
そうやって試験が終わり、緑色の結界が晴れていくと、そこに開放感も加わる。
こんな広いはずの空間のでも、長時間缶詰だと閉塞感が出るものらしい。
「ふう・・・」
モニカが一息つきながら、額についた汗を拭う。
ずっと集中しっぱなしだったからか、全身汗まみれ。
『それじゃ、さっさと帰って風呂だな。 ベトベトして気持ち悪い』
俺がそう言うと、モニカがにやりと笑う。
『なら、さっき作った清涼魔導具ためしてみる?』
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