2-12【新たな日常 5:~祭りの反省会~】


 1の月の3週目の週末。


 検査結果になんとも煮えきれないモヤモヤを抱えたまま”サイロ”から退院した俺達は、メリダに連れられ、その足でピカ研の建物までやってきていた。




「それでは今から! モニカの退院祝いを兼ねて、ピカ研名物”アクリラ大祭反省会”を始めたいと思います!」


 少し気恥ずかし気にベル先輩がその宣言を叫ぶと、それを聞いた他の者達が「うぇーい!」とばかりに叫び返す。

 そして少し状況の理解に遅れたモニカが「うぇーい!」とそれに続けば、ライリー先輩が巨大なクラッカーの親戚みたいな物を使って大きな破裂音を響かせた。


「うわ、くさっ!? ゲッホッホ!」


 狼獣人のライリー先輩が”クラッカーもどき”の硝煙を吸って盛大に咽る。

 どうやら火薬の臭いが、先輩の敏感な嗅覚にダイレクトヒットしたらしい。

 この世界にも火薬はあるが、薬品の関係かいかんせん臭いがキツイからな。


 そして、そんなライリー先輩をルビウスさんにまかせて、俺達はこの状況に”キョトン”という表情を顔に貼り付けていた。


「”アクリラ大祭反省会”?」


 モニカが何だそれはといった感じにベル先輩に問う。

 するとサメ顔の先輩が、俺達に得意気に教えてくれた。


「名前の通りさ。 祭りでやった事や得た事について、皆であれこれ反省しながら、ワイワイ騒ごうって事だな。

 要は”打ち上げ”だな」

「”うちあげ”?」

「そそ。 本当は祭のすぐ後にやるもんだが、モニカがいきなり入院したからな。

 退院するまで待ってようって、今日まで伸びてたのさ」

「そんな・・・わたし、全然ピカ研の方手伝えなかったのに・・・」


 自分が待たせた事を悟ったモニカが、慌ててそう言って恐縮した。

 モニカなりに、研究所を疎かにして対抗戦にかまけた事に罪悪感を感じているのだ。

 だがベル先輩は、そんなモニカに対し呆れた表情で言葉を返した。


「何言ってんだ。 うちの研究所で1番大活躍だったクセに。

 聞いたぞ、対抗戦で派手なゴーレム使ったんだって? ゴーレム関連の授業で詳細を聞かせろって何度もせっつかれたよ。

 先生はなんか知ってるみたいだけど、教えてくれなくてね」


 そう言いながら、ベル先輩が輪の隅っこで一休みしているヘドロの様なスライムを一瞥した。

 すると、自分に話が飛び火した事を感じ取ったピカティニ先生が、面倒臭そうに口を開く。


「私は少し手伝っただけだ。 全体像は把握しとらん」

「またまた」


 ベル先輩が”そんなわけ無いでしょう”といった表情になる。

 事実、そんなわけはない。


『ピカティニ先生、先輩達に言ってなかったんだ・・・』

『らしいな』


 ピカティニ先生は一流のゴーレム技術者だ。

 あれだけガッツリ回路図を見ていれば、それがどんなもので、どういう風に動作するのかは簡単に理解できるだろう。


 それにあの時に放出された大量の魔力。

 あれ、周囲の話ではかなり強烈な”光の柱”として見えていたらしい。

 みんな祭りのイベントだと思って特に問題にはならなかったけど、少なくともまだ近くにいた筈のピカティニ先生が、その正体に思い至らないわけがない。

 つまり先生は俺達のことを黙ってくれているのだ。

 ガブリエラの”策略”により、俺達が準王位スキル保有者として知れ渡った今、先生が知っている中でもう隠すような事は無いはずなのに。


『それでも、俺達に黙って話す気はないって事だろうな』

『・・・』


 モニカが、ベル先輩達に対してなんでもないとシラをきるピカティニ先生を無言で見つめている。

 その様子を見るに、彼はきっと俺達が話しても良いと言わない限り、知らないと答え続けるのだろう。



 さて、そんなわけでピカ研の打ち上げが始まったわけだが。

 普通”打ち上げ”と言ってまず想像するような”飲み食い”は始まらなかった。


 ピカ研は特にそうなのだが、アクリラにおける異種共同体において”飲食”に関する事柄は、”生殖”に関する事柄の次に気安く触れるべきではない内容だ。

 食べるもの、飲むものは全然違うし理解も出来ないばかりか、相手に酷い不快感を与える恐れすらあるからだ。

 例えば今のメンバーだと、ルビウスさんとメリダとピカティニ先生の飲食物は俺達と全然互換性がないし、あえて誰とは特定しないが”人間”の価値観では口にするのも憚られるような物を摂取する必要のある者もいる。

 その他の”人類系”にしたって、ベル先輩は”亜人系”だしライリー先輩にしても動物型の”獣人”、モニカに至っては”なんだこれ”だ、当然、持ってる食文化はかなり違う。

 なのでピカ研では、空腹を感じたらこっそり隠しながら摂取するのが暗黙のマナーとなっていた。


 では、食事も飲み物もなくワイワイ騒ぐとすればどうするか?

 

 そりゃ、趣味の話で騒ぐしかないだろう。


「あー! やっぱりシャフトが重すぎた!」

「あ、それ分かります。 取り合いになるといっつも遅れてました」

「だいぶ削ったんだけどねー」


 ライリー先輩とメリダとルビウスさんが、小さなショベルカーの様なゴーレムを前に、議論を交わしている。

 今机の上には、不思議な形の大量の小型ゴーレム機械が並び、各々がそれを分解しながら意見を述べていた。

 

「これ以上、削れるもんなんですか?」


 モニカが今話題のシャフトと同じ物を取り出し、その恐ろしく精密で細い外観に感心しながら、ベル先輩に質問した。

 このシャフトをこれ以上削るなんて可能なのか。


『どう計算しても途中で折れるんだが』

「負荷に耐えられないと思うんですけど」

「うーん・・・」


 ベル先輩がシャフトを手に取りながら唸る。


あれは・・・もう、シャフトの重さとかそういう次元じゃない・・・」


 シャフトを見つめるベル先輩の目は、どこか遠いところを見るようだった。


「そこまですごかったか」


 俺達と同じく、”当日”に会場にいなかったピカティニ先生が感心した様にそう呟く。

 するとベル先輩は、口に苦虫を放り込まれたかの様な表情で頷いた。


「分かってるつもりだったんですけどね・・・他所と差があるって。

 でもどんな差が付いてるのか分からないほど、それが広いとは思ってませんでした」


 そう言いながら、今度はシャフトの先に繋がる歯車部を分解し始める。


『こっちは上手く行かなかったらしいな』

『ひどい負け方だったのかな』

『だろうな』


 今俺達が注目しているのは、祭りでピカ研が参加した”ゴーレムコンテスト”用のゴーレム達だ。

 これはアクリラのゴーレム研究所や同好会を中心に、各国の学生レベルのチームが集まってその技術を競うというもの。

 まあ、身も蓋も無いことを言えばエネルギーソースが魔力の”ロボコン”だ。


 軍事色の強い大会と、産業色の強い大会の2種類が並行して行われているが、ピカ研は規模が小さいので後者の側だけ。

 だが軍事向けの大会でも、直接戦闘を行うわけではない。

 現在、どこの場面でもゴーレム機械に最も求められるのは、指定された”行動”をいかに迅速かつ確実に行えるか、そしてそれにどれだけ少ない時間で対応できるかである。

 それはカシウスレベルの超高度ゴーレム機械でも、その辺の農家の農業ゴーレムでも変わらない。

 なので大会では、試合ごとに微妙に異なるルールと目標が設定され、その成績で勝者をきめる。


 今大会であれば、地面に埋められた様々な物品から指定されたものを選び出し、別の場所に適切に埋設するというルールだ。

 物品と配置、埋設箇所は試合ごとに変わり、ゴーレムは何体使っても良いが、1試合で使える魔力量は俺達の通常砲撃で換算するなら、1チーム全体でだいたい0.5発分、最大出力は1%くらいまでと決められている。


 この魔力量の制限というのが結構ミソで、全て量と出力で解決する俺達だとロクに何も出来ずに終わってしまうが、優秀な技術者なら1軍団動かす事だって夢じゃない。

 実際、ピカ研が用意したゴーレム機械は全部で120機にも及ぶ大編隊だ。

 想定される形状ごとに特化した機体を用意して、現場で細かい調整を行いながら投入するというのが定跡なのでそうしたまでだが、それでも足りなかったらしい。


「どこに負けたんですか?」


 モニカが問う。

 するとベル先輩が苦々しげに答えた。


「”ゲネルグローム”」

「あ・・・」


 モニカが察したような声を出す。


『”そこ”か・・・』

『”そこ”なんだ・・・』


 ゲネルグローム研究所は、アクリラでも最古のゴーレム機械専門の研究所。

 今、ゴーレム機械の技術では1番とも言われている名門中の名門だ。


「ゲネルグロームっていうと・・・セルゲイ先輩のとこですよね?」

「まあ・・・そうだな」


 対抗戦の選手にも選ばれ、ラビリアのフェリペ・ロッシとゴーレム決戦を展開していたセルゲイ・グルシュコ先輩は、ゴーレム機械の天才だ。

 その戦闘での実力は、俺達も目の前でまざまざと見せつけられていた。

 そりゃ単純な戦闘力はデバステーターの方が強いけど、それは膨大な魔力と圧倒的なリソースがあるからなだけで、仮にセルゲイ先輩にそれだけの物があれば確実にデバステーターを50機は用意できた事だろう。

 いや対レオノアに特化した高性能機を100分の1のリソースで準備したか。

 そしてそんな選手が紛れ込んでいるチームという事は・・・


「やっぱり、持ってる物が違うのかな」


 ベル先輩は力なくそう言いながら、自分の手を見つめていた。

 それをモニカがショックを受けたような目で見ている。

 そこに、いつも俺達に色々教えてくれた、”なんでも知っている先輩”の姿はない。


 だが、そんな神妙な空気を歴戦のスライムは一笑に付した。


「なにを当たり前の事を今更」

「ピカティニ先生?」

「技術も経験も向こうが上、ついでにゴーレムスキルも向こうが上。 そんなもの初めから分かっておることだろ。

 技術者にとって重要なのは”製品”だけだ、そこで負けたことだけを悔しがれ」


 ピカティニ先生はそれだけ言うと、疲れたように萎む。

 どうやら激励のために結構無理したっぽい。

 まだ万全な体調ではないはずなのに、ベル先輩の様子に口を挟まずにはいられなかったのだろう。

 だがこう見えて、結構熱い性格らしいとは意外だった。

 そして、それを見たベル先輩の顔には元気が戻っていた。


「はあ・・・すいません才能に逃げてました。 モニカも、ビックリさせちゃったな」


 そう言ってベル先輩はサメ顔をニヤリとさせながら(こわい)モニカの頭をポンポンと軽く叩き、反対の手で部品を弄る。


 一方、こちらのそんなやり取りには微塵も関心を示さなかった他の3人は、いつの間にか簡易的なフィールドを用意してゴーレムの動きを確認していた。


「これなら間に合うか!?」


 ライリー先輩が唇を舐めながら、今行った調整の結果を見つめている。


「だいぶ早い! あーでも遅い!」


 その動きの一つ一つにメリダが感想を漏らし、ルビウスさんが冷静に確認している。


「でもこの様子なら、もう少し余裕はありそうね。 もっと早いペースくらいで動作させても良かったかも・・・あ!?」


 その時、大きな金属の破断音が研究所に響き、同時に動作中のゴーレムが勢いよく弾け飛んだ。


「うわぁ!?」


 飛んできた破片が直撃したメリダが驚きの声を上げる。

 さらに、俺達の目の前を歯車が手裏剣のように通過したではないか。


「ライリー! どんな設定で動かしてんだ!?」

「いや、”ゲネル”はこれくらいのペースで動いてたからどんなもんかと。 すまんメリダ、怪我してないか?」

「あー、この辺傷になってません? ねーモニカ、ちょっと見てよ」

「どこ?」

「ここ。 この奥」


 メリダが制服の襟を引っ張って伸ばし、その向こうの背中の様子を見せる。


「なんともないと思・・・ちょっとまってね『ロン』」

『おう、【透視】だな』


 その瞬間、俺が【透視】スキルをオンにして、巨大な芋虫の透視図が大写しになる。


「うーん・・・見た感じ大丈夫そう」

「あー、それなら良かった。 傷になったら黒ずんじゃう所だったよ」

「あはは、メリダって肌綺麗だもんね」

「結構気にしてるからね」


 大した問題にはならなかった事に、メリダとモニカが2人して喜び、その様子に周りが安堵する。

 ただし安全確認もせずに動作させた事について、ライリー先輩達3人はピカティニ先生とベル先輩からクドクドと苦言をもらう羽目になった。


「そうだ、モニカは次も”選手”に選ばれそうなのか?」


 ふとベル先輩がそんな事を聞いてきた。


「”次”ですか?」


 モニカが不思議そうに返す。


「ほら、モニカはその・・・”勇者”ってのに勝ったんだろ? って事は次は生徒の最強格になるわけじゃないか。

 やっぱり出ないとまずいんじゃないか?」


 ベル先輩が雲をつかむような話といった感じでそう言う。

 どうも俺達が勇者に勝ったことに実感が持てない感じだ、いやこの分だと勇者がどれくらい強いのか分からないといった感じか。

 良くも悪くもオタクの集まりだし、戦いに縁遠い研究所なので詳しくないのだろう。


 するとモニカは、愚問だとばかりにピシャリと言った。


「対抗戦は出ません」

「ん? 出ないのか?」


 ベル先輩が驚きの顔を作る。

 だがモニカの腹は決まっていた。


「大変だし、緊張するし、痛いしで、楽しくないです。

 祭りだってあんまり回れなかったし、ピカ研の出し物も出れなかったしで、良いこともないし」


 モニカが溜まっていた不満をぶち撒ける様にベル先輩に愚痴る。

 まあ、確かに今回の対抗戦は必要だったとはいえ、無理難題を前に辛かったのも事実だ。

 選べるなら、勘弁してほしいというのが率直なところだろう。


「だから次は選ばれても、絶対に辞退します」


 その考えは鉄よりも硬いとばかりにモニカが言い切った。


 だが実際、中等部の俺達は出場義務はなく、出るとしたら誰かの”代理”ということになる。

 幸いなことに次回大会の”正規メンバー”に選ばれそうな知り合いは、ルシエラとヘルガ先輩くらいのもので、性格からして2人とも俺達を指名するようなことはないと思う。

 しかも、もし仮に誰かから指名されたとしても断ればそれでいい。

 今回だってガブリエラに”命をくれる”と言われなければ、別に出なくても問題はなかったのだ。


 短い中等部生活、祭りは祭りらしくちゃんと謳歌しておきたい。

 まあ出場が半強制される高等部に上がっても、うちの学年にはルーベンという頼もしい”避雷針人身御供”がいるので、成績をちょいちょいと操作してやれば最終学年以外は突っぱねられるのだけど。


「それに、わたしが出なくても問題ないくらい、アクリラは強いです」

「はあ・・」


 言葉の最後に消え入るように「ルシエラもいるし」と呟いたモニカを、ベル先輩が不思議なものを見るような目で見つめる。

 それを見たモニカが若干心配そうな声で俺に確認してきた。


『・・・ねえ、”出たくない”のは普通なんだよね?』

『だと思うぞ、少なくともルシエラはかなり嫌がってる』

『それって参考になると思う?』

『・・・・』


 そういや、我が姉貴分ながら、こういうことに関してはあんま参考にならない気がする。

 ひょっとして、みんな嫌々参加していたのは俺達の勘違いで、本当は憧れのポジションだったりするのか?


 だが少しして、ベル先輩は納得したような顔になると、俺達の肩を掴んで力強く揺さぶった。


「それじゃ、今年は頼むぞモニカ。 僕も最後の年だからな、勇者を倒したお前のゴーレムには期待してる」


 そう言いながら、嬉しそうにゆさゆさと俺達の上半身を揺さぶる。

 身長2m超えのベル先輩に揺さぶられたとあって、俺達の視界は上下左右に大きくブレたが、素直に向けられた信頼の感情に、モニカも俺も嬉しさ半分、責任感ともいえないレベルの緊張半分といった感情を覚えたのだ。


 さて、その言葉が切っ掛けだったのか。

 それとも自分たちのゴーレムの改善点が出てこなくなったのか。

 いつの間にかピカ研の皆の関心は、俺達が対抗戦で使用したゴーレムへと移っていた。


 だがこっちはこっちで、些か”問題”もある。


「こっちが”グラディエーター”で・・・それでこっちが・・・」

「”デバステーター”」


 真っ黒な残骸の山を指差しながら確認するルビウスさんの言葉に、モニカが補足を入れる。

 俺達の決戦兵器はレオノア戦でその役目を終え力尽き、今は無残な骸を晒していた。

 一応、皆で用途ごとに残骸を選り分けていたが、あまりにバラバラでグチャグチャなので、指定は”これ”ではなく”この辺”なほど。

 入院していたので見るのは3週間ぶりだが、久方ぶりに見ると無残さに拍車がかかってる気がするから不思議である。

 この中で唯一無事なのは、レオノア戦に使用しなかったロメオ用の強化ユニットくらいか。


「・・・で、こっちが”ドラグーン”と、メリダも手伝ったんだっけ?」

「はい、設計とかだけですけど」


 ルビウスさんの質問にメリダが、気恥ずかしげにそう答える。

 でもメリダはよくやってくれた。


「メリダがいなかったら、こんなに強くはできなかった。

 デバステーターなんて、たぶん形にもならなかったと思う」


 モニカがそう言いながらメリダの体に抱きつく。

 すると俺達の友人は”どうだ”とばかりに、自慢げな顔になった。

 でも実際、突貫工事とはいえ俺達がデバステーターを用意できたのは、事前に各パーツごとの大まかな設計をメリダと一緒に終えていた事が大きい。

 普段から、腕だけとか足だけとかといったレベルで試行錯誤を行っていたので、それを元に力任せに組み上げることで、形を作ることができたのだ。


 とはいえ、それだけに課題も多い。


「そうだメリダ。 やっぱり”つなぎ目”の強度が足りなかったよ」

「あ、やっぱり。 肩に負荷がかかり過ぎるやつでしょ?」

「うん、なんとか強化装甲の修復機能で乗り切ったけど。 あれ相当無駄だったと思う」


 モニカがとりあえずレオノア戦で感じた問題を友人に伝える。

 この問題は、デバステーターが持っている、大きな弱点で、セルゲイ先輩ならもっと少ない魔力で再現できただろうという根拠でもある。


 だが残骸を前に、思案の海に沈もうとした俺達に別の角度から声がかかった。


「修復機能? どんなの使ってんだ?」


 と、”2.0強化装甲”の主要機能にライリー先輩が興味を示したのだ。


「えっと、こんな感じで・・・」


 モニカが図面の一つを先輩に見せる。

 すると狼顔が大きく歪んだ。


「”直しながら壊す”!? どういうことだ!?」

「えっと・・・」


 そこからしばらくの間、モニカが強化装甲の概要を皆に説明する。

 皆、モニカの言葉に食い入るように聞き入っていたが、その表情は愕然といったものだった。


「なんちゅう魔力の使い方・・・」


 凄まじいまでの大魔力と、巨大スキルの膨大なリソースの理不尽なまでのゴリ押しに、ベル先輩が呆れながら感心した声を出す。


「モニカ、それ特許取っておけよ。 絶対誰も使わねーけど、そこら中に名前は残るぜ」


 とライリー先輩が皮肉気味に茶化す。

 いや、表情からして結構本気か。


「いやー、”準王位”とは聞いていたけど。 すんげー無茶苦茶なんだな・・・」


 と染み染みと呟いている。

 一方、ベル先輩はまたも謎の納得を得たようだ。

 

「こりゃ確かに、普通のとこに居られないだろうな・・・先生は知ってたんですよね?」

「巨大なスキルとだけは聞いておったが・・・」

「なんだ、やっぱり知ってたんじゃないですか」

「だが、実際に目にしてみると、自分の常識がちっぽけだったと言わざるを得んな」


 面白い事に、皆俺達が”準王位スキル”で勇者に勝って、実はアルバレス貴族だったという話を聞いてもなんともなかったのに、その”副産物”である強化装甲を見た瞬間、この反応である。

 そこから、この研究所にいるのが自分の興味のないことには、とことんどうでもいい人達なんだろうなという事が窺えて面白い。


 それもこれも、もう少なくとも”能力”に関しては誰にも隠す必要がなくなったからこそ。

 この研究所の住人の興味はそれだけなので、俺達は彼らに対してついに何も隠す必要がなくなったと言えた。


 これまではメリダと相談はできたが、彼女だってまだまだ見習いの”ヒヨッコ”・・・いや”幼虫”だ。

 思えば自分達の作品にあれこれと専門家の意見を貰うというのは、非常に新鮮なことだった。


「図面あるか?」

「一部は・・・・」


 ベル先輩の問にモニカが手持ちのバッグの中から、グラディエーターの図面を取り出す。

 するとそれをライリー先輩が瞬間的にひったくり、近くのテーブルの上に大きく広げた。


「さーて、これでも見ながらこれ修理と行こうぜ」


 まるで新しい酒のボトルを開けるかのようなノリで、ライリー先輩が宣言する。

 すると、全員が一斉に図面に群がって、あれやこれやと議論を始めたではないか。

 皆、新しいおもちゃでも見つけたかのように目を輝かせている。


「これから修理するんですか!?」


 先輩達のノリに驚いたモニカがそう聞くと、ベル先輩が呆れた声で答えた。


「何言ってんだモニカ、どんな構造か理解するには直すのが一番手っ取り早いだろ?」

「あ・・・ええっと」


 どうやら先輩達は、俺達の”決戦兵器”がどんなものなのか丸裸にする気で満々のようだ。


『どうしよう・・・』

『やらしとこうぜ、害はない。 それに本職の専門家がどう組むのか興味あるし』

『そ、そうかな・・・』


 だが当人たちは、俺達の許可などハナから取る気は無いようで、皆好き勝手に残骸を漁り出し、図面と付き合わせて意見を交わし始めた。

 モニカに飛んでくる言葉など、どういう構造かを確認する質問と、”ここはこうした方がいい”という手厳しい意見ばっかり。

 それに対し、モニカは俺と相談しながら必死に答えて回るのに精一杯だった。


 だが、さすが本職勢。

 あっという間に残骸の特定が終わったかと思えば、もう個別の修理が始まっているではないか。

 この分だと、少なくともグラディエーターに関しては直ぐに修理できてしまうかもしれない。

 いや、


「モニカ、制御用のゴーレムコア分けてるのに意味はあるか?」


 ベル先輩がインターフェイスユニットに付いている剥がれかけのゴーレムコアを指差しながら聞いてきた。


「えっと、わたしじゃそれしか扱えなくて・・・だから並べて補おうと・・」

「じゃあ、分ける必要はないな。 全部まとめちまおう、その方が早くて効率的だし、高い出力でも安定する。

 先生! コアの台座お願いします。 こっちで回路組むんで」

「ほう、面白そうだな。 どれ、補助動力と蓄魔機も組み込んでみよう。 展開が早くなるだろう」


 ノリノリで”魔改造”を始める、サメ顔の亜人と泥スライム。


 どうやら修理どころか、前よりも良いものができそうだ。


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